第14話 【私と残ったもの】Ⅰ
あれから二週間
私は総合病院を訪れていた
呼び出しのアナウンスや子供の泣き声、看護師や通院客の足跡が院内に鳴り響く
目的の場所に向かって歩を進める
私の足跡に重なるようにもう一つ
私の隣には⋯
「でも、珍しいね」
神谷君がいる
「紅葉ちゃんが誰かのお見舞いなんて」
何故か私に着いて来た
「意外と人情あるんだね」
そして失礼な事を言い出した
「うるさいわね、潰すわよ」
病院の為、声を張ることも殴ることも出来ない
私のこめかみがピクピク動いた
「神谷君が入院するの楽しみね」
「あはは…縁起でもないことを…」
「あっ!ほら、あの子いたよ!」
神谷君の視線の先にここに来た目的の人物がいた
「ありがとうございました」
病室から静かに廊下に出てきた子連れの母親が看護師に深々と挨拶をしていた
おそらくあの子の兄がいたであろう病室
「…っ」
少年は私に気付き唇を噛み締める
「お姉ちゃんの嘘つき‼」
少年の怒りの籠った声がその場に反響する
その声が含む感情にその場の誰もが動けないでいた
私も神谷君もその言葉で察してしまったからだ
この少年の兄はもうこの世には…
少年はそのまま私の胸に駆け寄り
「兄ちゃん死んじゃったよ‼治るって言ったじゃないか…僕はずっと信じてたのに…」
両手の拳を握り私に叩きつける
「約束…したん…じゃないか…」
小さな力でもそこに込められた大きな想いで
「やめなさい‼」
母親が止めに入っても少年は止まらない
行き場のない感情を私に向け続ける
少年だって頭ではわかっている
実の兄が亡くなったことが目の前にいる私のせいではないことを
ここで私に怒りの矛先を向けても意味がないことを
でも、私に話したあの日から縋うことでそれを希望にしてしまった
だからこそ理解と願いの狭間で生まれてしまった感情を私にぶつけることで楽になろうとしている
兄と話し、時には喧嘩もし、笑いながら過ごしているあの日常
叶わなかった未来を他人のせいにして現実から目を背けたい
でもそんな現実はもうこの先どんなに願っても訪れない
「うわぁぁぁあん…」
少年の泣き声がその場に木魂する
悲しみと痛みと自分の無力さを乗せて
ペンタスの花束を君に わか @wakaaa
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