転生したらヒロインの弟だった お試し版

mekia

姉が堕ちた

俺はケント。


前世の記憶がある転生者だ。

よくある暴走トラックにバーンと跳ねられて死んだ―

と、思ったらこの世界で赤ん坊として生まれ直してた。


テンプレだろ?

俺もそう思う。


異世界転生だーやったー!

って思ってたんだが、どうもこの世界俺が生前にやってたゲームに似てんだよなぁ…


その理由っていうのが――


「ケント?なーに黄昏てんのー?うりうり」


この黄昏ている俺をハスキーボイスで揶揄いながら後ろから抱き着いて柔らかい胸を押し付けてくる女性―


俺のだ。


彼女の容姿は燃えるような赤い髪を前世でいう所のエアリーロングのような形の髪型をし、瞳は釣り目がかったパッチリ二重、唇はぷっくりぷるんぷるんで全体的にシュッとした感じの小顔で胸は恐らくDはあるだろう。

スタイルも抜群で足も長く、身長こそ成長期の俺がやっと抜いたが、ついこの前までは彼女の方が高かった。

尚、今はディアンドルドレスの様な服を着ているが、これを鎧やローブに変えて武器を持たせたなら俺はまごうことなく彼女は俺が前世でドハマリしたゲーム―


『ドラグーンサンクチュアリ』のシェリーであると気づいていただろう。


女性主人公推しの俺は当然彼女で何度もそのゲームをやった。


何度となく酷い目に合わせてしまったが、トロフィーコンプまでやり切ったぜ


中でも一番つらかったのが最高難易度デスで、チュートリアルから通しですべてのイベントをこなし、なおかつすべてのアイテムを所持した段階で仲間を連れた状態で仲間も一度も殺されずにラスボスと隠しボスまで倒すとかいうトロフィーだった。


何が辛いって、難易度デスは一撃死なんだ。

雑魚敵のスライムや野犬、カラスなんかにつつかれただけでも即死だ。

鬼だろう?クソゲーだろう?理不尽だろ……?

しかもNPCたちは操作不能で勝手に回避や防御はするが、欲張って攻撃するからすぐ死ぬんだ……

何度コントローラーをぶん投げたか…


このゲーム、アクションRPGなんだよな。

ADVパートも勿論あるが何故かSLGパートまであって、しかもそのSLGパートのバランス調整が神がかっていると大人気になったせいで後日そこだけ販売されてマイナーだが世界大会まで開かれてた。

俺は地方大会ベスト16だった。あんまり頭使うの得意じゃないんだよ。


「おやぁ?こんなにかわいいお姉ちゃんを無視かぁ~?

おっぱいまであててあげてるのに~」


そろそろ現実逃避回想はやめよう


「姉ちゃん?俺たち血のつながった姉弟なんだからそういうのやめよ?」


腕を引き剥がしてぶーたれながら唇を尖らせている彼女と正面から向き合う。

すると俺に両腕を掴まれてる姉と目が合った。


「えへ~」


途端に破顔してニコニコとした笑みを浮かべる我が姉を抱きしめたい衝動に駆られるがここはグッと我慢の子だ。


―俺たちは姉弟俺たちは姉弟―


「ねえケント?」


「なに?」


「子供の頃の約束、覚えてる?」


子供の頃の約束…?

腕を離して顎に手を当てて本気で考えるが―

おやつのプリンは半分こする約束か?

それとも姉ちゃんのおかずは奪ってはいけない約束か?

それとも―


「えーっと…ごめん。いっぱい色んな約束したからどれのことか…」


「あーっ!そんなこというんだ?!……ホントに忘れちゃったの…?

私と結婚する約束…」


………?

小声で何か言ってたけど聞き取れなかった…

聴力をもっと鍛えておくべきだったか?

「姉ちゃん?どんな約束だったか教えてくれない?」


「やーだよっ!ケントがちゃんと思い出すまで抱き着き攻撃やめないから~♪」


「ごめんってー」


「思い出せるようにギュってしたげるからおいで?

今ならだれもいないよ?」


そう言って腕を広げて待ち構える姉ちゃん


「…むぅ…」


辺りをきょろきょろと見まわし、恥ずかしいが推しを独り占めできる機会を逃せるほど大人ではないので抱き着きに行った。

いってしまった…!


