第18話 敗北
次に来た敵は犬の怪人ではなかった。どうやら本当にあのフルフェイスの奴が言ったようにしばらく出てくる気はないようだ。
俺たちが現場に着いた時にはひどいありさまだった。怪人が人を食べていたのだ。いや、正確には食べていたのかはわからない。ただ、まるで人を食べるかのように人の体を蝕んでいた。
現場に着いたのは俺とリョウヘイだった。どうやらユリとガンジュは今回も遅れてくるらしい。が、俺達には彼らが何をしているのか見当もつかなかった。前回、調子は回復していると聞いてはいたが・・・。
敵は恐らく鳥をモチーフにしたものだろう。背中に羽が見えるし顔にはくちばしがついている。ただ、なんの鳥かはわからない。ケツァルコアトルスか?それほどまでにくちばしが大きい。
「飛ばれると厄介だな」
「ですね。そうななれば俺が撃ち落とすしかないっすね。あとは奴がどのくらい飛べるか次第っすね」
「とりあえずいつも通りいくか。ここで奴を仕留めないとまた次の犠牲者が出てしまう」
「うっす!」
リョウヘイはすぐに建物を探し走っていった。おそらくあの民家の屋根あたりに行くだろう。今回は建物ではなく開けた公園だ。住民の避難は完了しているとはいえまだ残っている可能性はある。十分に注意をしなければ。
「スターゲイザーと心が鍵か」
俺はこの前の謎の声との会話を思い出していた。愛を持つこと、そしてスターゲイザーが近くにあることでそれは発動させることができるということ。
スターゲイザーは問題ない。俺はこいつと戦ってきた。問題は心の部分だ。俺がリョウヘイに対して愛を持てというのか?俺は思わず身震いをしてしまった。一瞬頭によぎったものを必死に振りほどいた。さすがにそれは違う。仲間意識も愛の一つだと言っていた。となると、後輩としての愛着のようなものだろうか。
フッ。
俺は思わず笑ってしまった。強さを求めていたころは仲間のことなど一ミリも考えてなどいなかった。むしろ、自身が強くなるためには邪魔な存在だとも考えていた。愛など捨てたと。その俺が知らず知らずのうちに仲間に愛情のものを持っていたとはな。にわかには信じがたいが、思い当たる節はある。確かに助けようとする気持ちはあったように思える。
「俺から仕掛けるぞ」
「オッケーっす。飛んだ時は任せてください」
俺はスターゲイザーを握りしめ、敵に向かって走る。が、やはりか。オーラは出ない。なんとなくそんな気がしていた。まあいい。俺は一直線に走り、敵に近づく。敵もこちらに気づき大きな声と羽で威嚇してきている。
俺はそんなのお構いなしに右の羽目掛けてスターゲイザーを振り下ろす。飛ばれると厄介だ。ならば、先にその可能性を消しておく。と考えたのだ。だが、その羽は一瞬で折りたたまれスターゲイザーは空を切る。
「クエーーーー!!!」
鳥の怪人がくちばしをこちらに向け叫ぶ。
「どうやらこの前のと違い喋れないタイプみたいだな」
「みたいっすね。この前のオーラみたいのがなければ俺も戦えるかもしれないす。後ろ下がってください!」
その声を聴いた俺は後ろにステップを踏み少し距離をとる。次の瞬間、矢は敵に当たり爆発する。かなりの爆発が起こり、目の前が炎に包まれる。
「この前の反省を生かして少し量を増やしたっす。これで羽が燃えてくれればいいんすけど・・・。そんなにうまくいかないっすね。今チャンスす!」
俺はリョウヘイの合図に従って前に出る。相手を包んでいた炎が少し弱まり姿が見えてくる。やはり羽は健在のようだ。大きくダメージを追っている様子はない。
俺は再び左の羽を狙いスターゲイザーを振り下ろす。今度はうまく当たった。が、その羽は思っていたよりも固く、俺の攻撃によるダメージがないように思えた。
「クソ、オーラがねえと攻撃も通らねえのかよ」
俺は再びスターゲイザーを同じ場所に振り下ろそうとした。しかし、敵も黙って攻撃を受けるはずがなかった。俺が再び振り上げたその瞬間、天に向かって大きく叫んだ。俺はお構いなしに攻撃を続けようとしたその時、その大きなくちばしで俺の顔目掛けて突いてくる。俺はとっさに顔を傾けることで避ける。ギリギリのところをかすってしまった。頬から血が流れていくのを感じる。
「エイタさん大丈夫っすか?」
「大したことはない。リョウヘイも攻撃を続けてくれ。突破口を見つける」
「オッケーす!って、エイタさんあれなんすか!!」
「あれ?」
「上!上ですよ!!」
俺はリョウヘイの声に従うように上を見た。
「なんだよあれ!」
俺は見たことがなかった。空を一部覆うほどの物体がこちらにものすごい音を立てて向かってくる。まるで台風が来たのかと思うほどの音だ。なんだ、何が来るんだ。
「エイタさん・・・、あれカラスっすよ、大量のカラスがこっちに向かってくるっす!!」
「カラスだと??」
俺はすぐに鳥の怪人を見る。どうやら先ほどの叫び声はこのためだったらしい。鳥の怪人は腕を組みこちらをじっと見ている。
「クソが。リョウヘイ、炎だ。炎でこっちに来る前に焼き尽くすんだ」
