はずれスキル持ちが差別されるナーロッパについての妄想

うどん魔人

第1話

 小説家になろうでは一時、主人公がはずれのスキル(本来なら、スキルとは学習や訓練により習得する技能の意味ですが、一部のナーロッパにおいては天賦により得られる、超常能力を意味します)を得て役立たずとして追放されてやがて成り上がりざまぁ、というパターンの物語が流行りました。


 多くの作品が投稿されるうちに、先鋭化した一部の作品では主人公のスキルはチートであればあるほどよく、主人公への冷遇はひどければひどければよいと、まるで競うかのようになり、ざまぁされる側はほぼ狂人としか思えない振る舞いをするようになったものもありますが、それはそれとしてはずれスキルをさずかり冷遇される世界が成り立つ理屈について、ここではくだぐだと書いていきたいと思います。




理屈その1・強大で有用なスキルは貴族・王族・皇族にのみ発現するものとする


「勇者」とか「剣聖」とか「賢者」とか「聖女」とかそういったいかにも凄そうなスキルは貴族と王族とか皇族とかの血を引くもののみに発現するものとします。

平民に発現した場合、調べれば確実にどこかの御落胤であることが判明します。

これによって「なんで王族は尊いの?」「なんで貴族はエライの?」という質問に対する答えとするのです。

強力で有用なスキルが神により選ばれた血筋のみに発現するので、それが王や貴族の権力の正当化と血筋の尊さの保証となるのです。

また、はずれスキルを得た主人公が冷遇される理屈付けにもなります。

貴族である主人公が得たはずれスキルは貴族が貴族たりうる大元を揺るがすのであり、それだけで罪であるのです。




理屈その2・超強力なスキルは国家の戦略に影響を及ぼす力がある


 スキルというのはどれだけ強力で有用なのでしょうか。

やはり、スキル至上主義が当たり前の世界では、強力なスキルは「非常に強力」というのがふさわしいでしょう。

勇者のスキルを持っていれば、映画のゴジラ並の戦闘力を持った、軍隊を一蹴できるドラゴンと互角に一騎打ちができるのです!

聖女の祈りは国まるごと、敵を寄せ付けない結界を張り、聖女が居るのと居ないのとでは国防に大きな影響を及ぼします。

剣聖の剣は離れた敵に対しても斬撃が飛び数百人の敵兵や、巨大な塔を剣の一振りで両断できるのです。

スキルの中でも最高に属するものは、21世紀地球での核兵器と同じくらいの戦略的重要性を持つのです。

このようであれば、理屈その1とも併せ、王や貴族の権力がさらに正当化されます。





理屈その3・王族・貴族に発現する当たりではない普通のスキルについて


 理屈その1と2により、王族・貴族には強力なスキルが発現するのが当たり前とします。

「勇者」や「聖女」といったスキルがレアな当たりスキルとするなら、普通に発現する(王族・貴族基準では)凡庸なスキルとかがあるはずです。

ここでは「賢者」の下位互換として「学者」スキルを考えてみます。

まあ、当たりスキルとした「賢者」はきっと物凄いのでしょう。

ナーロッパの一部では「賢者」はすごい魔法がたくさん使える人、という意味であって知性と学識で勝負する人では無いこともありますが、ここでは素直に「賢者」はすごい知性と学識の人ということにします。

「賢者」はどのくらいすごいスキルなのでしょうか。

まぁ、わかりやすく「賢者」スキル持ちは鼻くそほじりながら一日1時間一月ほど勉強したら東大でも科挙でもトップで合格できて、大学に入学したら1年経たずに飛び級で大学院で博士号とれるくらい、としておきましょう。