「んー…いいこいいこー」


姉の甘い匂いの中にほのかに香る汗のにおいが鼻をくすぐる


「シェリー」


「ひゃっ!?」


腕に少し力を込めて彼女の髪と首筋から漂うフェロモンを鼻いっぱいに吸い込めば最早俺の愚息は臨戦態勢だ


「………ねえ…当たってるんだけど…」


「っ!?ご、ごめん姉ちゃん!!」


「あっ…」


慌てて離れると名残惜しそうにしつつも耳まで真っ赤にする姉ちゃん。


「か、帰ろうか」


「う、うん………手、つなご?」


「あ、う、うん」


ホント、俺の推しはサイカワだなぁ!





「ケンちゃんシェリーちゃんおかえりー。もう少しでごはん出来上がるから手を洗ってらっしゃいな」


「「わかったー」」


母にただいまを言い、手洗い場で二人で仲良く手を洗ってうがいをする


この習慣は我が家にはなかったものだが俺が毎回続けていたらいつの間にか家族全員やるようになった

そのおかげか、うちの家族全員風邪知らずだ。


「ではいただきましょう」


「「「いただきます」」」


今日は珍しくお肉を使った料理だった。大変美味しゅうございました。


夕飯を食べ終わって部屋で一息ついていると、姉ちゃんがお風呂セットを持ちながら俺の部屋のドアを開けた。


「ケントー、お風呂入るけど一緒に入るー?」


「うーん…パスかなー。

って、待って待って?いつも入ってないよね?」


「ちぇー。小さい頃は姉ちゃんとじゃなきゃヤダーって散々駄々こねたくせにー」


「俺もう14だからね?

流石におかしいでしょ?」


「ぶーぶー」


残念そうな姉に俺は心の中でほっと息をついた。

多分まだゲーム開始前だからかそこまでではないが、姉ちゃんの体は目の毒だろ。


母は次の日早朝勤務らしく早めに就寝してしまったので、姉が風呂場で寝こけないようにリビングへと移動しておく。


「ねえーケントー!バスタオル用意するの忘れちゃったからとってー!」


「あ、うーん!わかったー!」


前世でもよくあったなぁ…

まあ一人暮らしだったから気兼ねなくマッパでうろうろしたが。


「ほい姉ちゃん」


「あ、サンキュー。ねね、身体洗ってあげるからおいでよ」


「姉ちゃん?」


ジト目で睨むとペロっと舌を出して浴室のドアを閉める姉ちゃんを見送った後、ふと脱衣籠を見たら姉ちゃんが今日身につけていた下着が―


「ケント?いるー?」


「わっ!?い、いるよ?!なに?!」


「んぅ?なんでそんな声出してるの?お母さん起きちゃうよ?」


睡眠を妨害された母さんは怖いんだ…

俺は慌てて自分の手で口をふさぐと、そそくさとリビングへ


水を一杯飲んで心を落ち着けていると姉ちゃんが風呂から出たらしくパジャマを着てリビングへと来た


「おまたせー。髪乾かしてるから入っちゃいなよ。

あ、私の入ったお湯だからって飲んじゃダメだよ?汚いから」


「飲まないけど?!」


母を起こさないように小声で否定して自分も風呂へと入る


「うん……そりゃ姉ちゃんのソープの匂いとか残ってるよな…」


明鏡止水明鏡止水と唱えながらダッシュで体を洗い湯船へ。

昔からの習慣で肩まで浸かって100数えちゃうんだよな…


とはいえ昔はいーちにーいだったが今はイチニサンシゴロクのように速さが全然違うんだけどな


「ふぅー。いいお湯だった」


風呂から出て牛乳をくいっと飲み、水で口をゆすいで指で歯を磨く。

この世界歯ブラシがないんだ。

口の中が気持ち悪いからどうしてもしたくなっちゃうのは仕方ないよな?


「あ、ケントおかえり」


「あれ?姉ちゃん?」


俺の部屋のドアを開けたら姉ちゃんが俺のベッドに座ってた


「ケント、大事な話があるの」


「んん?なに?」


「私ね」


言い淀む姉の姿を見てなんだかそこはかとなく嫌な予感がする


「うん」


「竜騎士学園に特待生として招かれたから来年の春から入学しようかなって…」


ADVパート!?

