真夜中さんぽ
森谷はなね
高校生が知り得ない時間
姉と殴り合いの喧嘩になった日。
その日、わたしは初めて赤信号を渡った。
深夜に家を飛び出して、そのまま人気のない、歩いたこともないような道を進んだ。警察なんかに見つかったら補導されると、内心少しだけおどおどしていた。けど、それ以上に家族への苛立ちの方が大きく、その怒りがわたしの家出作戦を続行させる原動力になった。
本来なら、高校生が出歩くことのない時間帯。
人も、街も、みんなが眠る世界は新鮮だった。わたしだけがこの世界に生きているような心地がした。もっと言えば、異世界に来たような。そんな感覚を抱いた。
そんな状況で、好奇心が込み上げる感覚と、燃え続ける感情が、自分の中でずっとせめぎ合っていた。
深夜のコンビニは揚げ物って売っていないんだ。初めて知った。
「絶対許したくない、家に帰りたくない」
ここ、街灯無いけど、月の光で道路が照らされてる。月ってほんとはちゃんと明るいんだ。
「きっとあの人たちにとっては、わたしなんていなくても変わらないんだろうな」
あ、猫。こんな夜中に。首輪はつけていないし、野良猫かな?
「悲しい。わたしばっかりこんな目に遭ってる。悔しい」
……あ、自販機。
ずっと歩き続けて行き着いたそこには、ちょっとだけ変わった飲み物が売っていた。お金を入れてボタンを押して、取り出す。ホットの飲み物だったからか、冷えた手には温かすぎた。
プルタブを開けて口をつけると、砂糖は感じないのに甘ったるい味がした。でも、美味しかった。
……そろそろ、帰ろうかな。
いつか多分、どうでもよくなるんだろうな。
今のこの言葉にできないぐちゃぐちゃした感情も、深夜の街を出歩く楽しさも、寂しさも。
わたしが警察に補導されない年齢になったら。
今度はこの時間帯に、わたしのことを大切にしてくれる人と、お酒を飲んで過ごしたい。
真夜中さんぽ 森谷はなね @minihana
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