第21話
人間と黒犬は、星空の下を歩く。
黒いふたつの影は、背の低い草を踏みしめながら、夜空を仰いでいた。
「まるで、世界の終わりの日に散歩してるみたい」
「贅沢な散歩ね」
「って言ってもスペス、素直に散歩してくれなかったけど」
「犬は自分より格下の相手にリードを任せたくないのよ」
「なるほど。……え、私、格下だったの?」
「言うて世話してたの、使用人だったでしょうが。アンタ、戦争に行っちゃったし」
「そう言えば、なんでスペスは、普通の犬になっちゃったの?」
「さあね。殺せなかったから、クビにされちゃったんでしょう」
「……え、どういうこと?」
「さあねえ」
一人と一匹は、たくさんのことを話した。
どこまでも続きそうな星空の下で、スペスとしても、ランパスとしても出来なかったことをしていた。
「ねえ、へカティア」
「何?」
「もう、一人ぼっちじゃないわよね」
「……」
へカティアは答えない。
そうだ、と言ってしまえば、ランパスは去ってしまう。
けれど、黙ることは肯定だった。
「なくしたものは、元には戻らない。
でも大切なものは、いつか形を変えて帰ってくる。それをアンタは、知っているはずよ」
そうでしょう? と、黒犬は言った。
「だからなくなることを恐れて、
それがランパスとの、本当に最後の会話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます