なんか秘密結社のボスになったんだが

根丑虎

折角転生したんだから好きに生きようぜ!

 どうも、転生者です。前世も今世も日本人です。でも、前世とは違ってこの世界は異能バトル系の世界観らしい。全人口の約一割の人間が超常的な力を持っている世界。


 原理は単純で、前世とは違って今世の地球には『アルケー』と呼ばれる未知の物質が存在するからだ。この『アルケー』が何らかの要因によって人または物に宿ることで能力を授かる。器が耐えられなかったら不適合者エラーと呼ばれる化け物になるけど。


 そして、『アルケー』に完全に適合できると能力者ではなく超越者と呼ばれ、ある一つの概念を文字通り掌握できる。例えば火だったら火に関することが何でもできるし、その気になれば全世界を燃やすことだってできるわけだ。


 まあこれは前例があって、神聖ローマ帝国に実在したとある少女の話なんだけどね。この世界だと義務教育中に歴史の授業でやるはずだ。


 まあそんなこんなで能力者の数がマイノリティーだし、超越者なんてバケモンはいるし場合によってはエラーなんてできるしで、社会の能力者に対する当たりは強い。地域によっては迫害なんかもされてる世界だ。


 やになっちゃうね。折角転生したのに満足に能力を扱うこともできないとか。


 俺も転生特典なのか知らんけど複数能力持ちっていうかなり珍しい部類の人間だし。俺以外いないんじゃないか?

 なんだけどさ。幼少の頃に能力に目覚めて、めちゃめちゃはしゃいでいたら両親に真っ青な顔をしてその力は他人に見せるななんて言われちゃ、敬愛する今世の両親のためにも我慢するしかないわけで。


 だがそんな我慢を続けること二十年。折角の能力だっていうのに仕事に活用することも出来ないんだ。完全に宝の持ち腐れ。


 異能対策局っていう異能犯罪に対応する警察みたいな組織に加入しようかなんて思ったけど、この社会じゃ扱いが良くないからって理由で両親に反対された。まあ俺としても命を掛けたいかなんて言われると首を横に振るけれどさ。


 だがそんな考えも社会人となってすぐに払拭された。だってやってることが前世と全く同じなんだもん。仕事して、ゲームして、飯食って風呂入って寝る。転生した意味がまるでない。


 と言うことで、俺は人知れず好き勝手に能力を扱うことにした。


 俺の能力はそこそこ強力だと自負している。

 一つ目が『重力操作』。かっこいいね。男の憧れだ。

 二つ目が『認識阻害』。今思うとなんでこの能力を使って好き勝手やんなかったんだろうかと思う。まあ俺真面目だから両親の言うことを馬鹿正直に聞いてたってだけだけど。

 で、三つ目が『虫の知らせ』。簡単に言えば嫌な予感がはっきり感じられるって感じ。的中率は百パーだけど、具体性が一切ないから使い勝手で言えば一長一短かな。


 と言うことで、俺は今夜中の街でダークヒーローごっこをしている。

 認識阻害の能力を使ってるから俺の姿を見られても俺のことを覚えられない。


 夜中の廃ビルの屋上に登って夜の街を一望する。


 うへー。これぞダークヒーローって感じ!テンション上がって来たぜ!


 夜の街を一望しているとなんだか人目に付かない場所で一人の女性が複数の黒スーツの男たちに追われていた。

 これは!イベントの予感!


 虫の知らせも特に反応していないし、俺は早速女性の下へと向かうことにした。重力操作によって身軽になった体で人間の限界を超えた動きをしながらふわふわとジャンプして行く。


『大丈夫ですか?』


 俺の声は認識阻害によってモザイクが掛かったみたいに機械的なものとなっている。そんな不審な音に女性は振り返ると、表情を硬くした。

 まあ、顔が分からない人物が突然現れたらそりゃ不審に思うわな。


『少なくとも敵ではありませんよ』


 俺はそう言って黒スーツの男たちの重力を五倍くらいにする。すると、彼らは立っていられずに地面とキスをしてしまった。ははは。俺強い。


『では、早く逃げた方が良いですよ。そう長くは持ちませんから』


 まあ嘘だけどさ。

 誰かに見つかったら面倒だから嘘を言っているだけだ。


 俺がそう言うと女性は一礼して慌てて逃げ始めた。


 はて、彼女は何だったのだろうか。

 とりあえず気絶した男たちを放っておいて、俺も帰路につく。と思ったのだが、ちょっと気になったので彼女が逃げてきた方向に行ってみることにした。



 そこそこ進んだところだろうか。そこには大量の黒服たちがボロボロになった少年少女を掴んで拉致っている所であった。いや、拉致と言うか連れ戻したって感じかも。


 あーこれあれか。彼女を逃がすために彼らが犠牲になったとかそんな感じ?

