第5話 プライベートを君と
皆さんも よくご存知のように、成熟した大人の女は計画もなしに男性を誘ったりしないものだ。もちろん美術館勤めのヤスミン嬢だってそうだ。
ちゃんと彼女なりの考えがあってアンドレアスに声をかけたのだ。ではそこへ至るまでに何があったのかと言えば、発端は同日の早朝まで話がさかのぼる。
その日、少し早めに出勤したヤスミンとビルギットは主任室で仕事前のコーヒーを楽しんでいた。
「ねぇ、ビルギットぉ。最近、アンドレアスとどうなの? どんな感じ?」
「どうって何よ、ヤスミン。私は上司で、アイツは新人。それだけでしょう?」
「んー、でもね。貴方のおじい様が心配していたのよ。ちょっとあの二人、仲が良さすぎるんじゃないのかって」
「はぁっ!? なんで? 他所からはそう見えるの!?」
「貴方は名家のお嬢様なんだから、付き合う殿方は慎重に選ばなくてはいけないわ。そこいらのゴロツキが当主になったら、あら悲惨、お家断絶まったなしよ」
「ゴロツキねぇ? まぁ確かにアンドレアスがスラム出身なのは確かだけど、言う事は割と筋が通っていると思うけどねぇ」
「じゃあ、大好き? ぞっこん? 結婚する?」
心の繊細な部分に触れられると、誰もが不機嫌になるものだ。
我らがビルギット主任も例外ではなかった。
「安直すぎる。そりゃ色々と助けてもらったから感謝はしているけどさ。眼鏡の話はもうしたでしょう? 日頃のセクハラ言動は酷いし、そもそもアイツ好きな人が居るみたいよ?」
「そうなの?」
「シスターが、シスターがってやかましくてね。それでお前は大好きなシスターの裸も見ているのかと訊けば、断じてそれだけはしないとか言うのよ。バカにしていると思わない? 結局、アタシ等の心情を何とも思っていないからノゾキをするんじゃない」
「聖職なのもあるんじゃない? 何だか信用しきれてない感じね、彼を」
「同僚なら我慢するけど、それ以上はちょっとね。恋愛の対象なんて有り得ない」
「ならさ、私が彼を誘っても文句ない?」
「ハァ!? なんでそうなるの?」
「案ずるがより産むがやすし。相手を知りたければ懐に飛び込めがウチの家訓だもの。白か黒か、彼の内心を詳しく知っておかないと、ビルギットも正しい判断を下せないでしょう」
「や、止めなって。真っ黒だよ、ド暗黒だって、裸を見られちゃうよ」
「ンフフフフ、止めない。貴方が誘うなら遠慮するけど」
「ど、どうしてアタシが」
「なら決まりね、誘っちゃお――っと。なにも、誰かを裸に出来るのはチートの透視ばかりとは限らない。女の敏腕にかかれば殿方の心なんて丸裸に出来るものよ」
「や、ヤスミンったら!」
そんなワケで、施設の休館日である月曜。
ヤスミンとアンドレアスは互いの腹を探りながらも帝都散策にくりだすのだった。
当然、誘ったのはヤスミンなのだから何かしらのプランがあると思われたのだが。
「いや――、すいません。色々と案内してもらっちゃって、こんなご馳走まで」
「ご馳走って、ただのハンバーガーだろ」
「お肉はすべからくご馳走ですとも! 私にとって。モグモグ」
「ヤスミンちゃん、苦労しているんだなぁ」
「今は令嬢じゃないんで。でもアンドレアスさん程じゃありませんよ、モグモグ」
思い付きで行動したせいだろうか、ヤスミンは完全無欠のノープランであった。
当日の朝に「さて、何処へ行きましょう?」と役目を振られても即興でエスコートできる帝国紳士。なかなかに機転が利く、それがアンドレアスなのだ。もっとも、実際に訪れたのは常日頃遊び慣れている「競馬場」なのだから、そこまで自慢できるほどではないが。
初デートで行く場所ランキングでは、かなり下位に入っているコースだろう。しかし、相手は元お嬢様。見る物すべてが初めて尽くし、目を輝かせて喜んでいた。
今は昼食がてらに競馬場近くのハンバーガーショップで休憩中だった。
ヤスミンは家にこもりがちの女性がそうであるように、あまり手入れをされているとは言い難いボサボサの髪をしていた。
