2.異なる価値観

 私の前には、捕らえられた熊の魔獣が踠いている。


「フッフッフ、これが魔法だ。よくも私を散々追いかけ回してくれたな」


 ニヤリとほくそ笑む、さてどうしてくれようか。私は、これから命を奪う。


「緑鎖の庭よ、熊の魔獣を締め上げなさい」


 魔獣の首に緑の鎖は巻き付き、暴れることで命の傷跡をそこに残した。


「ごめんなさい、あなたの命は糧にさせていただきます」


 生きるためには、命を奪う選択をしなければならない。だから忘れてはいけないのだ。誰かの命で、生かされているということを。


 まずは、血抜きをしないと。皮や肉は欲しいけど、私のナイフで解体できるのだろうか?


「あのぉ、お困りっすか?」


「困っているなら力になろう」


「誰っ?」


「怪しいものじゃないっす。私は、狸族のソアラと申します。その黒牙熊ブラックファングベアの討伐依頼を受けてきたんす」


「私は、カービナ国の見習い騎士。名をサラクと申す。武者修行の道中、ソアラとは、森の入り口で偶然会ったのだ」


 愛らしい耳としっぽのソアラさんに、軽装備の鎧を身に付けたサラクさん。


 一歩村の外へ出れば、心踊るような出会いでいっぱいです。


 こういう場合は、名乗った方がいいんですよね?


「私の名前は、ライフ。魔女です」


「魔女さんだったんすか…ぇぇー」


「冗談でも、そういうことは言ってはいけないよ。お嬢ちゃん」


「なんだ、冗談だったんすか」


 二人は、魔女という単語に驚いた様子で。その違和感に、私は疑問を投げかけた。


「私は、本当に魔女なんです。魔女の何がいけないんですか?」


「魔女はこの世界の諸悪の根元で、悪いことが起きれば全て魔女のせいというか」


 ソアラさんの答えにサラクさんは、首を大きく横に振り、否定のアクションを取った。揺れる赤い髪のポニーテールが綺麗で、つい視線を向けてしまう。


「そんなものは噂話に過ぎない。魔女は過去、神と呼ばれていた。しかし人間が裏切ったんだ」


 神ってなんだろう?それに、人間が私たちを裏切った?


「初耳っすね。そんな話があるんすか?」


「国の秘匿された実話だ。しかし魔女が何故、こんなところにいる。殺されるぞ」


「殺される!どうしてですか?それに私は、村から追い出されて帰る家がありません」


「なるほどな、君ははぐれ魔女か。そうだな、少し政治の話をしよう」


「政治の話?」


「人間に関わらず、いろんな種族がいる。それは、どうやったら纏まると思う?」


「たくさんお喋りしたら、仲良くなれると思います」


「そんなことで仲良くなれたら、争い何て起きない。正解は、君そのものだよ」


 私が答えとは?ソアラさんは、魔女は悪の根元だと言った。サラクさんは、殺されると。私は、村の人間に虐められ、ついに追い出された。


「つまり集団の中に明確な攻撃対象を作ることで、集団自体が纏まり、コントロールしやすいということでしょうか?」


「そういうことだ」


「そんな酷いことを…ごめんなさいっす」


 ソアラさんは、ボロボロと大粒の涙を流して頭を下げる。どうしてソアラさんが謝り、泣いているんだろう?

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