第22話 何者
やはりそう簡単にはいかないか。立ち上がる炎を見つめながら敵の強さを実感した。今までのような、イノシシの怪人程なら倒せていたかもしれない。だが、こいつは格が違う。この程度ではやられるわけがないと想定済みだ。
「まさか、俺達がここまでダメージを負わされるとは思ってもいなかった。でもその程度だ。所詮は人間。俺にほんの少しダメージを与えただけだ」
そう言う犬の怪人は体にまとった炎を一瞬で消した。どうやってやった?オーラの応用か?何にせよ大きなダメージではなさそうだ。
「この程度じゃダメか。よしもう一度連携を取るぞ」
「そうね、何度も仕掛けるしか無い。ダメージはありそうだから向こうが倒れるまで戦うしか無い」
そう言いガンジュとユリは構えた。俺も戦闘態勢を整える。やはり俺がやるしか無い。そう思った。今人間を越えれるのはこのスーツの力を持っている、オーラを扱える俺しかいないだろう。この二人、リョウヘイも含めて所詮は人間だ。少し強くなったからと言って簡単に倒せる相手でもない。ここは俺が・・・。
そう思った矢先、犬の怪人が動いた。狙いは・・・、ユリか。
「一人ずつ確実にやらなきゃなぁ!!」
まずい。犬の怪人の攻撃の速度が確実に上がっている。一瞬でユリの懐に潜り込み足払いでユリを倒す。ユリはそれに反応できていない。俺はすぐにフォローに回る。犬の怪人はユリに対してマウントポジションを取る。
「これなら自慢の足技も使えねえだろ!」
ガンジュが俺よりも早くユリのもとに着き犬の怪人を殴る。が、その攻撃は片手で簡単に受け止められてしまう。犬の怪人のその口元にはあのほほ笑みが戻っていた。
「おいおいおい、そんなんじゃ止められねえよ!!」
ガンジュは簡単に弾き飛ばされる。犬の怪人はユリの方に向き直し、思いっきりその顔面を殴った。ユリの口元からは血が流れる。二発目はやらせなかった。その前に今度は犬の怪人の今にも殴りかかろうとする手を俺が止める。
「そう簡単にやらせるか」
俺は犬の怪人の手を上に持ち上げユリの上からどかそうとする。が、そう簡単には動かない。また薄ら笑いを浮かべている。俺はすかさずその腹に蹴りをいれる。すると今度は犬の怪人の体がユリの上から離れていく。
「ははあ、やっぱりお前しかいないよなぁ」
犬の怪人は俺にターゲットを変えたようだ。こちらに走ってくる。が、様子は今までと違う。今度はその手を地面につき四足歩行、まるで本物の犬のように向かってくる。二足と四足、そのスピードは二倍、いや二倍以上になっていると言っても過言ではない。そのすごい衝撃が俺の腹を襲い、背中まで貫いた。腹を見るとどうやら噛みついているようだ。だが、その歯はスーツまでは貫けていない。ただ、その衝撃だけがダメージとして残っているのだ。
「ぐっ・・・」
声が漏れる。とてつもない衝撃だ。まるで新幹線にぶつかったのかと思うほどに。だが、不思議と動けないほどではない。このスーツのおかげか?俺は犬の怪人の腹に手を回しグッと力を入れる。頭上ほどまで持ち上げたのち思いっきり地面に叩きつける。
「うお、パワーボムじゃないっすか」
リョウヘイの声が聞こえる。
「リョウヘイ、こいつは俺に任せろ。お前はガンジュとユリを頼む」
「オッケーっす」
「いや、俺は大丈夫だ。ユリが・・・」
どうやらユリは気絶しているらしい。どれほどのダメージかわからない。
犬の怪人は起き上がりこちらにより近づいてくる。額と額がぶつかる。
「やはりお前だ。お前とじゃなきゃ相手になんねぇ。楽しくねえんだよ」
「お前と遊ぶつもりはない。これ以上仲間をやられるわけにはいかないからな。ここで終わりにしてやる」
「そのスーツのおかげでえらく自信満々なんだな。だが、いつまで続くかな!!」
犬の怪人が額から顔をずらし俺の首元に噛みつく。
「ぐあっ」
先ほどとは違い今度はその牙が刺さる。スーツのおかげで深くは刺さっていないがこれ以上食い込めば出血は相当の量だろう。
俺は引き離すべく、怪人の口に手を当て力を込める。が、びくともしない。これはかなりの力だ。まったく動きそうにない。すぐに腹に足にと攻撃をするが顎が外れる様子はない。むしろ少しずつ力は強くなっていく。このままならやられる。
「エイタさん、これ!!」
右手に何かが渡される。これは・・・、スターゲイザーだ。この状況で野球バットほどの長さがあるスターゲイザーを振り回していけるのか?一瞬疑問が沸いたが俺はスターゲイザーを信じる。が、思うように振ることができない。
「エイタ、突け!」
そうか。俺はスターゲイザーを犬の怪人の腹にまるで槍を突くかのように突く。
「頼むスターゲイザー、俺に力を貸してくれ!」
その言葉に呼応するかのようにスターゲイザーは光を灯す。いや、灯すではなく放つと言った方が適切かもしれない。徐々に光は大きくなりまばゆいほどの光を放つ。ありがとうスターゲイザー。俺に力を貸してくれるのか。
光が大きくなるにつれて犬の怪人の顎の力が緩くなっていく。俺はすかさず犬の怪人を蹴り距離をとる。
なんだか、犬の怪人の様子が少し変だ。動きが止まり目を見開いている。スターゲイザーのおかげか?だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「ヘラクレス・・・様?」
ヘラクレス?何だそれは。俺はその言葉に構わずスターゲイザーで犬の怪人の頭部を殴る。今までのが嘘のようにいとも簡単にその攻撃は犬の怪人にダメージを与えた。ゆっくりとその体は倒れていく。なんだ、何が起こっている?これもスターゲイザーに隠された力なのか?
