狂ったお茶会(5)

 お茶会が果てると、倫子と真雪は玄関前まで見送りにでてくれた。各自の車に乗り込む娘、ひとりひとりに挨拶をする。のフォードが一番最後だ。

「楽しいお招きでした。ごきげんよう」

「ごきげんよう。また明日、学校でね」

「またいつでも遊びにきてください」口を挟む真雪に、

「ここは真雪兄さまのおうちじゃないのよ」

 倫子が笑って真雪の腕を軽く叩く。そのときだ。後部座席のドアを開ける貢を真雪はちらと見て、

「貴様……黒田ではないか!」

 口調ががらりと一変し、軍人仕様になる。貢は即座に姿勢を正し、敬礼する。

「はっ、黒田貢であります。終わり!」

 これまでに聞いたことがない張りつめた声をだす。

「その恰好はなんだ。貴様、俺の部下になるのを断ってまで戻りたいといってた仕事とは、それか」

 真雪はざっくばらんな笑顔で言う。

「お兄さま、こちらの運転手さんとお知り合いですの?」

 倫子が問うと、

「ああ。朝鮮の師団にいた黒田上等兵だ。優秀でな、下士官にならないかと声をかけたのだが、あいにく振られてしまってな。そうか貴様、白川家に仕えていたのか。世間は狭いなあ」

「上杉中尉殿もご健勝そうで、なによりです」

「ああ。今は大尉でな、参謀本部づきだ」

 彼らがやりとりするのを見て、暁子は混乱する。

(え……貢は上杉さまの部下だったの? 下士官になるのを断った……?)

「貴様、しっかり励めよ。今度ゆっくり酒でも呑もう」

 上機嫌で真雪は貢の肩を叩くと、茫然としている暁子の様子に気がついて、ぼそりとつぶやく。

「なるほど……エム、ケイか」

 ぎくりとする。

「兄さま、何かおっしゃって?」

 首をかしげる年下のいとこに「いや、なんでもない」と真雪は答える。唇の端がわずかに上がっているように見えたのは、はたして気のせいだったのか、どうか。


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