くせ毛の長髪を背中まで伸ばしているので、後ろから見たら伸び放題の植木みたいだ。きっと美容室に行く暇がなかったのだろう。
それでも一生懸命にキラキラなヘアバンドをして、気合の入った化粧をし、帝国の民族衣装であるオレンジ色のまばゆいディアンドル(灰被りのシンデレラが着ているアレ)を着ていた。普段は伏し目がちな彼女が背伸びをしているみたいで可愛らしいと言えなくもなかった。今となってはハンドバッグ代わりとなった壺を後生大事に抱えている姿もリスのような小動物を連想させた。ちょうど頬袋はハンバーガーで膨らんでいるし。一方でアンドレアスはダメージジーンズとロックな黒シャツでラフな格好。オープンフィンガー手袋にはなぜかクサリが付いており、動くたびに音を立てる仕様であった。対照的な二人。他所から見ればヤスミンがアンドレアスを誘ったとは誰も思わないはずであった。
いや、積極的に話しかけているのはヤスミンの方なので、そうでもないかも。
「素敵でしたね、ペガサスの空中レース。競馬場っておじさん向けで、もっと粗野な印象だったんですけれど。空を舞うペガサスが見れるだけでも行く価値ありますね、モグモグ」
「むしろ ご老人からは嫌われているみたいよ。国の伝統を蔑ろにして、競馬という外国の文化ばかりをもてはやすなって」
「ああ、お父様から聞いたことがあります。このコロシアムではもともと戦車レースが行われていたそうですね、モグモグ。犬ぞりレースみたいな奴」
「鎖国が終わり、外国の文化がドッと入ってきて。それはそれで良いのだろうけど。ウチの美術館でもよその芸術を紹介するばかりでガリア帝国独自の展示品はごく僅かだもんな」
「観光客向けに常設展示室でやっているだけですからねぇ。地元のアートなんて」
「我が国には誇れる文化が何も無いのかと、少し残念に思うね」
「これからですって! 井の中の蛙が世界を知り、芸術の最前線を学んだんですよ。若きクリエイターたちがきっと何かを作り上げます。新時代ですよ、新時代! ビルギットも文明開化の荒波に振り落とされないよう必死なんですよ、モグモグ」
「必死というか、空回りしているというか……おっと」
「そんなこと、言わないで下さいよぉ! 現代のアーティスト達は皆ネットに作品を上げてリアルタイムで評価されているんです。もう、それが当たり前の時代なんですよ。今まで通りにはアカデミーの権威と価値観が通用しなくなるかもしれないって。これから先、美術館はもう用なしなのかもしれないって。主任も悩んでいるのですから。時代の激流について行こうと必死!」
帝国アカデミーとは、芸術家や学芸員を育成する為の学術研究施設である。いわば大学のようなものだ。
美の規範は全てがココでの話し合いによって決まり、アカデミーの重鎮たちに認められなければどんな芸術家も飯が食えないと言われていた。
国が定めた芸術の最高機関であるが、やり方が少々時代遅れという批判があるのもまた事実だった。ちなみに学芸員の資格免許を発行しているのもこの機関であった。学芸員になるという事は、すなわちアカデミーからお墨付きをもらうのに等しいということ。
学芸員の判断イコール、アカデミーの意志と言えなくもなかった。アカデミーが批判される責任の一端は学芸員の軽はずみな言動にもあるのだ。
当然、見習いであるアンドレアスはまだ免許を所持してはいないのだけれど。
だからと言って軽率な行動が許されるわけもなく。
少し考えてから、アンドレアスは素直に謝ることを決めた。
「そうだね、ゴメン。もう君の前で主任をからかったりしないよ」
「そうですって、モグモグ」
「うーん、君たちはしみじみ友達なんだね」
「ビルギットには昔から助けてもらうばかりで。父が亡くなって引きこもっていた時なんか、屋敷に来て私にご飯を作ってくれたんですよぉ。すっかり無気力で何もする気すら湧かなくて。あのままだと飢死していたかもしれません、私」
「ご立派だ。ヒーローみたいだねぇ」
