第20話 迷子
「それにしてもすごい力っすね。オーラとかいうやつも簡単に出せるんすか?」
「多分、感覚的に常時攻撃の時に出ている感じがする」
「ほえー、もう最強じゃないっすか」
俺とリョウヘイはトレーニングルームにてスーツの威力を試していた。やはり生半可な力ではない。この力があれば確実に敵を倒せるだろう。だが、疑問がある。なぜこのスーツが急にできたのか。あのベルトはなぜ他のヒーローたちと同じ形だったのか。
「色々聞きたそうな顔をしているね」
「えっ!No.2 !?なんでここに?珍しいっすね。てか初めてかも」
「エイタ、君のそのベルトの秘密が知りたいんだろ」
「そうですね。わからないことだらけです」
No.2はゆっくりと俺達の周りを歩き出した。
「そうだね。じゃあまずなぜそのベルトを届けたのか。から、話そうか。それはね、敵が強くなっているからだ。いや、それだと理由にはなっていないか。そうだな。そのベルトはネメアを元に作ったものなんだよ」
「ネメアを元に?」
「そうだ。彼の組織を少し借りてね。それでそのスーツができたというわけだ」
なるほど、確かにやつもオーラを使っていた。それならば俺がオーラを常時出せるのにも納得がいく。
「じゃあ、なぜこのタイミングなんです?」
「それは単純にネメアを倒してから作ったからね。ようやく完成したってことだよ」
「じゃあ・・・、」
俺は少し間を空けた。
「なぜ、ベルト型にしたのか?かな」
「はい」
「それは簡単なことだ。君のやる気を一番引き出せるのがその形だと思っただけだよ。現に、わかりやすかっただろう?」
「はい」
No.2はちらりとこちらに白い歯を見せる。
「あとは、聞きたいことはあるかな?」
「いえ・・・、大丈夫です」
「よしよし、私も戻るとしよう。なにか不具合があれば開発の方に聞くと良い」
そう言うとNo.2は姿を消した。俺のやる気を一番引き出せる・・・。確かにそうかも知れない。
「やっぱりエイタさんも好きなんすね」
「え?」
「いや、ヒーロー。No.1とかNo.3のことっすよね?そのベルト見たときすぐにビビッと来たんすよ」
俺は腰に巻かれているベルトにそっと触れる。そうか、彼らと同じになったのか。彼らの今までの活動が頭で思い出される。初めてニュースでNo.1を見たとき、No.3の初陣、そして最後・・・。
「あれ、エイタさん大丈夫っすか?どうしました?」
「いや、何でもない」
俺は頬からこぼれ落ちるのを無視することができなかった。つい拭ってしまった。
俺たちはトレーニングルームを出た。すると、部屋の外でガンジュとユリと遭遇した。
「あら、あなたたちも来てたのね」
「お二人も新装備の調整っすか?」
「ああ、だいぶ馴染んで来てはいるがそれでも俺たちのような人間が持つには強力すぎる。少しでも感覚を生身に近づけたいからな」
「さすがっすね。いいなー俺も欲しいなー」
「エイタの方はどうなの?順調?」
「ああ、だいぶ感覚は掴めてきた」
「さすがだな。俺たちとは違い普通の人間を超えているお前だからこそだろう」
そう言いながら二人は部屋へと入っていった。
人間を超えているか。だが、その程度の力では怪人を倒すことなどできなかった。確かに、スターゲイザーの力を借りることで何体かは倒すことができた。だが・・・。ネメアと戦ったあたりから自身の限界を感じた。奴のような奴と戦うには、もっと力が必要なのだ。
俺とリョウヘイも互いに二人の部屋へと戻っていく。
今回のベルトを手にしたことで確かにより大きな力を手に入れることができた。だが、この力はなんだ?オーラとは何なんだ?どうすればもっと力が手に入るのだ。考えど考えど答えは出なかった。だが、誰かが言っていたようにオーラとは心の動きのようだ。俺が最初に発動したときは仲間を守る場面だった。その次もそうだ。このベルトで常時出ている理由はわからないが。考えるほど深みにはまっていくような気がした。
その夜、奇妙な夢をみた。花火大会の夜、何者かが自身の首を絞めている。何か言い争いになっているが、何を言っているのかうまく聞き取れない。相手の顔は・・・。これもまたうまく見えない。暗闇に紛れている。どうやら橋の下のようだ。首に加わる力がどんどん強くなっていく。苦しい。誰か、誰か助けて。あまりの力の強さに首の皮を指が貫通し、肉まで達しているような感覚だ。もうダメか。そう諦めた時、自分の口から勝手にこぼれる。
「みんな、すまない」
そうして首の骨が折れる感覚と共に目覚めた。嫌にリアルな夢だった。なんだよこれは。首を搔こうと触れた瞬間、その汗の異常さに気づく。クソ。俺はしばらくベットから動けずにいた。
今の夢は何だったんだ?今の場所、どこかで見たことあるような。見覚えのある場所だったがはっきりと思い出せず、ただぼんやりと、モヤモヤするだけだった。
コンコン。と部屋をノックする音が聞こえた。俺は体を起こし部屋のドアを開ける。そこにはNo.2がいた。
「え、どうしたんですか」
「すまない、ちょっといいかな」
「ええ」
No.2を部屋に招き入れた。
「どうしたんですか」
「いや、君の今の状態をもう少し詳しく聞きたいと思ってね。なんせ、着装したわけだろ?体に負担等がかかっていては改善の必要もあるしね」
「そうですか。ありがとうございます」
「いや、いいんだ。これでもMATのトップだからね。チームの心配をするのは当然のことだ。どこも悪いところはないかな?」
