第19話 変身
目の前にいたのは間違いなくガンジュだった。
「なんでお前が」
「遅くなったな。こいつの調整に戸惑っちまって」
ガンジュはその手に着けている物ごと拳と拳を合わせて叩いた。
「何だよそれ」
「んー、そうだな。話せば長くなるんだが簡単に言えば俺の新武器だな」
ガンジュの手には拳よりも一回り大きく、以前着けていたグローブとは違いどちらかといえばガントレットのような物を着けている。
がんジュはそのガントレットを着けた左手で鳥の怪人を捕まえる。そのまま右に着けたガントレットで鳥の怪人の頭を捉える。
「グエー!」
鳥の怪人は後退りする。どうやら俺のパンチよりも威力はありそうだ。先程の俺の攻撃よりも確実に効いている。
「オーラもないのになぜ・・・」
「不思議か?実はな」
と、ガンジュが言いかけたところで「ボシュ」右斜め前方から大きな音と竜巻のようなものが見える。
「あっちもやってるみたいだな」
ガンジュは何か知っているのかのような口ぶりだった。恐らく音の方向から考えると、
「ユリか」
ガンジュはにやりと口元を緩ませ、
「さすがエイタだな。リョウヘイのところにはユリに行ってもらっている」
なるほど。どうやら二人とも復帰したらしい。二人とも新たな武器を手に入れて。
「よし、こっちもやりますか」
ガンジュはそう言うとガントレット同士をぶつける。気合は十分。といった感じだろうか。ガンジュはそのまま走り、鳥の怪人にアッパーカットを喰らわせる。クリーンヒットしている。ガンジュはすぐにもう一撃ボディブローを入れ、最後は一本背負いだ。いかにもガンジュらしい戦いだと思った。
が、ここで一つ疑問が湧く。なぜ攻撃が効いているのだ?先程まで俺の攻撃は全く効いていなかった。だが、ガンジュの攻撃に対してはしっかりとダメージがあるように思える。なぜだ?ガンジュのその手にはオーラが出ているようには見えない。となると純粋に出力が上がっているからか?
「ガンジュ、お前の攻撃はなんで、」
と言いかけたところで後ろから「エイタ!」と声を掛けられる。振り向くとそこにはユリがいた。
「ユリ、リョウヘイの方はもういいのか?」
「全部倒したわ。あいつも今はガンジュにやられてもう一度鳥の応援なんか呼ぶ余裕ないでしょ。大丈夫よ」
「そうか」
俺はそう言いながら視線を下に落とす。ガンジュ同様にユリの足には以前とは違うものが装備されている。
「あ、そうそう。ガンジュから聞いた?私も一緒で新しいやつ。最高よ!」
「お前も新しいやつなのか」
「あら、あなたも欲しい?」
俺は一瞬答えに詰まった。確かに今のままじゃ限界に近い。戦えない。だが、頼っていいのか?だが、答えはすぐに出た。俺は力が欲しい。
「ああ、俺のもあるの」
「グエーーーー!!!」
言い切る前に鳥の怪人が大きく叫ぶ。どうやら先ほどと同じように援軍を呼んだようだ。
「もう、厄介ね。ガンジュ、どうしてさっさとやらなかったの」
「いや、最後はエイタにと思ってね」
「それにしたって・・・。まあいいわ。ほら、来たわよ!」
ユリは上空を指差す。あれは・・・。先程までと比べ物にならない量だ。鳥の怪人も力の限りといった感じか。カラスだけではなく、白鳥、鷹、鷲、その種類は一種類に留まらない。
「はあ、あの人のせいで仕事が増えたわ」
ユリは少し面倒な顔をしたが、そこには少し嬉しそうな表情が見えた。
「あいつのことは頼んだわよ」
リョウヘイの元に戻ろうとするユリを俺は引き止める。
「待て、俺の攻撃は通用しないんだ。ガンジュにここは任せたほうがいい」
「いや、エイタ。お前がやるんだ」
鳥の怪人から離れこちらに合流したガンジュは言う。
「いや、だから。俺の攻撃は通用しない。さっき見てなかったのか?」
「大丈夫だ。ユリ、あれを渡してやれ」
「あ、そうだそうだ。さっき話し途中であいつが叫ぶから・・・。はい、エイタ」
ユリはそう言うとどこから取り出したのか、アタッシュケースを俺に渡してくる。
「何だよこれ」
「開ければわかる。そして、その使い方はお前が一番わかるはずだ。とNo.2からの伝言だ」
「No.2から・・・」
「そういうことだから、あとは頼んだわ」
そう言い残すと二人はリョウヘイの元へ、ユリがガンジュを担ぎながら向かっていく。
俺はアタッシュケースに目を向ける。何だよこれ。俺はケースを地面に置き中を見る。
「これは・・・、そういうことかよNo.2。あんたも性格悪いな」
乾いた笑いが出てしまう。中に入っていたのはベルトだった。そう、No.1やNo,3が着けていたのと同様の。俺は敵が目の前にいるのを忘れ、じっくりとそのベルトを見た。やはりNo.1やNo,3のものと似ている。俺にはその資格があるのだろうか。だが、俺には迷っている暇などなかった。鳥の怪人がこちらに向かってきたのだ。
「ああ、もう!ちょっと待てよ!」
俺は慌ててベルトを腰に巻く。「やり方は知っているね」とNo.2の声が聞こえてくるようだった。ベルトに手を添える。右手を前に突き出し、左手はベルトに添えたまま、ポーズを取る。
「着装!!」
俺の掛け声とともにベルトから蒸気が発生し俺の体を包んでいく。全身を覆ったとき、前に突き出していた右手でその蒸気を切り裂くように振り下ろす。スーっと蒸気が左右に別れ消えていく。
目の前に再び鳥の怪人が現れる。が、その時の俺は蒸気に包まれる前の俺とは違う。俺は自分の目で右手と左手を確かめる。
「まじか」
俺はNo.1やNo.3と同様に全身スーツに身を包んでいた。視界もいつもと感じが違う。何よりも違うのは全身に力が漲っていること。先程までの感覚とはまるで違う。山を砕き海すらも切り裂けるような感覚だ。いける。これなら鳥の怪人を倒せる。そう確信した。
俺は敵に向かって走るよう構える。そして、一歩を踏み出した。まるで違う。こんなにも力が溢れでるのか!地面からの大きな力をそのまま利用し、思いっきり地面を蹴る。一歩で大きく前進している。まだまだ行けそうだ。俺は一瞬で鳥の怪人との間合いに入り、右ストレートを繰り出す。確実にその腹を捉える。刹那、何も起こらない。が、少し遅れて敵が吹っ飛んでいく。
「なんて力だよ」
俺は思わず呟いてしまう。この力なら簡単にこの鳥の怪人も余裕だな。
すぐに敵との距離を詰めて追撃をする。次は右のローキックで敵の足を折りに行く。見事に直撃。が、俺の予想に反して敵の足が曲がっていく。文字通り本当に折れたのだ。俺は一瞬自身に驚いたが、その隙をみてなのか、鳥の怪人は再び大きく口を開け、例の仲間を呼ぼうとしている。
俺は咄嗟にそれに気づき、その口を抑えた。どうやらワニと同じ原理で開く力はそんなに無いらしい。いや、俺の力のほうが強いだけか?
