努力の結果面倒嫌いな伯爵

@satomi1112

本文

私の主である、フレデリック=ホーラ伯爵様は世間では、眉目秀麗・才色兼備の天才でなんでもすぐにマスターしてしまうと言われている。

私は知っている。その陰で主が物凄い努力をしたことを!

そして、その反動でいまでは面倒な事が嫌いな方になってしまったことを!


「フレデリック様、朝ですよ。起きて下さい」


「え?起きるの面倒だなあ」


「寝たままでは食事もできません。それから、本日は『ラルク商会』との商談があります」


「はぁ、面倒だなぁ。誰がそのスケジュール決めてるの?」


「多くは私が決まていますが…『ラルク商会』との面談はあちらにも予定がありますから、あちらの都合に合わせています。っていうか、起きろよ。このポンコツ!商談があるって言ってるだろ?」

私はフレデリック様の乳兄弟で幼馴染なので、このような言葉遣いで接してしまうのです。


「二重人格なのかよ?」


「一応従者としての口調で話してただけだ。さっさと起きろ!そして、支度をしろ。面談だ」

遅れましたが、私の名はデイヴィス=サターン。よくフレデリック様に悪魔みたいな名前だな。と言われます。

その度に母からゲンコツ落とされてるのですが…。


「で、フレディ。『ラルク商会』とは何を面談するんだ?」


「はぁ、そんなことも把握してないんですね。この度、『ラルク商会』で東方の国の酒を用いてカクテルを作ることになったんですよ。そのカクテルと混ぜる酒の候補として我がホーラ領地で作られる数々の酒が候補に挙がっているのです。その話ですよ。はぁ」


「酒の話か。それはいい話だな」


「酒を用いるという事は利権が絡んできますから、当然何パーセントがホーラ領地に還元されるのか?って話です。そもそもが使ってもらえるのか?という所からのスタートのなりますけど」


この男は寝起きは悪いし、使えないと思われがちだが、起きてしまえばこっちのもんで商談とか得意だから放っておいて大丈夫だろう。




その昔、フレデリックはぽっちゃり体形でした。たいして才能もなく絵心もなく、前伯爵が危惧するほどでした。

「デヴィ…。俺はどうすればいい?」


「努力すればいいんじゃない?」

俺のその一言がフレデリック様を本気で努力させました。


3食以外の無駄な食事を一切しなくなりました。

加えて、私設の騎士団と共に訓練をするようになりました。最初は少しでへばっていましたが、最終的には団長とやり合うほどに成長しました。

マナーや教養についても物凄い集中力であっという間にマスターしていきました。

絵心についても、身につけた教養で絵画でも賞を取るほどに成長しました。

それほど彼は努力をし、眉目秀麗・才色兼備と言われるようになったのです。

ただし、天才ではありません。物凄い努力があっての事です。


なので、彼に「ここの計算が上手くいかないんだよねぇ」とか相談する他の貴族はあっさりと「もっと自分で努力して考えれば?」と突き放します。


自分は努力してできたし、もう面倒なんでしょうね。

俺のせいです。



今日は『ラルク商会』との面談です。面談という教養もあったのでしょう。フレデリック様なら簡単に乗り切るでしょう。

しかし、『ラルク商会』もやり手の商会と聞いています。どこまでフレディの手腕が通用するのでしょうか?




「うーん、無色透明の酒かぁ。カクテルとして使うにはちょっと使いにくいんだよねぇ」

ラルクはそう言う。


「ホーラ領地の酒は無色透明なのをご存じの上でこちらにいらしたのでは?」

フレディは言う。恐らくそうだろう。


「流石は噂に聞く、領主殿。まぁ、この酒をベースにカクテルを作ればいい話ですしね」


「ベースにするならそれなりの量が必要となりますね?」

なんだか、商談というのはこの二人の男の間でバチバチと火花を感じる。


「そうですね。こちらとしては、このくらい…」

指で合図をする。周りに聞こえないようにするためだろう?