「賢者」スキル持ちは地球換算で難関大学の博士号を10くらい持っているくらいの学識があるんじゃないでしょうか。

ルービックキューブという有名なパズルがあります。

ルービックキューブの解法は確立されており、ルービックキューブを解くロボットや達人は、見た瞬間に解法がわかります。

もはやキューブを回す速さがボトルネックとなり、キューブを分解して油を塗って動きをスムーズにする、などというテクニックまであります。

これと同じで「賢者」スキル持ちは、論文を執筆しようと机に向かいペンをとった時点で論文の全文が脳裏に浮かんでいるのでしょう。

ペンを動かす手の速さだけが問題となるのです。

「賢者」ってすごいですねぇ。

創作ではリアルを再現する必要はなく、ものによっては盛れるだけ盛ってもいいものですから。

それでは下位互換の「学者」はどの程度のものとしましょうか。

やはり当たりスキルと普通のスキルについては大きな差が欲しいところです。

しかしスキルは超常のものとしましたので、スキルなしでできないことができるくらいには特別であって欲しいものです。

「学者」スキルは普通にしていれば確実に東大や科挙に100%現役合格できるものとしておきましょう。

また「学者」スキル持ちは確実に地球換算で1流の研究者にわずかな努力でなれるものとしておきます。

努力と運次第では歴史書に名前が残ったり偉人伝が出るでしょう。

研究者というのは自然が相手です。

どんなに才能ある研究者が真摯に努力しても、無いものは発見できません。

無いものを発見してもそれはいつか間違った学説とされることでしょう。

宇宙の法則で実現不可能な技術はどれほど努力しても実現できないのです。

現実世界においてどれだけ多くの研究者が人生をかけて何も発見できずに一生を終えたことでしょうか。

しかし「学者」スキルがあれば、何故か確実にものになる研究テーマを選択することができるとします。

あるいは「勇者」「剣聖」とかいう戦闘系の、王侯貴族基準で標準のスキルを想像してみます。

スキル名はそれぞれ想像する人におまかせするとして…一例としては「騎士」とかでしょうか。

これについてはアクションゲームや無双ゲームのプレイヤーキャラクターを考えればいいのではないでしょうか。

数百のモブ兵士を相手にばったばったとほぼ一撃で倒していくのです。

戦闘スキルなしでは王侯貴族の凡庸な戦闘スキル持ちに対抗するのは無理でしょう。

王侯貴族にとって「普通」のスキルは平民にも稀に発現することがあるとするのもいいでしょう。

王侯貴族の普通スキルが平民にとってのレアスキルとなるわけです。

この場合、平民の一家をあげてのお祝いとなるかもしれません。

一代限りで男爵(ヨーロッパの男爵は貴族の序列で最下位であるのみならず、領地が無くてもよいため、他の貴族位に比べて与えやすい)の爵位を与えられて一代のみの貴族とされるとかしても良いでしょう。




