三つの家

半ノ木ゆか

*三つの家*

 むかしむかし、飛鳥あすかに都があったころの話です。

 とある家に、母と三人の兄弟が暮していました。ある日、母が言いました。

「この家は、もうみんなで住むには狭くなってしまった。独り立ちして、仕事に励みなさい」

 兄弟は、それぞれ自分の家を建てることにしました。

 長男は、煉瓦れんがの家を建てました。彼は自慢気に言いました。

「見ろよ、この厚い壁を。狼に襲われても、へっちゃらだ」

 次男は、木の家を建てました。彼は得意気に言いました。

「どうだ、この太いはりは。野分のわきが吹いたって、びくともしない」

 三男は、草の家を建てました。地面に穴を掘って屋根をかぶせただけの、簡単なつくりです。長男と次男は笑いました。

「なんて遅れた家だろう。獣が来たら、喰われてしまうぞ」

「兄上の言う通りだ。嵐が来たら、吹き飛ばされるに決まっている」

 恥しがらずに、三男は言いました。

「昔ながらの家も、よいものだよ。二人も草の家に住もう。痛い目に遭っても、知らないぞ」

 けれど、長男と次男は知らんぷりをしてしまいました。

 月日が経ったある日のこと。それは、前触もなくやってきました。

 野は裂け、山は崩れ、海は津波となって浜を押し流しました。この国に、大きな災いが降りかかったのです。

 三つの家も、のきなみ壊れました。厚い壁に押し潰され、長男はひといきで死んでしまいました。太い梁の下敷になり、次男も息を引き取りました。ただ一人、屋根が軽いかやぶきだったおかげで、三男は少しの怪我で済んだのでした。

 ぺしゃんこになった家から這い出て、三男は一人空しく言いました。

「われわれは遠い昔から、かやなどの草を編んで家にしてきた。地震ないふるばかりのこの国では、それで事なきを得られたんだ。けれど、時が流れて、人々は昔ながらの習わしを忘れてしまう。誰もが家を堅くしたがって、屋根も壁も、瓦や石で造ることになるだろうね。そして、再びこの土がふるえたときには、多くの人が命を落すはずだ」

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三つの家 半ノ木ゆか @cat_hannoki

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