アルトレント・アンダーグラウンド ~絶海の番人~
不労つぴ
プロローグ
「じーちゃん! なんでオレの言ってることを信じてくれないんだよ!」
少年は目の前の老夫婦の前で悲痛な叫びを上げる。
少年の名前はケンタ。歳は14歳で、生まれたときから両親とともにアミラ村に住んでいた。
ケンタの目の前にいる老夫婦はアミラ村の村長とその妻である。ケンタは村長をじーちゃんと呼んで慕っており、村長もまたケンタを自身の孫のように可愛がっていた。
「信じていないわけじゃないんじゃ。お前の気持ちも痛いほど分かっておるつもりじゃ」
村長は膝をつき、ケンタと目線を合わせてからケンタの肩に手を置いた。しかし、ケンタは荒々しくその手を払った。
「何が分かっているんだよ! アイツらが来てから全部おかしくなったんだろ! 分かってるんだったら、どうにかしていなくなったみんなを今すぐ連れ戻してくれよ」
そう言い放ったケンタにも自分がいかに無理難題を言っているかは分かっていた。しかし、とめどなく溢れる自身の無力さや怒りをこらえることが出来なかった。
村長はケンタの様子を見て悲しそうな表情を浮かべた後、話しだした。
「お前が今不安なのは分かっているつもりじゃ。だが、大丈夫じゃ。お前の両親はきっと生きておる」
村長から慰めの言葉をかけられてもケンタは俯いたままだった。
ケンタだって両親の生存を願っているが、ケンタの前から姿を消して1週間になる。この頃では、両親の生存が絶望的なのではないかと思い始めていた。
場に沈黙が訪れる。
村長の妻は、荒んだケンタの様子を見て、どう声をかけていいのか分からずオロオロとしていた。
暫くの間沈黙が続いた後、意を決したように村長が口火を切った。
「実は数か月前に王国に救援を呼んでいたんじゃが、ようやくそれが受理されたんじゃ」
村長の言葉に、ケンタは俯いていた顔を上げ、村長の方を向く。
「王国の方から凄腕の魔法使いを1人寄越してくれることになった……これできっと全て解決するはずじゃ」
ケンタは失意に満ちた目で村長を見る。
一瞬でも期待した自分がバカだった。
王国も自分の村のことなんてどうでもいいのだ。たった魔法使い1人きたところできっと何も変わらないだろうに。
「今日はもう遅い。夜は危険だから泊まっていきなさい」
村長は優しくケンタに語りかけ、ケンタの手を取ろうとするが、ケンタは微動だにしなかった。
「じーちゃんも王国も何もしないならオレ1人でもどうにかしてやるよ」
ケンタは吐き捨てるようにそう言うと、おもむろに立ち上がり、勢いよく走り出した。
「ケンタ! 待ちなさい」
後ろから村長の呼び止めるような声が聞こえたが、今のケンタには関係なかった。やがて、ケンタは玄関の向こうの闇の中に消えていった。
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