三、死のくちづけ



 あなたが死んだあの日。

 交わって繋がって。

 最期にくちづけをかわした。


 だめって言ったのに。

 あなたもまた、他のひとたちと同じように約束を破ったのだ。


「本当に迷惑なひとたち。ひとってやつは、駄目っていわれたら余計にしたくなってしまう面倒な生き物らしいから、自業自得ね」


 そよぎが肩を竦め、呆れた表情で足元の死体を見下ろしていた。


「それとも単に死にたがりだったのかしら? 欲望のままに死ねたのなら本望でしょう。あなたが気に病むことではないわ」


「わたし、見世みせに出ない方がいいんじゃないかな? どうしてわたしを見世みせに出すの? 身請けさせるため? ここから追い出すため?」


「そんなわけないじゃない。あなたがここで客の相手をしてくれることで、得られるものがあるのよ。でなければ、その厄介な体質をわざわざ晒したりしないわ」


 そよぎの目的はよくわからない。

 得られるものってなんだろう。

 死しか招かないわたしに、いったいなんの価値があるのか。


「ひとが何たるかを、あなたが知らないだけ」


 言って、その真っ赤な唇の端を上げて嘲笑う、戀歌楼の案内人。


 わたしがる意味は、今も昔もわたしにはわからないままだ。

 

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