俺はその倒れゆく犬の怪人を見ながらスターゲイザーの力を疑った。こいつは一体何なのか。なぜここまでの力があるのか。ユリやガンジュ、リョウヘイの武器と同じで怪人から作った武器とは違うのか?
犬の怪人はそのまま横たわったまま動かなくなる。やったのか?この一撃で?とてもじゃないが信じることはできなかった。
「エイタ・・・、トドメだ、もう一度攻撃して完全に息の根を止めるんだ。次起き上がった時にどうなるかわからん」
俺はガンジュの言葉に従い再度スターゲイザーを構える。確かに、今の攻撃でこいつが倒せたとは思わない。また次起き上がるときネメアのように暴走する可能性もある。そうなる前にトドメを刺す。
「何だお前は・・・」
後ろから声が聞こえる。
「エイタさん避けて!!」
俺はリョウヘイの声で振り返る。と同時に顔面に拳が飛んでくる。
なんだ?俺は何が起こったかわからなかった。が、その攻撃が大変重たいことは一瞬で悟った。こいつは強い。
俺は倒れながらその攻撃の相手をしっかりと見た。
「お前は・・・、この前の」
眼の前に立っていたのは前回、犬の怪人と戦ったとき急に現れたフルフェイスを被った人物だった。今日も同じ格好をしている。
「味方じゃなかったんすか?」
リョウヘイの言う通りだ。この前は俺とリョウヘイと一緒に犬の怪人と戦っていたはずだ。それなのになぜ今俺が殴られている?こいつの目的は何だ?
「お前は何者だ?なぜ邪魔をした」
そのフルフェイスはこちらの問いに答えること無く犬の怪人の方に歩いていく。俺は立ち上がりながらその人物を止めようとする。が体が思うように動かない。まるでこの男の威圧感に屈したと言わんばかりに。
「何をする気だ。そいつは今俺がトドメを刺すところだ。どけ!!」
その言葉に反応するようにフルフェイスはこちらを向き、ふんっ、と鼻で笑ったように見えた。
「こいつは俺が預かる」
初めてフルフェイスが喋る。が、声は機械音になっており正体は掴めない。しかし今こいつは自分で「俺」と名乗っていたような。ということは男である可能性は高い。が、声を隠しているところを見ると女である可能性もある。体の線は細いが、かと言って女性とも限らない。つまるところ何も正体につながるヒントがないのだ。
「お前が何者かわからない以上、そいつを渡しすわけにはいかない。そいつがまた街を破壊しても困るからな。今ここで殺す」
「いや、だめだ。それはベストな選択ではない」
「じゃあ、どうするんだそいつを」
フルフェイスは答えない。ゆっくりと犬の怪人の体を起こしていく。
「やめろ、それ以上その怪人に触ると敵とみなす。こちらも攻撃をせざるを得ない」
「・・・ホウ」
そう言いながらフルフェイスはこちらを向く。ぐっ、なんて威圧感だ。小さく見えるその体が何倍にも膨れ上がり遥かに俺を凌駕するほどに感じてしまう。俺の頬に汗が流れるのを感じるほどに。
不意に俺の耳を何かがかすめた。 それはフルフェイスの足元に刺さる。リョウヘイの矢だ。
「エイタさんの言う通りにするっす。そいつはここでこっちがやるんで」
「フフフ」
フルフェイスは少し笑ったかと思うと、犬の怪人を置きリョウヘイの元に走っていく。その威圧感に俺は動けない。あっという間に距離を詰めたフルフェイスはリョウヘイの弓を抑え、耳元で何かを囁いた。するとリョウヘイは膝から崩れ落ちる。
クソ、なんで俺の体は動かないんだ。俺はそのプレッシャーになんとか抗うようにスターゲイザーを支えに立ち上がる。
「待て!俺が相手だ!」
俺は辛うじて立つ。気を抜けば今にも押し潰されそうだ。が、ここで犬の怪人を逃がす訳にはいかない。
「ホウ・・・」
俺は気力を振り絞りフルフェイスに向かってスターゲイザーを振り下ろす。だが、その攻撃は片手一本で止められてしまう。すぐに戻そうとしたが、びくともしない。なんて力だ。どこにそんな力があるというのだ。俺はぐっと更に力を込める。するとフルフェイスはパッとその手を離した。俺は勢い余って尻もちをつく。
「フン」
クソが、どこまで舐めてるんだこいつは。俺は頭に血が上るのを感じ、それに身を任せた。すぐに立ち上がりもう一度攻撃する。
こいつは何者なんだ。
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The HERO ~NO.4~ 矢口ウルエ @yaguchi-urue
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