清瀬六朗『真新しい靴がステップ』


・清瀬六朗『真新しい靴がステップ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076332071094


 瑞城女子高校に入学したばかりの順は、母の用意してくれた少し窮屈な靴を履いて、学校へ教科書などを貰いに行く。用事を終えて帰ろうとした瞬間、運動場でこの学校に無いはずのバトントワリング部らしき練習の声が聞こえてきて……。引っ込み思案な一人の少女が、これから新しい一歩を踏み出す瞬間を丁寧に描いた現代ドラマ。

 清瀬さんは同題異話自体は初参加ですが、私が主催していた「問えば響く君の答え」というこちらが提案した質問にどう答えるかを物語として各自主企画に参加していただきました。その時の質問は「雨を降らすのは誰?」で、そこからとある女子高のマーチングバンド部を舞台にした『遥か昔のエジプト精神』というお話でした。女子同士の恋愛一歩手前と言いますか、きわっきわの所を描いた、心理描写の上手な長編です。


 さて、本作も、『遥か昔のエジプト精神』と同じ瑞城女子高校が舞台です。恐らくですが、時系列的に、『真新しい靴がステップ』が先だと思われます。『遥か昔のエジプト精神』にも、ちらっと『真新しい靴がステップ』の登場人物たちが出ているようでして、キャラクターたちが清瀬さんの中に住んでいるのだなぁと感じます。

 清瀬さんの近況ノートを参考にしますと、主人公の馬橋まばし順のお話は、前々から書いてみたかったとのことです。その気持ち、分かっちゃうなぁと感じるほど、彼女の家庭環境は中々のものです。


 環境が人を作るとはよく言いますが、確かにそういう性格にならざるを得ない、という説得力があります。そういう裏付けがあるようなキャラ造形はとても大切だと思います。

 そして、そういう逆境が強ければ強いほど、素直に彼女のことを応援したくなり、ラストシーンのカタルシスが強くなります。ここに至るまでの道のりが丁寧ですし、背中を押してくれた(きっと本人たちには無自覚でしょうけれど)周囲の人たちのキャラクターも素敵です。


 そういったキャラクターの造形以外にも、小道具の使い方も心憎いです。タイトルにもなっている「真新しい靴」ですが、そのように表現されている物の出し方と象徴の仕方にはっとしました。ここで物語の主題がはっきりと示されるので、思わず唸ってしまいます。

 本編で新しいスタートを切れた順ですが、今後は順風満帆ではないことが、『遥か昔のエジプト精神』でもほのめかされています。ここら辺、清瀬さんのコレクションの「瑞城女子中学校・高校物語」を読んでいけば分かることなのでしょう。そう言った余韻にも、心惹かれる一編でした。


















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