最終話 魔法との出会い。


 あれから三ヶ月が経った。

 しばらくは、立ち上がることにも苦労したけれど。


 今は、みんなのサポートもあって、普通に生活できるようになった。

 魔法は……。やはり使えない。


 時々、未練がましく左手を太陽に透かしてみるのだが、ダメそうだった。


 セドル君は。

 あれから一回も来ない。


 最初は、魔法が使えないことばかり悲しんでいたけれど。

 今は、セドル君に会えないことも同じくらい悲しい。

 


 どうやら。

 わたしはセドル君のことが、好きだったみたいだ。

 

 

 いまさら気づいても遅いのだけれど。

 こんな、耳や尾が生えている人、王族が受け入れてくれるはずがない。



 


 それからさらに三ヶ月が経った。

 あの件からもう半年かぁ。短いような長いような。


 


 今は、わたしは魔法の研究をしている。

 自分では、相変わらず全く使えないのだけれど。


 魔法の適性があるエマに手伝ってもらって、研究をしている。

 大掛かりな検証はできないけれど、生活魔法の研究なら、これでも十分だよ。


 魔法に携わっていられるだけで、十分。

 そう。十分。



 十分……。






 それからまた半年ほどが経った。

 もう色々と昔話になりかけていたその頃。




 道具屋のドアが乱暴に開いた。


 「ちょっと、そんな乱暴に扱わないで……」


 扉の向こうを見て、息が止まりそうになった。


 


 セドル君だ。

 どこから走ってきたのであろう。

 ハァハァと肩で息をしていて、今にも倒れてしまいそうに見える。

 

 

 顔には無数の傷がつき、無精髭を生やしている。

 もう、優男然とした以前の面影はなかった。


 セドル君は、こっちに一直線に向かってきた。

 そして、わたしの前まで来ると、席を立つように促した。


 セドル君の指がわたしの肩に触れた。

 わたしは、怖くて。


 無意識に身体を引っ込めてしまう。

 


 すると、セドル君は言った。


 「薬を見つけてきた。飲ませたいから、目を瞑ってくれないか?」


 わたしは目を閉じた。


 数秒の後、唇に柔らかい物が当たった。

 そして、髭のようなチクチクした感覚。


 ……これってもしかして?


 その直後、口移しで何かの液体が、わたしの中に入ってきた。


 どうしていいかわからず、わたしは飲み込んでしまう。

 


 すると、身体中が熱くなって、燃え上がりそうになる。

 全身の毛が逆立っているのが分かる。


 わたしは頭を抱えて蹲ってしまった。


 だけれど、分かる。

 右手にも左手にも、右足にも左足にも。


 身体中に、以前とは比べ物にならない程の魔力がみなぎっている。

 

 

 左手の甲を見ると、赤い五芒星が浮かび上がっていた。



 「これは……」


 すると、セドル君は無骨になった顔をしわくちゃにして、わたしを見てニカッと笑った。



 「よかった。また魔法使えそうか?」


 うんうん。

 わたしは、ただただ頷いた。


 また、目から熱い雫がたくさんこぼれ落ちる。

 だけれど、これは、前とは違う。

 幸せな気持ちが目から溢れ出たのだ。


 

 セドル君は、魔法薬を手に入れるために、エミルさんのところに行っていたらしい。そして、そこで言われた材料を手に入れるために、ずっと旅をしていたとのことだった。


 「なんで連絡くれなかったの?」

 

 セドル君は頭を掻きながら、ばつが悪そうに答える。


 「エミルの材料がね。無理難題が多くて。ちょっと生きて帰れる自信がなかったんだ。だから……逆に心配かけると思って」


 聞いたところによると、その材料は、新鮮なドラゴンの鱗や心臓、グリフォンの羽根やクチバシとのことだった。田舎者のわたしでも、それらがどれほど価値があるものかは理解できる。



 ……そして、その入手がどれほど困難で命懸けであるかも。



 わたしが、どう感謝の気持ちを伝えていいか迷っていると、セドル君が手鏡をわたしに見せた。

  

 ん?

 わたしの顔に何かついているのかな?


 鏡の中のわたしは……。


 銀髪だった。

 しかも、よく見たら尻尾が9本になってる。

 これ、もう隠せないと思う……。


 なんでも、魔力が高まった副産物らしい。

 でも、1本でも変なのに9本も。


 わたしが心配していると、セドル君はニコニコして言った。


 「俺も、うちの両親もそんなの気にしないって。9本って猫耳族の中でも最高峰だろ? きっと、強い孫が生まれるって喜ぶぞ?」


 そして、わたしに手紙を渡してきた。

 どうやら、エミルさんからの手紙らしい。


 どれどれ。



 「ソフィアへ。夢見の魔法で様子を見させてもらったけれど、強くなったね。秘薬は効いたかな? セドルさ。僕に泣いて土下座して頼んだんだよ? 王子なのにね。なので、ちゃんとセドルに感謝するように」



 わたしは手紙を両手で抱きしめる。

 セドル君ありがとう。


 手紙はまだ続いていた。


 「そうそう。セドルには、この秘薬は口移しじゃないと効果がないって言ったんだけれど。あれ嘘だから。 エミル」

 

 嘘?

 嘘なのー?



 えーっ!?



 わたしのファーストキス。

 投薬で終わってしまった……。



 納得いかないっ!!

 

 だから。

 わたしは、セドル君の腕に抱きつく。

 そして、つま先で立つと、びっくりする彼の顔をおさえて、唇を重ねた。


 「んっ……」


 セドル君が何回か瞬きをしたであろう頃。

 唇が離れる。



 「セドルくん。感謝しきれないよ。ありがとう」


 セドル君は照れ臭そうにしていた。

 一国の王子が、命をかけてくれたのだ。


 わたしのファーストキスじゃ足りないくらいだよ。

 

 ありがとうね。


 


 セドル君は、何かを思い出したような顔をした。


 「あっ、エミルがさ。今、困ってるらしいんだ。優秀な助手が必要なんだって。悪いんだけれど、ソフィア。できれば、彼を手伝ってやって欲しい。できそうか?」


 

 わたしは、村の真ん中の池で初めて魔法をみた時のことを思い出した。

 

 エミルさんの魔法は、全部がキラキラしていて。

 あの瞬間、わたしは魔法の虜になった。


 その魔法は奇跡をたくさん連れてきてくれて。

 わたしに色んなことを教えてくれた。


 お母さん、スージー、エマ、イヴさん、ラナさん、リンク君。

 他にもたくさん。


 みんながわたしを助けてくれて。

 大切なものを教えてくれた。

 

 あの時のわたしは部屋から出るのが怖かったけれど……。



 今は違う。

 だから、答えは決まっている。

 



 ——————————————————————

 


 最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

 これにてソフィアのお話は終わりです。


 面白かった、と思っていただけましたら、★★★、レビュー、コメントをいただけますと嬉しいです。


 ありがとうございました!!


 また、別の作品でみなさまにお会いできるのを楽しみにしています。


 


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ねこ耳娘の異世界なんでも屋♪【完結•一気読み可】 おもち @omochi1111

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