第21話


 人間と黒犬は、星空の下を歩く。

 黒いふたつの影は、背の低い草を踏みしめながら、夜空を仰いでいた。


「まるで、世界の終わりの日に散歩してるみたい」

「贅沢な散歩ね」

「って言ってもスペス、素直に散歩してくれなかったけど」

「犬は自分より格下の相手にリードを任せたくないのよ」

「なるほど。……え、私、格下だったの?」

「言うて世話してたの、使用人だったでしょうが。アンタ、戦争に行っちゃったし」


「そう言えば、なんでスペスは、普通の犬になっちゃったの?」

「さあね。殺せなかったから、クビにされちゃったんでしょう」

「……え、どういうこと?」

「さあねえ」


 一人と一匹は、たくさんのことを話した。

 どこまでも続きそうな星空の下で、スペスとしても、ランパスとしても出来なかったことをしていた。


 

「ねえ、へカティア」

「何?」

「もう、一人ぼっちじゃないわよね」

「……」


 へカティアは答えない。

 そうだ、と言ってしまえば、ランパスは去ってしまう。

 けれど、黙ることは肯定だった。


「なくしたものは、元には戻らない。

 でも大切なものは、いつか形を変えて帰ってくる。それをアンタは、知っているはずよ」


 そうでしょう? と、黒犬は言った。



「だからなくなることを恐れて、望み自分を捨てることはしないでね」



 それがランパスとの、本当に最後の会話だった。


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