第19話 相棒

 光に包まれた俺とおやっさん。


 気がつくと、立っていた。


 何度も何度も夢に出てきた。


 俺とおやっさんが殺された現場げんじょうに。


 日本。

 後内以川町ごないがわまち

 2-16。

 大通りから脇に続く裏道。

 何千回もパトロールで通った道。

 そこにうずくまってるパーカーの男。

 震えてる。


(そうだ……この後、おやっさんが男に声をかけて……)


 俺の前を歩くおやっさん。

 見慣れたおやっさんの薄汚れた背広の背中。

 おやっさんはズンズンと男に近づいていく。


(え、おやっさん、……?)


 前世のままのおやっさんなのか。

 それとも共に異世界に行って帰ってきたおやっさんなのか。

 もし前世のままのおやっさんだったら……。


(くっ……!)


 動こうとする。

 おやっさんを止めようとする。

 でも。

 足が動かない。

 口が乾いて声が出ない。


(ヤバい……! このままじゃ、また俺もおやっさんも……!)


 そう思った時、おやっさんが男の肩に手をかけた。


「おい、大丈夫か、お前?」


「ぐ……ぐぅるるる……」


 ダメだ。

 この後、男は俺に銃を向けて。

 で、それでおやっさんは俺をかばって……。


 ザッ──!


 男が懐に手をやり、銃を取り出す。

 俺に向ける。


(あぁ……ダメだ、このままじゃおやっさんがまた……)


 そう思った時。


 見えた。


 おやっさんの指にはめられているに。


 アイルハットとの冒険でレッドドラゴンから貰った魔法力を増幅する指輪。

 それがおやっさんの指にはめられている。


 おやっさん!

 あれは、俺と異世界から還ってきたおやっさんだ!


 次の瞬間。


「うおっ……!?」


 バシュウ──!


 おやっさんの手から花火の魔法が放たれ、男が熱さにのけぞる。


「タマぁ!」


「はいっ!」


 体がふっと軽くなる。

 足を出す。

 走る。

 手を見る。

 グローブ。

 レッドドラゴンにもらった魔法の。

 右手には魔導都市で買った鉄の棒が握られている。

 腕。

 ワイシャツ姿。

 ジャケットは着てない。

 アイルハットにあげたから。


 右手を振りかぶる。


「うおおおおおおおおおおお!」


 鉄槌一撃。


 そのまま俺とおやっさんで男を取り押さえる。


「制圧!」


 往年の、異世界でさらに熟練された俺たちのコンビネーション。

 男のパーカーから、小さい小鬼インプがポロッと転がり落ちる。


「あ、こいつ……」


 レッドドラゴンを暴走させてたやつか?


 バンバンと足で踏み潰そうとするも、するするとネズミのように逃げ回って排水口の中に逃げてしまった。


「おやっさん、来てますね」


「ああ、こりゃ俺たちまだまだ引退は出来ないみてぇだな」


「はい、やんないとですね。そして、これが俺たちがこっちで果たすべき役割ってわけですか」


 人はだれにでも役割がある。

 堕神アイルハットの言っていた言葉だ。


「だな。そして、あの~……まぁ、なんだ……」


 ?

 おやっさんが恥ずかしそうに口ごもる。


「なんですか?」


「いや、向こうで言いそびれてたんだけどよ……」


「はぁ」


「ごほんっ、言うぞ?」


「はい」


「うぅ~……つまりだ。あの、その……」


「早く言ってくださいよ。犯人ホシも取り押さえたまんまなんですよ?」


「うるせぇ! 俺のペースで話させろ!」


「ったく、ミキオは面倒くさいなぁ」


「誰がミキオだ、誰が!」


 一瞬、おやっさんは少年だった頃のミキオの表情に戻る。


「え~っと、だな……。その、つまり、俺たちは親子じゃねぇ」


「俺はおやっさんを息子だと思ってますけど」


「俺たちは友でもねぇ」


「俺は友だと思ってます」


 おやっさんはふるふると首を横に振る。


「俺たちはだな……」


 おやっさんの俺を見つめる瞳の中に少年時代の、青年時代のミキオの姿が映る。


相棒バディ……ってことだよ」


「ハッ、なに言ってんですか、おやっさん。だから最初からずっと言ってるじゃないですか。俺たちは……」


 右手を上げる。


 おやっさんも釣られて上げる。


 パァン──!


 気持ちのいい乾いた音が響く。


 ハイタッチ。


「最高の相棒バディですよ、これまでも。そしてこれからもね」


 戸惑い顔のおやっさん。


 ふふ、可愛いところもあるじゃないですか。


 守っていきますよ、この街の平和はね。


 俺とおやっさん。


 最高の。


 相棒バディで。



 ────────────


 【あとがき】


 最後まで読んでいただいてありがとうございます!


 この作品はドラノベさんのコンテストのおすすめキーワードをすべてぶち込んでみた時にスッと設定が出てきて書き始めたものです。

 応募規約の中編(六万字以内)に収めたので途中バッサリ飛ばしたんですが、もっとミキオがもふもふ獣人になっちゃう話とか、ミクロな世界に巻き込まれる話とか、月面世界に行く話とか、悪夢に飲み込まれる話とか、女体化とか、ミキオとの対比役になる年を取らない少年悪魔が出てくるとか、正直無限にエピソード書けるな……という感じで書いてて楽しかったです。


 また、新連載も始めたのでぜひこちらも読んでみてください。


『夜な夜なふんどし姿の男たちが村人を連れ去っていきます ~異世界で山笠なる祭りに巻き込まれた私、男たちを取り仕切る「ごりょんさん」となって万年最下位チームを優勝へと導きます~』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076328890441


 では、タマとおやっさん(ミキオ)の冒険に最後までお付き合いいただきありがとうございました!

 また別の作品でお会いしましょう!

 それでは~!

 最後まで読んでいただいてありがとうございました!

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おやっさんと俺の異世界二人旅 ~少年化した元頑固ジジイな上司を連れて超絶殺伐な異世界を縦断しています~ めで汰 @westend

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