前世ルーレットの罠

クロノヒョウ

第1話




「ただいまぁ」

 あら、愛するパパのお帰りだわ。

 今日は早かったのね。

「お帰りなさいパパ……まあ、それどうしたの?」

「うん、ママみたいにあまりにも美しかったからさ。はい、プレゼント」

「わあっ嬉しいわ! パパありがとう!」

 パパが持っていた大きなバラの花束を受け取った。

 とっても綺麗!

「でもどうしたのパパ、突然」

「うん、実は……」

 パパが話し始めた。

「さっき商店街を歩いていたら占い師のようなお婆さんに声をかけられてね」

「占い師?」

「うん。テーブルの上に小さなルーレットが置いてあって『前世ルーレット』って書いてあったんだ」

「へえ」

「それでお婆さんが回してみろと言うから回したら……」

 パパはお婆さんに言われたそうよ。

 あなたは前世では散々浮気を繰り返し、何人もの女性に恨まれ殺されたって。

 だから現世ではちゃんと奥様を大切にしないと同じ目にあうぞって怒られたみたいね。ふふ。

「ママ、いつもありがとうな」

「私の方こそ、いつもありがとう、パパ」

「アカリは? もう寝た?」

「ええ、今日は何だか疲れてたみたいね。幼稚園でたくさん遊んだのかしらね、フフフ」

「そっか。じゃあ風呂でも入ってくるか」

「ええ」

 パパがお風呂に入ったのを見て私は急いでアカリの部屋に行ったの。

「アカリ! あなたなんでしょう? 占い師のお婆さんに変身するだなんて!」

 私は小さな声でそう言いながらアカリが寝ているベッドに腰をおろした。

「ママ……うまくいった?」

「ええ! ありがとうねアカリ!」

 眠たそうな目をこすりながら体を起こしたアカリを強く抱きしめた。

 ああ、なんて愛しい我が子。

「ママが落ち込んでたから……でもよかったねママ」

「フフフ。アカリはママにそっくりね」

「本当に? 嬉しい!」

「さあ、起こして悪かったわね。お休みなさい」

「ううん……お休みなさいママ」

 愛するアカリが眠るのを見守っていた。

 本当に私とそっくりな魔女になってくれたのね、アカリ。

 思えばパパと出会った頃だった。

 パパは忘れているみたいだけど、私も占い師のお婆さんに変身してパパに前世ルーレットを回させたのよね。

 今一緒にいる女性とは前世でも恋に落ち結婚して生涯幸せになった運命の人だって。ふふ。

 パパはすぐにプロポーズしてくれたわ。

 なのに最近、帰りが遅いと思ったら友だちが教えてくれたの!

 パパが浮気してるみたいだって!

 しかもその時アカリに偶然聞かれてしまってどうしようかと思ったわ。

 落ち込んでいたら、まさかアカリが同じように前世ルーレットを使ってくれたなんてね。

「ふふふ……」

 寝息をたて始めたアカリのおでこにキスをして、私はアカリの部屋を出た。

「ああ~、さっぱりした~」

 あら、ちょうどパパがお風呂から出てきたわね。

「パパ、ご飯は?」

「うん、食べる」

「はぁい」

 私は急いで食事の準備を始めた。

 この美しいバラも花瓶に飾らなくちゃね。

 パパが前世を信じる純粋な人間でよかった。

 あ、教えてくれたお友だちにも報告しておかなくちゃね。

 パパの会社にいる、同じ魔女のお友だちに。

 そうだ!

 世の中の男性にもこっそり教えてあげちゃおうかしら。

 あなたの周りにも、魔女はたくさんいますよって。

「ふふ」

 悪いことをしたら、どこかから魔女が見ているかもよ。

 気をつけてね。

 ほら!

 あなたのすぐ後ろに占い師のお婆さんが……。

 ふふふふふ。



            完






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