3.魔女の在り方

 涙を流すソアラさんをとても見ていられなくて、私はハンカチを差し出す。


「使って下さい」


 ソアラさんは、小さな手のひらで、大事なものを触れるようにハンカチを受け取ってくれた。


 村では汚いと、誰からも触れることのなかった私の指にソアラさんの指が当たる。


「ありがとうっす」


「あっ!」


 ソアラさんは、何も気にしていないようだ。


「こちらこそありがとうございます」


 この人はとても優しい人だと、私は感じた。


「逆っすよ」


「いえ、この出会いに感謝をしたのです」


「ライフさん、変わってるっすね」


 そういってポカーンとしたソアラさんは、にこやかに笑ってくれた。


「ゴホン。それよりもライフ殿は、これからどうされるのですか?」


「どうとは?」


 心底不思議そうな目で見る私を、サラクさんは諭すように話す。


「周りの人間は、貴女がもし魔女だとわかれば、間違いなくライフ殿を憲兵に突き出すでしょう。そうなったら‥」


「そうなったら?」


「ライフ殿は、処刑されます」


「処刑ですか‥えぇー、どうしてなのですか?私なにも悪いことしていませんよ」


「それが人間のルールなんだ。私では、どうすることもできない」


「ルールなら仕方ないですね」


 私は、さっぱりとした反応する。二人はその様子に大層驚いた様子で。


「どうして、そんな簡単に受け入れられるんっすか?もっと怒ったり、悲しんだりしないんっすか?」


 ソアラさんは、とても怒っているようで、何か気に触ることでも言ってしまっただろうか?わからない。私は、感情というものに蓋をしているのだから。


「私、思い出せないんです」


「何が思い出せないんっすか?」


「感情というか、気持ちが思い出せないんです」


「そんなの簡単っす。嬉しいときは、ぎゅーって抱きついて。悲しいときには、むぎゅーって抱きついて、許せないときには、殴ればいいっすよ」


「何故、抱きつく必要がある?」


「嬉しさのお裾分けっす。それに抱きつけば、悲しさは半分っす」


 そんなことを言われたのは、初めてで反応に困ってしまう。


「頭痛くなってきた」


 頭を押さえるサラクさんに、不思議そうな顔をするソアラさん。面白い組み合わせだ。ソアラさんとサラクさんは、仲良しなんだな、とても羨ましい。


 大きくて丸い目で優しく笑うソアラさんは、失礼だが、つい可愛いと思ってしまった。


「とりあえず、ご飯にしないっすか?お腹が空いてて」


「私もお腹が空きました」


「熊のお肉は筋肉質で硬いっすけど、調理次第で美味しくなるっすよ」


「熊の肉は、臭くてとても食べられたものじゃないぞ」


「これだから素人は」


「な!馬鹿にしているのか、私だって料理くらい」


「なら、勝負するっすか?」


「受けてたつ」


 そうして唐突に始まった料理バトル、勝敗の行方は。そうだ、私も何か作ってみよう。

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《魔女たちの追憶》かつて神と呼ばれた魔女たちは。 七星北斗(化物) @sitiseihokuto

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