第21話 再戦

 俺たちはすぐに準備をし現場に向かった。どうやら前回出てきた犬の怪人が再び現れたらしい。前回はオーラも出ず苦戦していたところを謎の人物に助けられたが、今回はそうはいかない。それに俺も新しい力を手に入れている。簡単にはいかないだろうが負ける気はしなかった。


「おお、待っていたよ!早く戦おうぜ!て、前回より増えてねえか?まあいいぜやろうぜ!」


 現場に着くなり犬の怪人はやる気満々だった。


「この前のようにはいかない」

「この前?あー、なんかあったっけか?あんまり覚えてねえな。まあいいややろうぜ!」


 そう言うなり犬の怪人はすぐにこちらに向かって走ってきた。速い。俺は着装する間もなく辛うじてスターゲイザーで受け止めるのが精一杯だった。


「ほらほら、そんなんじゃ死んじゃうよ?」


 犬の怪人はその爪で二撃目を放ってくる。さすがに避けきれなかった。俺の頬をかすめる。耳元で風を切る音がしっかりと聞こえた。


「あぶねえな」


 俺は反撃開始と思い、犬の怪人の腹を狙いスターゲイザーを振る。鈍い音が鳴った。が、それだけだ、手ごたえはまるでない。


「ははあ、こんなしょぼい攻撃しかできねえのかよ」


 犬の怪人はにやにやしながら余裕そうな表情をこちらに見せつけてくる。


「これじゃすぐに終わっちまうなー」


 そう言いながら独特なステップを踏み始める。

その瞬間、何かが犬の怪人に向かって飛んでくる。炎を纏いながらこちらに向かってきている。犬の怪人が気づいている様子はない。直撃する寸前、怪人はその矢の方にくるっと向きを変え右手で掴んだ。


「さすがに気づくよ」


 にやりと口元を緩ませた瞬間、体が炎に包まれていく。轟轟と音を立てるその火は、今まで見た火と比べものにならなかった。


「これ改良したんすよ」


 リョウヘイの声が聞こえる。


「この前の鳥の怪人から武器を改良してくれて。おかげでパワーアップしたっす!」


 確かに明らかに攻撃力が違っている。今がチャンスか。

 チームは一斉に攻撃を開始した。ユリの蹴り、ガンジュの拳、ともに炎の中心を捉えた。続けて何度か攻撃を繰り返している。中の様子はどうなっている?手ごたえはあるのか?ダメージは?


 炎が徐々に消えていく。中からは少し焦げ付いた犬の怪人が現れた。


「なんで、なんでこんな1人に対してたくさんで攻撃してくるんだよ・・・。いじめじゃないか・・・」


 これは・・・。まずい。


「ユリ!ガンジュ!離れろ!攻撃が飛んでくるぞ!!」


 やはりそうだ。犬の怪人は光の球を掌に作りユリとガンジュ目掛けて放つ。二人はギリギリのところで避けていた。


「危なかったな。なんか雰囲気がさっきと違うぞ。気をつけろ」

「こいつは近距離と、遠距離と二つの攻撃パターンを持っている。今は遠距離だ。恐らくそのタイミングで雰囲気が変わるんだ」

「なるほどね。どおりで先までと感じが違うわけだ。来るわよ」


 犬の怪人は再びオーラを練り球を作る。今度は何が来る?大きな球ではなく小さな球を作っている。それを体の周りに浮かせ、すべて並べ終わったのか両の掌を合わせている。


「あんまりだぁ」


 そういうと球がこちらに向かってくる。それは避けようとしたが数が多すぎる。球に触れてしまった。その途端、体が弾き飛ばされる。とてつもない威力だ。ヘビー級ボクサーのパンチよりも強力な威力かもしれない。俺は後ろへの交代を余儀なくされた。どうやら他のメンバーも同様らしい。インカムから声が聞こえてきている。リョウヘイまでもがダメージを受けたようだ。


「ああ、怖いよぉ。怖いよぉ」


 犬の怪人はさらに追撃を準備している。クソ、このままだとやられてしまう。俺は何とか立ち上がる。どうやらこいつの出番らしい。俺はベルトを触る。


「まだか、まだ戦わなきゃダメみたいだぁ」


 犬の怪人はこちらを見ている。


「勝負はこれからだよ!行くぞマイ。着装!」


 俺の体が蒸気で包まれていく。俺は右手をその蒸気を切り裂くように振り下ろす。目の前がパッと開かれる。


「なんだよそれはぁ」

「行くぞ」


 俺は犬の怪人まで駆ける。すぐに距離を詰める。こいつは遠距離型だ。交代する暇など与えない。俺は拳を怪人の腹を目掛けてぶつける。「ぐは」どうやら手ごたえありだ。続けて下がった頭に右ひざをぶち込む。しっかりとダメージがあるようで、顔が打ち上げられる。そこにアッパーを叩き込んだ。 

 犬の怪人は後ろによろよろと後ずさる。どうやらかなりのダメージはあるようだ。


「ははあん。すげえ力だ。人間にこんな奴がいるとは思わなかったよ。こっち本気でいかねえとな!!」


 犬の怪人は言葉通り本気を出すらしい。体の周りをオーラが覆っていく。威圧感がこれまでとは比べ物にならない。


「来いよ」


 俺は構えをとる。するつ犬の怪人はこちらに向かってきたので、そのまま受け止める。予想通りかなりの力だ。こちらも出力を上げなければ。俺はさらに力を籠める。どうやら同じくらいの力らしい。両者ともピクリともしない。


