四、永遠の契り



 ある時、お客さんが言った。


「君に殺されるのが、私の夢なんだ」


 まるで砂糖菓子のように、甘く蕩けるような劇薬。なぜひとはそれに恋焦がれるのか。


「これは、永遠の契り。愛する君から賜る毒によって、永遠を得るのだ」


 よく、わからない。

 ひとりで死ねないから、死のくちづけで永遠の契りとするのだという。

 みんなおかしなひとばかり。

 生きるのに疲れてしまったひとたちばかり。

 そんな彼らにとっての『死』は、甘美な蜜と同じなのだと知る。


「わたし、は····あなたを救ってる?」


 このくちづけは、あなたに死を与えるのに?

 彼らはいつだって、笑顔で逝く。

 わたしはそんな彼らに死を与える、毒蝶の異形。

 望むだけの死を与え続ける、死神なのだ。


 いつの日か、なんて。

 似合わない夢をみるのはやめにした。


 今宵も扉が開かれる。



 

□■ 第三章 毒蝶は夢をみない ~了~ ■□


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