第37話 オーバーフロー(3)
夢を見た。
エミルさん。
わたしに最初に魔法を見せてくれた魔導士さんの夢だ。
エミルさんがわたしの頭を優しく撫でている。
そして、ささやくように言うのだ。
「君はよく頑張った。私の教えを守って偉いね。だから、いまは休みなさい……」
……。
目が覚める。
頭が痛い。
意識が混濁して、まだ辺りがぐるぐるしているように感じる。
「ソフィア!!」
お母さんだ。泣いている。
エマもスージーも。
ラナさんもリンク君も、みんな泣いている。
みんなベッドに横たわるわたしに抱きつき、泣いている。
……わたしはもしかして、死んでしまったのだろうか。
いや、こんなに頭が痛いのだ。そんなはずがない。
わたしは左手を顔の上にかざしてみる。
左手は弱々しく震えていて、まだうまく動かすことはできない。
だけれど……。
左手の感覚がない。
魔力の循環も感じない。
わたしは、自分の身体に起きたことをすぐに理解できた。
魔力の過使用によるオーバーフローだ。
……そうか。
『魔法は、わたしの手からこぼれ落ちてしまったのか』
でも。
悲しいけれど、仕方ない。
わたしが殺意に飲み込まれてしまったから。
それでも、みんなを助けられたのだ。
上出来といってもいいとおもう。
でも、悲しいよ。
納得しているのに。
目から熱い雫がこぼれ落ちて、止まらないよ。
程なくして、専門医の先生がきた。
どうやらわたしは、一週間も意識が戻らなかったらしい。
先生の見立ては、ほぼ、わたしと同じだった。
魔法の過使用による魔力神経の欠損。
日常生活には支障はないが、一生、魔法は使えないだろうということだった。
セドル君はあれから来ない。
手紙を書いても返事もくれない。
耳と尻尾の生えたわたし。
人間じゃないのに魔法も使えない。
こんな醜いわたしの姿に幻滅して、もう会ってくれないのかな。
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