三、おそろい



 あか、あか、あか、あか。

 まっかなあか。

 おそろい、だね。



 水槽の前であのひとが笑った。

 鮮やかな赤に染まったその手で、透明な水槽に触れた。


 ぼくとおなじあかをまとったあなたは、とてもすてきだ。


「君はここにいるのが、一番美しいから」


 完成された配置。照明の色が変わるタイミング。金魚の数。そのどれもが芸術的で、ひとつでも欠けてたらそのバランスは崩れてしまう。


 歪であり奇妙であり妖艶なその光景に魅入られたひとり。ただのひとであることがこんなにも悔やまれる。


「君がいないと、台無しになる」


 金魚たちが舞う透明な円柱に囲まれて。真ん中にどんと置かれた水槽の中。


 赤い着物を纏い、漂う美しい少年。

 完璧な空間で揺蕩う彼は、ひとと金魚の異形。


「だから、それを壊す馬鹿は死んで当然だ」


 誓約書にはこうあった。



□■□■□


 四、万が一、商品が原因でお客様やその周りの人間の身になにかが起こったとしても、すべては所有者となったお客様自身の責任となり、当娼館は一切の責任を負いません。


 伍、所有者であるお客様が死亡した後、所有者の引継ぎがされなかった場合、その所有権は再度、当娼館に移るものとする。


□■□■□



 それはつまり、事件が起こって殺されてしまっても、責任は所有者にあるということ。娼館には一切関係はなく、彼にも罪はない。


「あなたとおそろいだね」


 真っ赤な君も、普段の君も愛おしい。


 私がこうすると、君は知っていた。知っていて、私にお願いをしたのだと知っている。私の狂気じみた感情を、彼は見抜いていたのだ。これはその行為に対する礼だと素直に受け取る。君が纏う鮮やかな赤はまるで、血のようだ。


「もうここには来れないかもしれないから、君の姿を目に焼き付けておこうと思ったんだ。最期に、私のお願いを叶えてくれるかい?」


 透明な水槽の壁越しに触れ合った指先。


「君の名前を教えて?」


 水槽の中の異形の美しい少年は金色の大きな瞳を細め、誤魔化すように私の赤く染まった指先に口付けをした。透明な壁越しに触れられた唇。


 願いは叶わないからこそ、叶えずにはいられないのだ。



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