第1話 出発前
任務が終わった後本部に戻ると、アルトレントは上司であるガーディアス・アルターランドに呼び止められた。
「みんなお疲れ様。よく頑張ったね。任務終わったばっかので疲れてるとこ悪いんだけど、アル――ちょっといいかな? 頼みたいことがあるんだ」
アルトレントはきょとんとした顔をしていて、状況が飲み込めていないようだった。
「アルトレントにだけですか? 俺達にではなく」
アルトレントの後方にいた黒髪の青年――クロードが不審そうにガーディアスに尋ねる。
「うん。アル個人に頼みたいんだよね。せっかくみんないるし、この場で話しちゃおうかな」
ガーディアスはサングラスをクイッと上に持ち上げた。
「みんなはアミラ村って知ってる?」
「確か東部にある漁村ですよね。風景とか海産物が有名だったと思います」
金髪ポニーテールの少女――チームメンバーのリリィが答える。
「そうそう。流石だねリリィ」
ガーディアスに褒められたリリィは嬉しそうにえへへと微笑んだ。
「それで、アミラ村とアルトレントに頼みたいことと一体何の関係があるんですか? あの村はこれといって特筆すべきこともない至って平和な村だったと記憶していますが」
クロードが疑問を口にする。
「それが最近そうもいかないみたいなんだよね。あっ、今から話すことは極秘だからね」
ガーディアスはそう言って語りだした。
「てなわけで、アミラ村にはアル1人で行って欲しいんだよねー」
ガーディアスの話を聞いたアルトレント達は、信じられないと言った顔でその場に立ちすくんでいた。ガーディアスの話は常識的に判断するのであれば、信憑性にかける内容で、この短時間では受け止めることは困難だった。
「俺は反対です」
ガーディアスが話し終わった後、間髪入れずにクロードが異議を唱える。
「どう考えてもアルトレント1人では危険すぎます。最低でも俺――いや、リリィや他のメンバーも何人か連れて行ったとしても、どうなるか分かりません」
「でも、うちの人手が足りないのはクロードだってよく知ってるでしょ?」
クロードの抗議を受けてなお、ガーディアスは飄々としていた。
「そんなことは分かってます。今回の件、失敗すればアルトレントだけじゃなく、この国どころか大陸中が脅威にさらされることとなる。アルトレントを連れて行く理由は分かりますが、アルトレント1人だけでは困難です。せめて俺を連れて行ってください」
「わ、私も一緒に行きます!」
クロードに加え、リリィも同行を願い出たが、ガーディアスは両手でバツ印を作り、大げさに首を横に振った。
「2人ともさっき話したでしょ? 2人にもやってもらうことがあるんだって。2人じゃないとできないことなんだからさ」
「だからと言って……」
「クロードはさ、アルの事信用してなさすぎじゃないかな? 後輩が可愛いのは分かるけど、もう少し信用してあげてもいいんじゃないの?」
ガーディアスの挑発したような言い方に、クロードは負けじと言い返す。
「俺はアルトレントの力を認めています。ですが、いくらアルトレントには杖があると言っても、まだまだ実戦不足なのには変わりません」
「だったら実戦経験を積むことも兼ねて行かせてあげるべきなんじゃないかな。ほら、可愛い子には旅をさせよなんて言うじゃない。アル、君はどうしたい?」
ガーディアスに問いかけられたアルトレントは、しばらく悩むような素振りを見せた後、
「ぼくは……ぼくは行きたいです。もしその話が本当なら多くの人が傷つくことになると思うんです。だったら、ぼくはそれを止めたい」
と答えた。その様子を見たガーディアスは満足そうな笑みを浮かべた。
「よし決まりだ。本人がそう言ってるんだクロードも異論はないね?」
クロードは未だ不服そうな表情をしていたが、この上司は自分が何を言っても聞く耳を持たないだろうと判断し、大きなため息を着いた後、
「…………分かりました。ですが、後でもう一度内容を詳しく聞かせてください」
と言った。
クロードの様子に満足したのか、ガーディアスはニヤリとした笑みを浮かべていた。
「じゃあ、各自休憩を取った後に僕の部屋に来るように。大変だろうけど、僕はみんなの活躍に期待してるよ」
アルトレント・アンダーグラウンド ~絶海の番人~ 不労つぴ @huroutsupi666
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