「ええ、今のところはないですね。戦っている最中や、着装している間に何か違和感を感じたこともありませんでした」
「ふむ・・・。そうか。それは何よりだ。感覚的には生身のころと違うかな?」
「そうですね、かなり違います」
「なるほど・・・。それならよかった」
No.2は何か考えている様子だった。
「何かありましたか?」
「ん、何もないよ。このまま戦って蛇の怪人まで倒せるかどうかが重要だ。奴は強い。今まで君が戦ってきたどの敵よりも。そこの計算をしていたのさ」
「俺なら・・・、今の俺ならやれる気がします」
「そうか、それならよかった。君が頼りだからね。何としてでも、マイ君の仇をとるんだ」
「はい、ありがとうございます」
「では、私は戻るとするよ。これから国との会議もあるしね。どうもまだ、この街だけの話だと思っているみたいだからね。今後数が増えたっておかしくないんだ。対策は打たないとね」
No.2はドアの前でこちらに向きなおし、
「何か変化があったら私にも教えてくれ。それによってスーツの調整が必要になるから」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言葉を交わし部屋から出ていった。
そうだ。俺はマイの仇をとるんだ。そのためにもこのスーツの力を最大気に引き出す必要がある。俺はマイのために。
のどの渇きに気づき、俺は部屋を出て飲み物を買いに行こうと思った。部屋を出ようとするとちょうど部屋の前を通過しようとする人がいたので、俺はぶつからないよう足を急停止させた。
「お疲れ様です」
そう言って彼女は部屋の前を通過した。ので、俺も後をつけるように部屋を出る。
姿から見るに、この施設内にある開発部かどこかの人間だろう。白衣を着ている。人間はこの施設だとそこの部署くらいだ。
ふと、この女性に違和感を覚えた。なんだ?どこか引っかかる。が、特段変わったことはない。じゃあなんだ。歩き方?いや、違う。それも普通だ。しばらく後ろを歩いて気づいた。匂いだ。匂いが気になるのだ。その正体が匂いとわかった途端、何が気になるのかその答えにたどり着いた。そうか、彼女と同じ匂いがするんだ。マイと同じ匂いが。恐らく、柔軟剤かシャンプーが一緒なのだろう。ふと、懐かしさを感じるこの匂い。どこかにホッとする自分がいる。
その女性は角を曲がり研究室なのか、一つの部屋に入っていき姿を追えなくなった。気づけばよくわからない場所まで来ていた。今まで俺は必要最低限の場所しか行かない、通らない。をしていたため、建物に何があるのかよくわかっていなかった。どこだここ。俺はしばらく歩いていたが、まったくわからない。これはもしや・・・。
気づいた。俺は迷子になったのだ。え?この歳で?俺はなぜだかじんわりと汗をかき始めた。頼むから誰にも遭遇しないでくれ。心の中でそう呟いた。いや、マジでどこだよここ。まずい、今ここで怪人が出現したら現場に向かえない。俺は頭を必死に働かせ、何とか知っている場所まで行こうと思ったがダメだわからない。改めてこの施設の広さに驚き感心するくらいだ。加えて自分自身の方向音痴に絶望した。まずいな・・・。
しばらく彷徨っているとどこからか声が聞こえた。
「彼の様子はどうだ?」
「今のところ問題なさそうです」
「そうか、おそらく彼なら大丈夫だと思うが」
「そうですね。あれは彼のためにあるようなものです。問題ないでしょう。それよりも他の3人の方が気になります」
「彼らも問題はないだろう。そこの調整は念入りにしてある。まあ、暴走なんかする余地もないだろう」
どうやら会話の内容からして俺たちの話をしているらしい。俺は壁際に体をつけそっと通路を覗き見る。が、どうもはっきり見えない。通路に立って話しているわけでもなく、部屋から声が漏れているだけのようだ。
「怪人の解析の方はどうです?」
「そっちは未だ進めている最中だが、どうやら地球の物ではない組織が使われている。その結果あの強度を生み出しているようだ。ただ・・・」
「やはりですか」
「そうだ。君の予想通りかもしれない」
「クソですね。わかりました。こっちもそれなりに探ってみます。引き続きお願いしますね」
「ああ、くれぐれも気を付けて」
部屋から出てくる影があったので俺はすぐに顔を引っ込めた。姿は一瞬しか見えなかったが作業着?を着た人間と白衣を着た人間だ。だが、一瞬だったので顔は見えなかった。
一体何の話をしていたんだ?おそらく俺たちの新しい武器と怪人の話をしていたようだが。俺たちの中で特別な人間がいるのか?よくわからなかった。
「エイタ?何してるの?」
俺は不意に声を掛けられてすぐに振り返った。そこにはユリの姿があった。
「こんなところで何してるの?エイタがこんなところにいるの初めて見たけど」
「いや、道に迷ってな」
「いやいや、普通住んでいるところで迷う?」
ユリはそういうと小さく笑った。
「ユリは何してんだ」
「私は散歩というか、冒険よ。こんだけ大きい施設だからたまに歩いてるの」
「なるほどな。ここはどこなんだ」
「この辺は研究室の近くね。ほら、私たちの武器作ったり」
「ああ、そういうことか」
俺は先ほどの会話を思い出し、納得した。ということはやはり研究者の話だったのか。俺はさっきの会話を思い出しながら、ユリが来てくれたことに不覚にも感謝をしてしまった。
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