竜騎士学園パートはタイトルの『ドラグーンサンクチュアリ』におけるADVパートの事で、将来一緒に戦ったりするパートナーやパーティ、または相棒の飛竜や竜を仲間にすることが出来るパートのことを言う。

まあ主人公はそこに恋愛要素はなく、ただ単に仲間や相棒を集めようみたいなパートだ。


まあ…うん。このパート、


周回するうえでこんなパート毎回やってられないよな。わかる。

しかも前述のとおり難易度デスだと仲間がいない方がはるかに楽だし、その仲間も冒険者や騎士といったキャラの方が強く、相棒の飛竜も野生のを捕まえたほうが強い。そんな訳で―



だが何故このタイミングで姉が言ってきたか……


案外早い段階で分かってたけどどうやって切り出せばいいかわからず入学のひと月前になってようやく切り出す勇気が出た、ってところだと思う。


「へ、へぇー…

姉ちゃん頭いいし強いから特待生になるのは当たり前だよね」


「でしょー?姉ちゃんさいきょーかわいいからね」


「うんうん。それで、出発はいつ?」


「むぅー。入寮準備があるから明後日…かな」


「えっ…そんなに早いの?」


素直に驚いたがよく考えればそうだ。

ADVパートでは勝手に画面が切り替わるのですぐ次の行動に動けるが現実はそうはいかない。

竜騎士学園は首都であるアンヘルに在る為、首都の東、友好国であるバルジ公国との国境に位置するウインド辺境伯領にある我が家からはどんなに急いでも馬車で10日以上はかかる。


「ほら、アンヘルって遠いじゃん?」


「あー…確かに……」


アクションパートになるとウインド辺境伯領に戻ってくるのはどんなに早くてもクリア後。しかも隠しボスであるバハムートと戦うためのキーアイテムを回収する為に立ち寄る程度だ


「だからね?今日は一緒に寝よ?」


「うん、いいよ。……え?」


「やったっ!男に二言はないよね?」


万歳して喜ぶ姉ちゃんを尻目に俺はこれから訪れる悶々とした夜に歯ぎしりする


「むむむ。おのれシェリー、謀ったな!」


「むふふー。お主もまだまだじゃのう~」


姉ちゃんのほうが今日は一枚上手だったか


「じゃぁ~そろそろ寝よ?」

「はぁー。わかった。明かり消すよ?」


ベッドサイドにある明かりを消して姉が先に入っているベッドへともぐりこむ。

端の方で朝まで耐えれば大丈夫だろ


「うん」


暗闇で二人の息遣いだけが聞こえる


「ねえケント。寝た?」


「まだ」


ベッドの端で耐えて数分で若干プルプルし始めていた俺はおもむろに抱き寄せられる

姉ちゃんの匂いと石鹸の匂いが混ざって頭がくらくらしてくる


「ね、忘れちゃった子供の頃の約束。教えてあげよっか」


「え?」


なんだか今夜の姉ちゃんはいつになく儚げに見える


「大きくなったら結婚しようって約束」


「あっ……」


昔の姉ちゃんはずっと泣き虫だった。

上手く輪に入れなくてぐすぐす泣きべそかいてるのを母の腹の中にいる時からずっと聞いてたんだ。

元々は子供らしい高めの声だったのだが、声変わりで今のハスキーボイスになっていじめられてたっけ。

いじめっ子と俺が喧嘩したら顔面青あざだらけの状態で姉ちゃんに泣きながらしこたま怒られて俺の方が慌てたっけ。


だから子供ながらに精一杯背伸びして、弟だからとか関係なく一人の女性として好きだって大きくなったら結婚しようって約束したんだった。

何で忘れてたんだろう…


「思い出した?」


「うん。姉ちゃん、俺…」


「しぃー…」


姉ちゃんが人差し指を俺の唇にあてて黙らせたかと思ったら今度は目を瞑った姉ちゃんの顔が迫ってくる―


「シェリー、好きだ」


目を閉じた姉の唇に自分の唇を重ねて彼女の体を抱きしめる。

彼女とのキスは甘いリンゴのような味がした


「ぷぁっ…えへへ~。しちゃった、ね?」


「……姉ちゃんとのキスヤバイ…」


「でしょ~?姉ちゃん初めてだったんだから」


そう言って暗くてわからないが恐らく耳まで真っ赤の顔を俺の胸に押し付けて頭をぐりぐりしていたかと思うと、規則正しい寝息が聞こえてきたので彼女の額にキスをして俺も瞼を閉じると睡魔に任せて眠りの世界へと落ちていった―

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