「足りますか?私はその2割増し程度の需要があると見越しますが?この酒、単品でも十分楽しめますし、2割増し程度が妥当かと思います」

大きく出たと思う。


「はははっ、貴殿の言うとおりだなぁ。では2割増しで我が商会が独占輸入でいいかい?」


「そうですね。ではお互い契約書にサインをしましょうか?」


このようにサインを交わして契約終了。

「貴殿とはまた共に仕事をしたいものだ!」

と、『ラルク商会』の商会長は言う。


「それは有難いことです。ホーラ領地には他にも作物なりありますから、その折にどうぞお越しください」

顔が二度と来るなよ。面倒臭いと言っている。


『ラルク商会』商会長をお送りして面談は終了した。



「はぁーー面倒だった―!!デヴィ、憂さ晴らしに騎士団の鍛錬場に行く!」

あぁ、騎士たちがフレデリック様の八つ当たりに…。




「ハハハ。あのぽっちゃりとした伯爵様がこのようにがっしりとしたイケメンになろうとは誰が思うでしょうか?」


「俺の黒歴史だ、団長やめてくれ」

剣を交えながらの会話。俺にはできない。求められないが。他の団員が犠牲にならなくてよかった。


「何か嫌な事があったのですね?剣筋が物語っております」


「団長!わかるのか?」

水を得た魚のようにフレデリック様は団長を見た。


「ハハハ、カマをかけてみただけですよ。その様子だと本当にあったご様子」


「あぁ、商談が面倒だった」


「領主も大変ですね。私は体を使っているだけでいいですから楽といえば楽ですけど、領主ともなると頭脳戦ですか?大変そうです。私にはできない」


「今は無理でも努力すればできるぞ?」


「騎士を辞めて収入がない状態で努力するわけにもいかないので、無理ですなぁ」

そうだ。あの努力は安定した収入あってこそ成立するのだ。



散々憂さ晴らしも終えて、部屋に戻ると寝台に倒れこもうとした。

「おやめください。ベッドが汗臭くなるのでまずはシャワーを浴びて下さい」


「面倒だな」


「汗臭い自分とベッドがお好みなら止めません」


「シャワーを浴びる」

かなりの即答。汗臭いのは嫌いなんだな。覚えておこう。



翌日、また寝起きの悪い主を起こす。

「フレデリック様、朝です。起きて下さい。本日の予定は王宮でのパーティーです。エスコートするのは奥様ですが」


そう、この男はぽっちゃり時代に婚約破棄されているので、婚約者がいない=エスコートする相手がいない。本来奥様は旦那様にエスコートされるものですが旦那様がお亡くなりあそばしているので、フレデリック様がエスコートすることになっている。


「王宮でのパーティーですので、午前中より支度を。湯殿に浸かり、頭皮マッサージされ、あらゆるところの汚れを落とし、一張羅を着て、飾り立てていくのです」


「そこまでするのは、女性で良くないか?」

それはそうだが、男性もそれなりに飾り立てるのがマナーだろう。

この男…マナーもマスターしている…。

「午後からで間に合うだろう?」

正論をぶちかましてきた。


「どっちにしろ、起きて下さい。このままでは朝食も食べることが出来ません!」



午後からフレデリック様も飾り立てた。奥様も麗しいが、フレデリック様が流石世間で眉目秀麗・才色兼備と言われているだけの事はある。伯爵としての余裕というか威厳というかそれもある。

以前婚約破棄をした令嬢。歯噛みをするでしょうけど、上辺だけで人を判断するから痛い目を見たという事でしょうか?