 とりあえず遠くから見張っておいて、彼らがどこに行くのかを見る。彼らは全員ビルの中に入った。俺もその後を追ってみる。こういう時認識阻害は便利だね。この能力は色々と応用が利くのだ。モザイクみたいに露骨に認識を阻害するとか、極端に影を薄くして誰の記憶にも残らないようにするとかね。


 ここまでするのにどれだけ鍛えたことか。


 まあそんなことは置いておいて、このビルはとある企業のオフィスだったと思うんだけど。


 そんなことを考えていると、黒服たちは秘密の通路らしきものの中に入って行った。

 地下通路である。黒服に擬態した俺は彼らと一緒に中に入り、そこにあった光景に驚愕する。


 人体実験してんじゃんか!


 とりあえず不愉快だからこの施設は壊滅させておこう。そうしよう。

 多分だけどモルモットになってる彼らは能力者だよな。こういうのは相場が決まっているのだ。


 とりあえず、重力操作でこの地下施設の設備を捻りつぶす。


 突然の黒服の謀反によって科学者らしき人物とか他の黒服とかが銃を乱射してくるが効かんね。俺の周囲の力場は完全に掌握している。銃弾が俺に届くことはない。

 能力を宿した物体。法器を扱って攻撃してくる輩もいるが、地力が違うんじゃ。


 とりあえず壊滅できたし、彼らに話しかけるか。


『少年少女たち。もう大丈夫だ。早く逃げなさい。具体的には交番とか』


 突然施設が壊滅したと思ったらよく分からない存在がいることに恐怖していたが、すぐに彼らは理性を取り戻し蜘蛛の子を散らす勢いで逃げていった。


 さてまあこんなところかね。結構音を出して暴れたからそろそろ警察とかが来そうだから、俺も早めに退散しよう。


 


 *




 そんなこんなでストレス発散に悪党をボコボコにしていること一年くらい。

 最早日課となりつつあるダークヒーローごっこをしている時だった。


 ここら辺も俺の努力の甲斐あってなのか知らないが治安が大分良くなってきたなあなんて呑気なことを考えていると、不意に俺の後ろに何者かが立っている気配を感じた。


 まあ俺には認識阻害があるし平気だろなんて慢心していたのだが、そこに立っていたのはつい一年前に助けた女性だった。懐かしいね。彼女は定職に就けたのだろうか。住居はどうなったのだろうか。あの時は無責任に助けてしまったから面倒を見ることが出来なかったが、健康そうで何よりだ。


「見つけました。“義賊”」

『……は?』


 え、なにその二つ名的な何かは。俺ってそんな風に呼ばれてんの?


「一年前に私を助けてくれたのはあなたですよね?覚えていますか?」


 いやなんで分かるんだよ。

 俺には認識阻害の能力があるはずだろ。


『なんで分かった?』

「真正面から見ても姿が認識できない人物なんてあなた以外にいませんから」


 なるほどね。こりゃ一本取られたのかな。


『それで、なんの用かな?』

「端的に言います。私たちの組織の長になってくれませんか?」


 ……は?









「ボス。暗黒街の矢薙原さんから協力要請が来ています」

「適当に人員を派遣しておいて。矢薙原さんにはそれで充分でしょ」


 拝啓、今世のお父さんお母さん。俺は今秘密結社のボスになっています。危険な仕事に付いていることをお許しください。でも楽しいんだもん。非日常って感じで。


 まあ、人の命が掛かっていたりすることがあるから真面目に取り組まないといけない時もあるけどさ。


 それにしてもかつて救った研究施設の少年少女たちが率先して作り上げた組織ってことで俺の存在はめちゃくちゃ歓迎されたし、なんならボスになるのは当たり前って感じだった。


 ま、趣味でダークヒーローごっこやってたツケが回って来たって考えておこう。


 それに、この生活も気に入っているしね!

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