第3話 見知らぬ天丼、もとい、高倉芳人。

 うう、頭が痛い。

 目が開けられない。 


 きっと飲み過ぎたんだろう。

 完全に二日酔い状態だ。


 しかも昨日のこと、全く覚えていない。

 あーあ。


 高倉の課があの公園でお花見するって聞いたから頑張ったのになあ。

 

 一緒に桜を見て仲良くなる為に、プレゼン気合い入れたのに。


 …………うぷ、吐きそう。

 口の中がにがにがする。


 この状態はヤバい。

 まずは……水。


 体、起こさなきゃ。

 何か今日のベッドはフカフカで、気持ちー。

 

「吉野、起きた?」

「起きたぁ。お水ほしー。でもあったま痛くて」

「はい、お水」

「あいがと」


 あふ。

 水、うまうま。


 これこそ体に沁みわたるというやつか。

 でももっとほし、い…………?


「もっと飲む? 二日酔いの薬もあるよ。お粥作ったから、ひとくちでも食べたらさ、飲むといいよ」


 ここ、どこ?!

 え?


 何?

 これが噂の見知らぬ天丼てんどん?!


 いや、待って待って。

 冗談を言ってる場合じゃない。


 た、た、た、高倉ぁ?!


「バスローブなのはごめん。でも何もしてないから安心して? 吉野、途中で転がったり大暴れしてたから着替えてもらった」

「……まじ?」

「マジ」


 昨日の私、何したんだよ!

 まさかの手取り足取り……生着替えぇ?!


 しかも、よりによって!

 高倉に何させてんのぉ!

 

「ご、ごめんなさい!」

「大丈夫ー。吉野のとこの課長に頼まれて、さ。うちまで送っていこうとしたんだけども……『一緒に寝る!』って聞かなくて。で、俺の部屋で寝かせて、おはよって感じ。今、状況的にはココかな」


 のおおおおおおおおお!


「吉野、何かやたらと可愛くて気が抜けた。敬語じゃなくってもいい? 素でたくさん話したい」


 見知らぬ高倉芳人がここにいる。


 朝の光で透けるシャツがとんでもなくエモい。私だけに向ける、優しい笑顔が眩しい。泣きそう。


 じゃ、なくて!

 そんなこと言ってる場合か!


 こ、ここはいったん緊急退避ぃ!

 醜態しゅうたい狼藉ろうぜきの数々、勘弁してください!

 

「本当にごめん! いっぱい迷惑かけて、大騒ぎしたあげくに、泊めてまで頂いて! ご、後日このお詫びは必ず! な、なので……今日はひとまずおいとまさせて………………下さい!」


 二日酔いの頭を無理やりたたき起こす。本当は一緒にいたい、いたいけど! 目いっぱい話せるこんなチャンス、もう絶対にない!


 ……私には。

 きっともう、二度とやってこない。


 いいな、と思ってる人との。

 高倉との。


 奇跡のような、時間。


「あ、ごめん。汚れた服は洗濯中」

「……がち?」

「ガチ」

「ごめんんんんっ!」

「いいよー」


 ベッドからジャンピング土下座をする。

 もう、迷惑かけっぱなしだよ……。


 そして。


 なくなった逃げ場に、心臓が暴れている。わたし得の展開に、乾いた唇を湿らせる。


 これ、夢?

 夢なんでしょ?


 上がって下がる、とほほじゃないの?!


「取りあえず今日は休みだから、具合い落ち着くまで寝てれば?」

「ね、寝れないよ……」

「ありゃ。添い寝しようか? 子守歌付きで」


 うっわ。

 夢なら、醒めてほしくない。


「あはは、冗談冗談。お許しがなきゃ、そんな事はできないし」

「許したらやるんかいっ!」

「うん。吉野なら喜んで」


 高倉の笑顔に。

 甘い言葉に。


 くらくら来た。

 ヤバい。


 どうしよう。

 どうしよう。


 でも。

 神様、仏様。


 夢なら、もう少し見させてください。


 あ。


 むふふ展開もあり、でOKですから!
















「…………お願いしても、い?」

「マジで?」

















「…………………………うん、まじで」















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お花見と甘やかし王子 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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