今のフレデリック様は、面倒嫌いで内面が嫌な感じですけど。


パーティー会場では当然のように、フレデリック様親子が目を惹いた。

「フレデリック様、この間『ラルク商会』との契約で『ラルク商会』の商会長に気に入られたらしいわよ」

「フレデリック様は今日も眉目秀麗よねぇ」

『ラルク商会』との話は一体誰が漏らしたんだ?面談は内密にしていたはず。


社交の場であるが、ダンスはフレデリック様親子で踊る。

奥様はまだまだ踊れる。


フレデリック様へ秋波をおくる令嬢は多々いる。伯爵家の世継ぎはフレデリック様一人なので、令嬢は伯爵家に嫁ぐことが出来る令嬢に限られる。そうすると…。


「あーもう、何でうちは跡継ぎの男がいないのよ?私が婿取りしなきゃいけないからフレデリック様とは絶対に婚姻できないじゃない!」

と、地団太を踏む令嬢が続出。

他にも自分にもチャンスがある!と、思い込んで婚約者がいるにも関わらず、婚約破棄を一方的に言い、虎視眈々とフレデリック様を狙っている令嬢もいる。

婚約破棄をするならば、フレデリック様を確実にモノしてからにすればいいのに…。まぁ、倫理的に婚約している令嬢には手を出さないだろうケド。



「フレディ、いい加減お相手を決めたらいかが?」


「そうは言ってもですねぇ」

流石にフレデリック様も奥様の言葉には逆らえないか?


「俺の容姿とかに寄ってくる令嬢に興味はないんですよ。もし、俺が昔みたいにぽっちゃり体形でも彼女たちは寄ってきたでしょうか?答えはNOですよね?なんで嫌なんです」


「まぁ、そうね。容色なんてうつろうものだし?」

このような会話をダンスをしながらするのです。この親子は凄いです。


「ところで、フレディはどんな女性が好みなの?」


「そうですね。賢い判断ができる女性がいいですね。今度『ラルク商会』の商会長に聞いてみようかなぁ?」


「そうね。ここでフレディに秋波を送ってる令嬢は賢そうじゃないわ」



疲れたという理由で親子は帰ることにした。


そして王宮でのパーティーは幕を下ろした。もちろん国王に挨拶済み。



『ラルク商会』の商会長にはなかなか会えないので(商会長は忙しい)、書簡を送っておいた。

意外にも返事は早く来た。

「我が商会で働く娘を一人紹介しよう。もちろん器量も気立てもいい娘だ」


と、『ラルク商会』の商会長が紹介してくれるようです。俺はほっと一息。ホーラ家も長く続くといいのだが…。



「デヴィ、お前はいつ結婚するんだ?」

そういえば、フレデリック様のお世話で精いっぱいで自分の事忘れてた。とはなかなか言えないな…。


「誰とですか?」


「俺付きの侍女と」

名前も覚えてないんですけど?誰だろう?


頬を染める侍女が一人いる。何故?俺は手を出した覚えはない!とりあえず名前を聞こう。

「名前は?」


「アスカです」

東方系の名前だな。


「正直、俺はお前の名前を初めて聞いたのだが?」


「あの…私が一方的にお慕いして…」

何だ?あの男、他人の色恋に鋭いのか?


「そういうわけだ。で、デヴィどうする?」


「えーとですね。今はフレデリック様のお世話で精いっぱいなのが現実です。なので、フレデリック様の婚姻が決まってから改めて考えましょう」

と、俺は言った。


「俺は赤子か――――!!」

と、フレデリック様は怒るけど、そのようなものです。



『ラルク商会』の商会長が紹介してくれた娘、ティンク嬢は結構すぐにホーラ領主の元にやってきた。

流石は目が肥えた商会長。器量がよい。気立てもよいのかぁ。で、賢いと。


「まず、何で城なの?家族で暮らすなら城である必要がないでしょう?無駄を減らせばその分費用の節約になるわ」


「城である理由は他の領主への牽制です。舐められないように、「こっちはこんなに潤ってるぞ」というのを見せつけているのです」

俺が反射的に答えた。


「それになんの意味が?潤っていることをアピールすれば、逆にこの土地が欲しくなるんじゃないかしら?」

確かにそうだなぁ。と思ってしまった。


「しかし、今更この城を取り壊すとしよう。その費用はどこから捻出する?新たな領主家族の住まいは?と費用がかかる。城を金箔で覆っているわけじゃない。そこにあるから利用しているに過ぎない」