「OKっす!やります!」
すぐにリョウヘイの矢がカラスの群れ目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。ヒューッという音の直後、大きな音を立てて炎がカラスを一羽、また一羽と飲み込んでいく。
「うまくいきそうっすね」
だが、そう上手くはいかなかった。とてもじゃないが半数以上残ってしまっている。
「クソ、来るぞ。リョウヘイは怪人より先にこいつらを集中的に頼む。炎でも何でもいいからとにかく数を減らせ!」
俺はすぐに注意を鳥の怪人に向ける。奴はまだ腕を組んでいる状態だ。また次のを呼ばれると厄介だ。まずはあのくちばしを先にやるか。俺はスターゲイザーを握り直し、鳥の怪人に向かって走る。
「クエ―!!!」
どうやら奴もこちらの動きに気づいたようだ。腕を大きく広げ、それと同時に翼を広げている。
「戦闘態勢ってか」
俺は先ほどまでと同様にスターゲイザーを振りかぶる。が、これはフェイクだ。俺の狙いはくちばしだ。振り下ろしたスターゲイザーを待っていましたと言わんばかりに鳥の怪人が受け止めようとする。俺はそれをするりとかわし、途中で動きを変え、くちばしの下を狙ってすくい上げるように振り上げる。
さすがに予想していなかったのか、鳥の怪人は少し後ろによろけた。いける。俺はどこかでそう思った。すぐにすくい上げたスターゲイザーで二撃目で脳天に叩き込む。鳥の怪人の上がっていた顔がうつむく。
「オーラなしでもいける」
そう思ったのが間違いだった。鳥の怪人に攻撃など効いていなかった。ただ、不意打ちによろけただけだろう。すぐにこちらに反撃をしてきた。先ほど同様にくちばしで顔面を狙ってくる。俺は先ほど同様に顔を横に避ける。が、その直後腹に痛みを感じる。どうやら、くちばしの攻撃と同時に拳を繰り出していたようだ。
「俺の真似かよ・・・」
俺はつい後退りしてしまう。俺のフェイクを真似してくるとは。喋れないかもしれないがそれなりに賢いのかもしれない。俺が後退りしたその瞬間、鳥の怪人はすぐに距離を詰めてきた。そして、右の羽がまるでビンタするかのように飛んでくる。その攻撃はあまりに範囲が大きく早かった。バックステップも間に合わず直撃を喰らう。
「おいおい、羽は反則だろ」
その羽は見た目と違い決して軽いものではなかった。まるでタイヤで殴られたかのような衝撃だ。俺は思わず地面に倒れこむ。
「くそ・・・、オーラがあれば・・・。リョウヘイ、そっちはどうだ?」
「・・・エイタさん、結構やばいっす。全然・・・数が」
音声は途切れ途切れで、リョウヘイの声も荒かった。恐らく予想以上の数だったのだろう。普通の鳥に見えたのだが、もしかするとこの鳥の眷属か何かか?だとするとかなり厄介だな。早く鳥の怪人の方をどうにかしなければ。
俺はスターゲイザーを支えに起き上がりながらどうにか策はないかと考える。が、やはり行きつくのはオーラの存在だった。
「オーラさえ発動すれば、お前なんか余裕なんだがな」
いつから俺はこんなに弱くなったのか。オーラなしで戦うこともできないのか。俺は自身が情けなくなった。俺はこんなにも弱かったのか・・・。俺は・・・。
今の俺の力ではマイすら守れないだろう。あの時、横にいても邪魔になっていただけかもしれない。いや、確実に邪魔になっていただろう。それほどまでに俺は弱い。弱すぎるのだ。もっと、もっと力が欲しい。もっと、マイを守れるほどの力が。
鳥の怪人は起き上がったばかりの俺に蹴りを入れてくる。俺は受け止めることができずに後ろに吹き飛ばされる。俺の体は地面を擦るように移動する。鳥の怪人は追撃するようにこちらに向かってくる。俺はスターゲイザーを支えに再び立ち上がろうとする。が、今度は羽による攻撃で後ろに転がる。
「クソ」
俺は思わず心の中で呟く。このままじゃやられる。何か、何か方法はないのか。リョウヘイはどうした。まだこちらに加勢できないのか。少しでも時間を稼いでくれれば・・・。何か策はないのか。俺は起き上がることができなかった。
足音からゆっくりと鳥の怪人が近づいてくるのが聞こえる。しくじったか。俺は死なないと思っていたが、死の存在がちらつく。ネメアとの戦いですらここまでの感覚はなかった。
思っていたよりも距離があるのか。一歩一歩が小さいのか。それとも時間の感覚がおかしいのか。こちらに向かってくるまでにかなりの時間かかっている気がする。いや、違う。足音すら聞こえない。飛んできているのか?いや、それにしては時間がかかっている。吹き飛ばされた。と言っても、何十メートルと飛んだわけじゃない。せいぜい2~3メートルだ。なんだ。何かがおかしい。
俺は地面に手をつき体を起こす。聞いたことのある声が聞こえる。
「いつまで寝てるんだ」
目の前にはガンジュがいた。
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