「やるなぁ。人間のくせに」

「こんなもんじゃねぇよ」


 俺はさらに力を込めていく。徐々に押し込める。俺は相手の力の方向を変え、横に崩した。そしてよろけたところに蹴りを叩き込む。


「があ」


 犬の怪人は後ろに倒れこむ。いける。このまま叩き込む。俺は追撃するようステップを踏みサッカーボールを蹴るように犬の怪人に攻撃する。


「ぐはあああ」


 犬の怪人は倒れこんだまま、少し飛んでいく。


「痛てえなおい。こんな痛いのは久々だよ」


 その口元にはどこかまだ余裕が感じられる。


「そろそろ終わりにするぞ」


 俺がスターゲイザーを拾いに行こうと後ろを向いた瞬間、ゴンと頭に鈍い音と衝撃を感じた。俺がすぐに振り返ると犬の怪人は手にオーラを作っていた。それがこちらに飛んでくる。それを避けながら言う。


「おいおい、その程度の攻撃じゃ今の俺は倒せない」


 犬の怪人は立ち上がり、こちらを真っ直ぐ睨みつけながら、


「こっからが本番だ」


 と言った。その表情に薄ら笑いは消えている。今度こそ本気のようだ。俺はスターゲイザーを拾い上げ、構える。


「来いよ」


 俺の言葉を皮切りに二人同時に走り出す。俺がスターゲイザーを振り下ろすと同時に犬の怪人も爪をとがらせたその右腕を振り下ろす。


ガキン。


と大きな音を立て、周囲に衝撃波が広がる。


「うわっ」


 リョウヘイの声が聞こえた気がした。


「今度はきちんと本気みたいだな」


 俺はニヤリと犬の怪人に伝えた。だが、返答はなかった。犬の怪人は何か呆気に取られた顔をしている。なんだ?本気じゃなかったのか?それとも戦意喪失か?

 俺はその隙を見逃さず、がら空きのボディに前蹴りを入れる。そのまま犬の怪人は後ろに飛んでいく。俺はすぐに距離を詰める。が、犬の怪人はすぐに意識をこちらに向け体勢を整え、こちらに反撃をしてくる。真っ直ぐ伸びてくる右の手が俺の顔面を捉えた。が、大丈夫だ。このくらいなら耐えれる。俺はその攻撃に耐え、スターゲイザーをその腕に振り下ろす。犬の怪人の腕は真っ直ぐ下に落ちていく。


 すかさず俺は回し蹴りを。だが、犬の怪人はそれをしゃがんで避けた。そのまま足をすくわれ俺はバランスを崩した。まずい。そう思った時には上に乗られていた。


「さっきまでの威勢はどうした」


 ものすごい勢いで右、左とパンチが繰り出される。俺は両手を顔の前にあげガードするが、それでもすごい衝撃だ。あと何発耐えれるだろうか。その攻撃は休まることを知らないようだった。まずい。反撃の糸口が見つからない。そうして、1発、2発とクリーンヒットの数が増えてくる。右手が真っ直ぐ顔面に伸びてくるのが見えた瞬間、何かが犬の怪人の顔面を捉える。

 その勢いで犬の怪人は俺の上から離れた。助かった。何が起きた?答えは簡単だった。ユリとガンジュが二人同時に蹴りとパンチで退いたのだ。


「大丈夫か?」


 俺はこちらに差し出されたその手を掴み起き上がる。


「ああ、助かった」


 俺はスターゲイザーを拾い直し犬の怪人を見る。相当きてそうだ。


「おいおい、これだから1対多数は卑怯なんだよ。どう考えても俺が今勝つ流れだったろ・・・ああ、むかつくなぁ!!」


 そう言いながら犬の怪人は立ち上がりこちらに攻撃を繰り出す。俺、ガンジュ、ユリはそれを避け、3人で犬の怪人を取り囲む。


「うぜぇ!!」


 犬の怪人はまずユリに攻撃を仕掛ける。ユリはそれを足で捌く。やはりあの強化武器はある程度やれるようだ。攻撃を受けても平気なのは生身じゃありえなかっただろう。ユリはそのまま中央へ押し返す。犬の怪人は押し返されたその勢いのまま、ガンジュの方へと攻撃する。


「ふん」


 ガンジュはその手を受け止め、まるで力比べをするかのように組む。どうやら力は互角か、ガンジュの方が少し上回るか?だ。ガンジュが徐々に押し返す。その勢いで俺の方に犬の怪人を押し付けてくる。俺はその投げられた怪人をスターゲイザーでまるで野球のように打ち返す。


 犬の怪人は俺たちの環を外れ吹き飛んでいく。止まったその瞬間、矢が犬の怪人を襲う。一瞬でその身体を炎で包んだ。


「いい連携だったすね!」


 リョウヘイの声が聞こえる。


「これなら他の奴らも倒せそうね」


 ユリも期待に胸を躍らせているようだ。


 確かに、今までよりもはるかに強力なはずの敵をいとも簡単に攻略している。今までの俺たちなら簡単に殺されていた、もっと苦戦していただろう。それがここまで無事なのはこの強化武器と、一人一人の経験かもしれない。


が、簡単には終わらなかった。そんなに力をつけていたわけではなかったようだ。


「おいおい、何勝った気でいんだよ。まだなんも終わってねえよ」


 炎がゆらりとゆっくりと立ち上がる。

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