第2話 炭酸を一気飲みした吉野美咲

「よし、端っこに荷物を乗せて、と」

「これで俺のほうも終わりです。ありがとうございました」

「……ねえ、いっつも思うんだけど、同い年なのに何で敬語使うの?」


 私、要注意人物扱いでもされてるのか? まあ結構な態度取ってるから仕方ないのかもだけど。


 緊張するんだよ。仕事ができてイケメンで評判がいいってヤバない?


 負けたくないって気合いが入りすぎちゃうのもある。頼むから、もう少しフツメンに寄ってくれ。


 そうしたら。

 もう少し気軽に話せるのに。


「うーん……何で、ですかね」

「他の同期にも敬語使ってるの?」

「いえ、全く」

「何でよ!」

「緊張するっていうのはあるかもしれません」


 痛恨の一撃。

 頭がグワングワンする。 


「何て言うんだろ。うーん……あ、喉乾きません? 買ってきますよ、何がいいですか?」

「私、炭酸持ってるからいい」


 ぷしゅっ。


 さっき買ったサイダーの缶から、大量の空気が漏れた。缶から漏れ出た空気のように、私の力が抜けていく。


 一人でライバル意識を持って。

 一人で勝手に意識して。


 近づきたくて。

 でも、近寄れなくて。


 炭酸、頼む。

 オラに元気を分けてくれ。


 喉が熱い。

 一気飲み、久し振りだ。


 炭酸が通り過ぎていく、胸が、お腹が熱い。

 そして、それに反比例して心が冷えていく。


 敬語使われたら、距離を感じちゃうじゃないか。同期なのにさ。


 距離を感じられちゃったら、仲良くなれないじゃないか。これ以上、一歩も進めずに下がっていくばかり。


「え? あれ? 吉野さん?! それ……」

「…………ん?」


 何だよ。

 指さすでねえよ!


「お酒じゃないですか?」



「だからあ! にゅーしゃしき! にゅーしゃしきのあのときから、ずっときになってたのお! ずっとずっとかっこいいなってえ! 聞いてんのかたかくらよしとー!」

「吉野さん、声のトーン落として下さいよ!」

「あっはっは、吉野君絶好調だねえ」

「笑い事じゃないですよ、課長……」

「君も言ってたじゃないか、吉野さんはステキですねって」

「わー! わー!」


 あれ?

 高倉芳人が四人いるお?


 一人ちょーだい!

 何なら二人!


 あ、もっと増えたぁ!

 むふふ、美咲ハーレムっ!

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