二、籠の中の鳥



 青年の背には瑠璃色の翼があった。


 戀歌楼れんかろう守人もりびとである青年は、烏の異形。この魔都に巣食う無数の烏が彼の目となり、すべてを監視している。また、所有者が死亡した場合、異形を引き取りに行くのも青年の仕事だった。


 戀歌楼れんかろうに存在する異形は地下で眠っている者たちも含めれば百体以上はいるだろう。見世みせに出されるのは決まって五体のみ。金糸雀カナリアは出戻ったが、そよぎが言ったようにとうぶんは見世みせには出せない。だが、代わりの異形はいくらでもいるのだ。


 魔導回路。異形の心臓は作り物だが回路を断たれれば終わり。回路を通して流れ込んでくるマナが無ければ動くことすらできない人形。


「その枷、まるで飼い犬みたいだな」


「ふふ。それもいいかもね。君が首輪でも付けてくれるのかな?」


 カナリアの語源はラテン語の犬。まさに目の前の少年にぴったりだと青年は思う。命令に忠実な犬。乱れたままの白い着物。剥き出しの肩にもちらりと覗く胸にも痣が目立つ。風切り羽を折られた、小さな白い翼。


「頭のいい烏には、俺のような鳴鳥の生き方なんてわからないでしょ?」


 さえずりを愛でるための観賞用の鳥。鳴き声を愛でられるためだけに存在している自分。客はその声を聴きたくてたくさん鳴かせてくれる。別にそれに対して嫌悪感などない。優しくて残酷なひとが多いだけ。慣れてしまえばただの行為であり、異常な執着心と依存が生まれるだけ。少年の客はそういう趣向の客が多い。


「風切り羽を折りながら、あのひとはいっていたよ。これは君を守るためだから、しかたがないんだよって。少ししたらまた生えてくるのにね、」


 くすくす。


 烏は音を立てて笑う白い金糸雀カナリアを見つめていた。

 鉄の鳥籠の中で。

 黒い大きな瞳に囚われる。


 他の誰かに愛でられ続ける金糸雀カナリアは、今も昔も烏のつがいだった。



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