「なるほどね。反射的に答えた方は従者の方かしら?私を言い負かしたのがフレデリック様?であってる?かな?」


「初めましてティンク嬢。私がこのホーラ領主のフレデリック=ホーラだ。よろしく頼む。彼は俺の乳兄弟で幼馴染のデイビッド=サターン。俺の従者をしてもらっている」

一人称が『私』から『俺』に変わったな。そのうち変わると見越して、さっさと変えてしまったんだろう。


「紹介されました私はフレデリック様の従者をしておりますデイビッド=サターンと申します。以後お見知りおきを」

確かに器量も気立ても良く賢い娘だと思う。『ラルク商会』、すごいなぁ。



とんとん拍子にフレデリック様の婚姻が決まり、多くの令嬢が歯噛みした。


「えーと今後はティンク嬢を『若奥様』とお呼びいたします。今後も宜しくお願い致します。私の事は気軽にデヴィとお呼びください」


「そう。それで、デヴィはいつ結婚するの?」

この夫婦は!夫婦揃って他人の色恋に敏感なのかい!


「あぁ、アスカですね。そうですね。フレデリック様の手がかからなくなりましたし、彼女と真剣に向き合うべきですね」

ちょっと忘れてた。そういえばそうだった。アスカが若奥様に相談をしたのかもしれない。正直アスカの容姿は好みじゃないんだよなぁ。しかし、人間は見た目ではないし。


「アスカ、アスカはどういう人間なんだ?それが知りたいから互いの休みが重なる時(あるのか)にデートをしよう」

と、とりあえずのところそのようにしてみた。そうすればアスカの為人(ひととなり)がわかるかもしれないから。



誰の陰謀なんだ?俺とアスカの休みが重なるというミラクルが早くも決定した。つまり本日なのだが…。

アスカはいつものメイド服ではないのですごく新鮮に見えた。好みではないが。


「いつもお忙しい中私とのデートに時間を割いていただきありがとうございます」

非常に丁寧。好印象。

「まぁ、約束だからな」


アスカは俺を楽しませようと懸命に頑張っていた。その姿はいじらしい。

……のはいいが、俺達をつけてくるフレデリック様と若奥様。バレバレなんですけど?

「とりあえず、あの二人に退場をお願いしよう」

と、俺はフレデリック様と若奥様を家に帰ってもらった。


「護衛の方もいらっしゃるのでしょう?迷惑ですから、お帰り願います」

と、一蹴した。本当に蹴りたかった。


まぁアスカがどういう人間かわかった。

一生懸命俺の事を想ってくれている。なかなかそんな人物はいないと思う。

俺はすぐにアスカにプロポーズし、了承してもらった。

アスカの両親にも挨拶をし、籍を入れるだけの簡単な婚姻となった。アスカは嬉しそうだけど。

本当はドレス着たりしたかったのかもだけど、従者と侍女ではなかなか時間が合わないので、この形となった。



結婚後、しばらくフレデリック様と若奥様にいじられたが、若奥様が妊娠しそれどころじゃなくなった。


フレデリック様が早起きし、朝食を食べている。

俺は自分の眼を疑ってしまった。

「フレデリック様、面倒な事嫌いなのでは?」

と、俺が聞くと「それどころじゃないだろ?」と、答えられた。


面倒が嫌いになったのは別に遺伝しないだろうから、いいのに。あっ、若奥様の手前ダラダラしてるわけにはいかないと?嗚呼、フレデリック様が真人間に!


「この後は騎士団の方に顔を出すつもりだ。ああ、ティンクも心配だ。やる事がいっぱいだ」

そう言って、フレデリック様はダッシュして騎士団の方へと行った。

フレデリック様がダッシュするのは何年ぶりだろう?


若奥様を気遣いながら、執務室で書類仕事をこなし、まさに文武両道という感じでよいけいこうだった。…御子が生まれるまでは。


御子が生まれると、馬鹿親も生まれた。ベビーベッドにくっついている。

「ああ、可愛いなぁ。我が息子」

ホーラ領主がフレデリック様で絶えることがなくて良かったと思う。

「して名前は?どうすんだよ?この馬鹿親領主!」と、俺は久しぶりにフレデリック様を罵った。


「アシュタルよ」と、若奥様が応えてくれた。


ホーラ領の収入も良好。当主の跡継ぎも誕生し、もういいだろう?

え?領主の屋敷の執事になるようにとの辞令。


「面倒なので辞退してもいいですか?」








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