後編
「――アルジャノン」
「は、はい」
真実薬を飲んだ証である、妙にきらきらとした目をオフィーリアから向けられて、アルジャノンは思わず居住まいをただす。次にどんな言葉が出てくるのか、アルジャノンにはわからなかった。いや、このときのアルジャノンは、わかりたくなかったのかもしれない。もし拒絶の言葉が出てきたら、耐えられないからだ。
しかし、だれよりも愛するオフィーリアから出てきた言葉は……。
「愛してる」
「――え」
「だれよりも、どんなひとよりも、世界で一番……ううん、この宇宙で一番、わたしがアルジャノンを愛してる」
きらきらとしたオフィーリアの瞳は、少しだけ潤んでいるように見えて、アルジャノンは思わず生唾を呑み込んだ。しかし劣情に駆られている場合ではないと、ハッと我に返る。
「オフィーリア……」
「アルジャノンがわたしのことを愛していなくても、愛さなくなっても、たぶんわたしはアルジャノンに恋し続けるんだと思う」
「オフィーリア……ま、待ってくれ……!」
顔が熱い。熱烈なオフィーリアの言葉に釣られるように、アルジャノンは耳から首まで顔が朱色に染まる。たまらなくなって、気恥ずかしい気持ちもいっぱいで、オフィーリアから目をそらしそうになるが、ぐっと我慢した。
「これが、わたしの本心。……わかってくれた?」
「う、うん。はい。ワカリマシタ……」
今にも暴れ出さんばかりに心臓は高鳴り、くねくねと踊り出したいくらいうれしい気持ちに満たされて、アルジャノンの語尾は固くなった。
「怒ってないのは本当。悲しかったけどね」
「う……ごめん……」
「許す許さないの話じゃないってのは、惚れた弱味だから。心底惚れちゃってるんだ、アルジャノンに。だから怒れないし、許す許さないの話にもならない」
「オフィーリア……!」
アルジャノンは限界を迎えた。そのままオフィーリアに飛びかからんばかりに迫って、その華奢な肩を抱き寄せ、己の両腕の中に閉じ込める。
「私も貴女のことを愛している! だれよりも、なによりも、貴女を愛している……世界が滅んだって愛し続ける」
「……大げさ」
「本気で言っているよ。それくらい……言葉では言い表せないくらい、貴女が好きなんだ。恋してるし、愛してる。……だから、本当にすまないと思っている……不誠実だったし、不甲斐ないせいで貴女を悲しませてしまった」
「……わたしも、いろいろ聞いたんだ、アルジャノンのこと。いろいろ苦労してたってことも。だから、スパイの件とか怒ってないし。そもそも、わたしも帝国からしたら裏切り者だし」
「それは貴女が気にすることじゃない……」
「アルジャノンって過保護だよね。そういうところ、ちょっとウザいときもあるけど」
「『ウザ』……?!」
「でも、だいたいうれしいから、そのままでいいよ」
アルジャノンがきつく抱擁しているオフィーリアの口元が緩んだのが、気配でわかった。
「そのまま……わたしに愛をささやいて」
「もちろん。いくらでも」
「それから、さっき言ってたカフェテリアに行きたい」
「もちろん、連れて行くよ」
「それから……」
オフィーリアがみじろぎすると同時にその小さな頭が動き、アルジャノンの耳にオフィーリアの唇が近づく。
「悲しかった気持ちが忘れられるくらい、今夜は……激しくして?」
アルジャノンはオフィーリアには絶対にかなわないと悟る。同時に、そのおねだりに対する答えは、言うまでもなく決まっていた。
出発地点がハニトラだったことがバレて好感度ゼロから再出発する口説き話(※注意※左記の文章には間違いが含まれています) やなぎ怜 @8nagi_0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。