理屈その4・平民の普通のスキルについて


 それでは平民にとって普通のスキルというのはどのようなものでしょうか。

これは各職業に対応したスキルがよいでしょう。

例えば「農夫」「裁縫職人」「鍛冶職人」…職の数だけ平民の普通スキルがあるわけです。

もし、まだ誰もついたことのない職だけど「◯◯職人」とか「◯◯商人」等、明らかに職業であるスキルがある場合、そのスキル発現者が職業始祖となるのですね。

スキル至上主義の世界では、同じことをしてもスキルの有無で超えがたい差があることでしょう。

たとえば「農夫」スキル持ちが世話した畑は、農業に対応したスキルを持たない者が倍くらいの労力で世話した畑より、何倍もの実りをたやすく得ることができるのです。

作物の味も、誰にでもわかるくらいの格段の差があるでしょう。

これほどにスキルが有用であれば、ナーロッパの住人は誰もが自分のスキルに合った職業を選ぶことでしょう。

何のスキルが発現するかで人生が決まるのです。

誰もが何のスキルを持っているかで人を見ることでしょう。

はずれスキル持ちへの冷遇も納得がいきます。

平民の戦闘スキルとしては「狩人」とか「兵士」とかでしょうか。

王侯貴族が平民のスキルを発現した場合はずれスキルと見なされます。




理屈その5・スキルには命名法則がある


 さて、ここははずれではないスキルには命名規則があることにしましょう。

有用な使い道のあるスキルはほぼ「称号」か「職業名」であるというのはどうでしょうか。

これに該当しないスキルはナーロッパの長い歴史の中の経験則で、すべて食い扶持を稼げる使い道がなかったということにします。

主人公は唯一の例外です。

ここでははずれスキルの例として「ヒゲのばし」スキルを設定してみます。

このスキルは自分のヒゲを1メートル延ばすことができます。

また「ハゲ」スキルを考えてみます。

このスキルを使うと自分の髪の毛が全部抜けます。

あきらかにはずれのスキルだけでなく、有用に思えなくもないスキルを考えてみましょう

「唐揚げ作成」、空気を元素転換しているのか、無から有を生んでいるのか、空中から唐揚げ1個取り出すことができます。

一度つかうと一日経過するまで使えません。

元素転換であれ無から有を生んでいるのであれ、ものすごいチートなことをしているのですが仕事の役には立たないでしょう。

はずれスキルには一見使い道がありそうなものが稀にあっても(主人公という例外を除いて)常にこのように制限があり、仕事には役立たないものとします。

長い歴史の中でこの法則は人々の確信となり、はずれスキルを授かったらその時点で人生が終わったと考えるのが普通となったということにしましょう。






理屈その6・はずれスキル持ちは結構多い


 有用なスキルとはずれスキルが名前で判別されるようになるためには、はずれスキルを発現する人間はサンプルがとれるくらいには多くいることでしょう。





理屈その7・王族・貴族のはずれスキル持ちの運命


 はずれスキル持ちは家の恥ですので、家の当主に家族への情があるのなら、外に出さず他の王侯貴族と会わせることもせず半幽閉生活で一生を送らせることとなるでしょう。

当主によっては、勘当して家名を名乗ることを以後許さず追放もよいでしょう。

殺処分もあり得るでしょう。




理屈その8・平民基準でのはずれスキル持ちの運命


 有用な職につけない人間の場合、想定されるスキル至上主義のナーロッパ世界に奴隷という身分があるなら、奴隷は平民基準でのはずれスキル持ちで構成されていることでしょう。

最下層階級は生まれではなくはずれスキルでなるのです。

昔のインドでは不可触賤民とよばれる階級がありました。

カーストの外、最下層の、触れると穢れる民とされ、下水溝・糞尿の掃除や皮剝ぎ・無縁死体運びなど,不浄とされる職業に従事していたそうです。

ナーロッパにも不可触賤民という被差別階級があり、現地基準で不浄とされる仕事で生き延びているのかも知れません。

いずれにせよはずれスキル持ちに人権とかは無いでしょう。

スキル至上主義の世界では、はずれスキル持ちへの酷い扱いは、国の法律や主要宗教の経典・戒律に明記されているというのもあり得ることです。




理屈その9・冒険者ギルトのあれこれ


 ナーロッパにはしばしば冒険者ギルドなる組織があり、色々と社会に行き場のない人間が集まっています。

有用なスキルを持っていても、求職者に対して充分な職があるとは限りません。

口を糊するために、自分のスキルを活かせる機会を待ちながら冒険者ギルドから雑用の仕事をもらって生き延びるという生活をする者もいるかもしれません。

単に生き延びるだけではなく、自分のスキルを活かした起業をするための資金を貯めるという積極的な者もいるかもしれません。

もちろん戦闘スキルを持つ無職者は、冒険者ギルドで戦闘がありうる依頼を受けます。

ナーロッパでは戦闘の機会は非常に多い傾向にあるため運と努力次第では英雄として名声を手にできるかも知れません。

また、戦闘スキルを持つ無職者は、国の軍等の就職先がなかったということもありえますが、人格の方に問題があり就職できなかった可能性があります。

この場合、戦闘能力だけが取り柄のチンピラ冒険者の存在に説明がつくことでしょう。

はずれスキルを持ちながら奴隷・不可触賤民になりたくない人間もなんとか少しでも自分の人生をマシなものにしようと冒険者ギルドに入ることを選ぶかもしれません。

はずれスキル持ちは冷遇が当たり前の世界を想定しているため、冒険者ギルドに入っても彼らは差別的な酷い扱いをされるでしょう。




理屈その10・邪神とか魔物とかダンジョンとか


 本稿ではスキルを天賦による超常能力としました。

このスキルを与えている「天」とか「神」とかが存在しているのでしょう。

ならば対立する「邪神」とかが存在してもいいのではないでしょうか。

邪神は(生態系とか無視して)魔物を世界に生み出し、魔物は邪神の意向に従い人々に仇なすのです。

魔物が無限湧きするタイプのナーロッパにしばしばあるダンジョンがあるとしてもよいでしょう。

何れにせよこれにより、ナーロッパ世界は常に戦闘の機会が生じ、冒険者ギルドに戦闘依頼が絶えない理由となります。

戦闘スキルを発現する人間の割合もかなり多くなることでしょう。





 本稿でははずれスキル持ちが差別されるナーロッパについて妄想を書き連ねてみました。

駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

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