人生の岐路は突然に

高校1年生の時、古文の教師から作文の課題が出た。

今考えると古文の授業でなんで作文なんだと思う。


とにかく一限の授業の間に自由に作文を書けとのこと。

まあ、お調子者の私だからアホみたいな事を書いたと思う。

思う、というのは内容を覚えていないから。

でもまあ絶好調に書けたんだ。

そして、ちゃんと最後にオチまでつけたような気がする。


さて、次の古文の時間に前回の作文の講評があった。

「最後に、ふざけた事を書いた奴が居るから読み上げる」と言いなんと私の文を読み始めた。


いやぁ受けましたね。

人生あんなに受けたのはその後もないくらい。

喜んだのもつかの間、教師は「お前は後で職員室に来い」とのたまう。

さっきまで大笑いしていた級友も「あれはふざけすぎだなー」とか言いやがる。


さて職員室に行ってみると、怒られる雰囲気ではない。

空いている会議室に連れ込まれ、私に突然襲いかかる、事もない。

「お前は落語家になるつもりはないか」

「従兄弟が落語家で、面白いやつがいたら紹介してくれ」と言われていたんだと。

昨晩、電話して私の作文を読むと「入門させたいから紹介してくれ」だと。

彼の名前は三遊亭金馬だと、大名跡だと、大きなチャンスだと言いたてる。


でも、即座に断った。

実家の建設業を継がなくてはならない(小さい工務店だけどね)から、というと「私が両親を説得するから」とまで言われた。

しかし、その気はないと断った。


なぜだか級友達にも言わなかった。

両親にも言わなかった。

生まれて始めて認められて混乱していたんだろう。


後で、あの時が人生の岐路だったのだろうと思う。

道を選ぶにはあまりに突然で、あまりに無知で、あまりにチビリだった。

やっぱり怖かったんだろうね。


落語家の道を選ばなかった事に後悔はない。

今の道に不満はない。

でも、もしあの時、とか妄想する。


まあ自慢話です。



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賢者の与太話 ランゲルハンス ハム右衛門 @hamuemon

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