#07 夢の跡
甲子園から帰ると同時に、俺たち3年は引退となる。
部には籍が残ったままだし、一応まだ秋季大会とかの公式戦もあるから本人が希望すれば選手としても残れるし練習も参加自由となるけど、基本的には次の年の戦力を考慮して、2年生主体のチームとなる。
なので俺は、残りの夏休みは休みたくて、直ぐに実家に帰省した。
本当は監督の話では、俺個人への取材申し込みが多数あったそうだけど、全部断った。アジア選手権(U18)日本代表の強化選手の候補にも挙がったけど、それも辞退した。
復讐だと信じてた目標を達成しちゃったら、今度は俺が腑抜けになっちゃったんだよね。2回戦はまだ緊張感を維持出来てたんだけど、負けた途端、糸が切れたようにプッツリと。
取材とか日本代表とか興味湧かなかったし、メンドクサイだけで煩わしいとしか思えなかった。
なのに、折角の休暇で帰った実家でも、近所中の人が引っ切り無しに来るから結局休めなかった。
近所を少しランニングしてただけで「甲子園カッコ良かったぞ!コレもってけ!」とか言って持ちきれないほど野菜とか渡されるし、名前も知らないおっさんに親戚ヅラされるのもうっとおしいし、持ち帰った甲子園の砂を見せてくれって言われるのもマジでウザかったから、サインを求められたら全部へのへのもへじを書いといた。
アツコの近況は、母さんが教えてくれた。
流石に全寮制の予備校にぶち込まれることは無かったらしいけど、スマホは没収にお小遣い大幅カットで、俺の寮生活と大差ない囚人生活を強いられてるらしい。
因みに、俺の甲子園での活躍に関しては、おばさんからは労いの言葉があったけど、アツコからは何も聞いてなさそうだった。
夏休みの終わりが間近に迫った8月下旬、そんなアツコが俺を訪ねてウチにやってきた。
居留守使いたかったのに、応対した母さんがそんな気遣いをするわけもなく、「カナメ~!アツコちゃんが来たわよ~!」と呼んでくれちゃったから、仕方なく俺も玄関に顔を出した。
玄関だと母さんに会話聞かれるのがイヤだったから、外に連れ出して、散歩しながら話を聞くことにした。
何となく、ガキの頃よく一緒に遊んでた近所の河原に向かって歩いた。
去年の年末に別れ話で最後に会った時は、今時の女子高生らしく服装も髪型もお洒落してたのに、この時は髪型は中学の頃と同じ量産型ショートカットで服装もヤボったい上下赤いジャージだった。
どうやら、スマホだけじゃなく服装や髪型のお洒落も禁止されてるらしい。
アツコの話は、1回戦も2回戦も甲子園まで応援に来てたって話だった。
おばさんからはそんな話は聞いてなかったから驚いて、思わず「信用されてねーのによくおじさんおばさん許可したな?」と聞き返してしまった。
どうやら、おじさんが仕事休んで同行してくれて甲子園に行けたらしいんだけど、アツコの中では『カナメが私との約束守って甲子園出場を果たしてくれた!』ってことになってるらしく『だから私も約束守るために甲子園に応援に行く!』ってことで、強引に甲子園まで行ったらしい。
おまけに『私の為にホームラン打ってくれて嬉しかった』とか言い出す始末。
で、そろそろヨリ戻したいっていうのをぷんぷん匂わせていた。
まぁそれを言われる前に「いや、そんな約束よりももっと大事なこと守れよ」と突っ込んどいた。
最初意味が分からなかったのか、ポカーンと間抜けな顔をしてて、多分アツコの中では浮気してたことへの罪悪感が無かったんだろう。
コイツ俺以上に馬鹿だなぁって見つめてたら、俺の冷めた態度で漸く意味を理解したのかエグエグ泣き出した。
「だって寂しかったんだもん」とか「大人っぽくてその時はカッコイイって思ったんだもん」とか「エッチの時も優しかったんだもん」とか言い出したから、「完全にヤリマンビッチの言い訳じゃね?」って再び突っ込むと、ブチ切れた小学生みたいに泣き喚きながら両手振り回して殴りかかって来たから、出足払いで転ばせて、「ビッチなんかとヨリ戻すわけねーだろ!バーカバーカ!」とその場に放置して走って逃げた。
アツコの泣き顔見ても、あんまりゾクゾクしなかった。
でも、ちょっとだけ元気でた。
おしまい。
野球をするなら、こういう具合に バネ屋 @baneya0513
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