「これで仲間は呼べないな」
俺は抑え込みながら敵に話しかける。着装前と違い余裕が出てきているのがわかる。俺はくちばしを抑えながらその顎に膝蹴りをいれる。鈍い感触が膝へと伝わる。
「おえ!誰すかあれ!あれがエイタさん?!」
どうやら向こうも終わったらしい。リョウヘイの驚いた声が聞こえる。
「めちゃめちゃNo.1とかNo.3に似てるじゃないすか」
やはりそうか。自身でもそんな気がしていたが、外から見てもそのように見えるのか。
鳥の怪人は他の3人が合流したのに気づいたのか、慌てて羽を動かしている。どうやら空に逃げるつもりらしい。
「逃がすかよ」
俺は背中に回り込み両手でそれぞれの羽を掴む。そして右足で背中を捉え、羽を抜こうとする。が、簡単には抜けない。俺は両足で鳥の怪人の背中に足を乗せ、ぐっと力を込める。メキメキという音とともに両手に羽が抜けていく感覚が伝わる。俺は更にぐっと力を込め思い切り引っこ抜く。羽はその形を維持したまま両方とも背中から離れていく。それと同時に羽があった場所からまるで噴水のように血が吹き出てくる。
「血は赤じゃないんだな」
吹き出てくる緑の血を眺めながらそう呟く。鳥の怪人はそれどころじゃなさそうだ。
「聞いちゃいないか。それにお前は喋れないもんな」
俺は鳥の怪人に背を向け、置いていたスターゲイザーを拾いに行く。
「これでフィニッシュだ」
俺はスターゲイザーを拾い上げながら伝える。鳥の怪人はそれどころではなく、悶えている。
スターゲイザーを構える。俺がぐっと握ると、体に力が湧いてくるのがわかる。それは今までどの感覚とも違う、どの感覚よりも力強く、そして温かい。
「ここまで来たのね、エイタ」
心無しか、マイの声が聞こえた。
「ああ、これでお前の敵が討てそうだ」
「無理しないでね」
マイ、お前がいつだって力をくれる。お前がいなければ俺は・・・。
「もう、復讐など忘れて、みんなのために戦って。あなたならできるわ」
「いやだ。俺はお前のために戦う」
「その心は何も生まないの。あなたはもう気づいているはずよ」
「マイ、俺はお前がいないと・・・。お前を奪った奴らを全滅させるまでは止まれないよ」
「エイタ・・・。あなた・・・、の・・・、本当・・・」
その先は聞こえなかった。
だが、なぜだか気持ちはまるで何も無い海に一人浮かんでいるかのようだった。
俺は目の前の鳥の怪人へ再度向き直しぐっとスターゲイザーに力を込める。次に足に力を込める。何も考えずとも体は勝手に動き出す。俺は一直線に鳥の怪人へと距離を詰める。そしてそのまま鳥の怪人へとスターゲイザーを振り下ろす。
「スターダスト・アタック」
無意識のうちに口から言葉が出た。なんだ、必殺技か?まあいいか。
パーン!!
と大きな破裂音が鳴る。少し遅れて鳥の怪人の肉体が弾け飛ぶ。跡形もなく怪人の体は無くなっていった。周囲にはその肉片であろうものが飛び散り、羽だけが残される。
「すげええええ!!すげえっすよ!!」
リョウヘイが俺に向かって抱きついてきた。
「やめろ、気持ち悪い」
「いや、すごすぎますって!まるでヒーローじゃないっすか!鏡で見てくださいよ!」
「いや、いい。なんとなくわかる」
「すげー、さすがはエイタさんっすね」
俺は改めて鳥の怪人がいたであろう場所を確認する。とてつもない威力だ。今までの俺ならば確実にこんな威力は出せないだろう。これなら・・・。
「さすがエイタね。私達なんて新しいのにあんなに手間取っていたのに初めての装着でこんなにあっさり使いこなすなんて」
「流石だな。No.2が認めるだけある」
ユリとガンジュもそばに来る。
これなら行ける。奴らを全滅させる事ができる。俺は改めて確信した。
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