「そう、ビルギットは私にとってのヒーロー。だから彼女の為なら何でもやってあげたいんです。もぐもぐ」
「コッチは頼れる友達なんて居ないからうらやましいよ」
「眼鏡で裸を見たりしなければ、主任は頼れる人なんですって。もぐもぐ」
とても良い話だが、ヤスミンの手中で三個目のハンバーガーが無くなりかけている事実を帳消しに出来るほどの美談であるかは微妙な所だった。
「良い食べっぷり、ほれぼれするねぇ」
「アラ、私ったら。オゴリと聞いてつい……」
「いいよ、いいよ、孫娘がTVに出たら、オーナーも喜んでね。臨時ボーナスが出たんだ。細かいコト気にしないでいいから沢山食べなよ」
―― どうせ、教会を建て直すには金額不足。きっとこうした方がシスターも喜ぶはずさ。
けれどタダで貰いっぱなしは気が引けたのだろうか。
ヤスミンはテーブルに置いた壺をまさぐり、中から菓子箱を取り出した。
そのままポッキーを一本口にくわえると、突然アンドレアスに差し出してきた。
「ふぁい、アンドレアスさんも見てるだけだとつまらないでしょう? たまには食べたり触りたくなるんじゃありません。ウフフ、大人のレディなのでBまでならOK、主任には内緒にしますから」
「内緒ねぇ」
どうも真昼間から店内でポッキーゲームをしようと言っているようだ。
棒状のお菓子を男女で両端から食べていくと、最後には唇が触れ合う寸法だった。
カモンカモンと言わんばかりに咥えたポッキーを上下させるものだから、色気も何もあったものではない。そして何より、このデートで主任に隠し事をするなんて不可能なのだ。
なぜなら、当の本人がすぐ後ろのボックス席で様子をうかがっているのだから。マスクにサングラスというベタな変装をしているが、チアガールのポンポンみたいなお下げが帽子からはみ出ていた。チートなしでも、今の彼女が苦虫を噛み潰したような表情をしているのは容易に想像がついた。
「それじゃ遠慮なく」
アンドレアスは迷う事なく指で菓子を折ってしまい、半分をボリボリたいらげてみせた。それから紙ナプキンを手に取って、ヤスミンの頬についたソースをふき取ってやった。ヤスミンは確かに可愛らしいが、そのチャーミングさは父性に訴えかけてくる可愛さであった。
もしかすると その方が背徳感を味わえてあるいは良いのかもしれないが、彼の頭に巣食う良心回路のミニシスターがそうした悪徳を百トン・正義ハンマーで即座に粉砕してしまうのだった。
お腹いっぱい食べさせてあげるからちょっとだけC(鈍い破壊音)
後ろの席ではビルギット主任も「イチャラブ(B)キャンセル」にホッと胸を撫でおろした様子。
―― そんなに心配なら、三人で行こうぜ? もう!
喉元まで台詞が出かけたが、上司のメンツを潰す真似は慎まねばならなかった。
逆に頬を拭かれたヤスミンはパチクリと瞬きしてから口を開いた。
「素敵! やっぱり主任は誤解していますよ、アンドレアスさんのこと。後でちゃんと説得しといてあげますからねぇ」
「は、ははは、ありがとう」
「それより午後はどこに出かけます? 下町の方は一度も行った事がないんで、そちらを案内してもらえると嬉しいです、私」
「スラムは見世物じゃないんだぜ? まぁ昼間なら犯罪に巻き込まれる事もないか。このところ知人にご無沙汰してたし、挨拶がてら行ってみようか」
スラムだからといって、知的な娯楽がまったくないワケではなかった。腹ごしらえを済ませた二人は、虹色カエル通りにある「夕暮れ公園」へと向かった。
舗装された広場にはタイルの絵で象、ライオン、ダチョウといった動物たちが描かれており、遊具も幾つか設置してあって、いかにも児童の遊び場らしい素朴な雰囲気を漂わせていた。広場の中央には東屋つきの小高い丘があり、そこへ登る階段に何やら沢山の子ども達が集まっている様子だった。アンドレアスは繁盛ぶりに感心して思わず口笛を吹いた。
「ヒュ――、ちゃんと今日もやってるな。お菓子を無料で配るから、絵描きのお兄さんはガキどもの間で大人気なんだ」
「へぇ、お菓子! ……って流石にもうお腹いっぱいですよ。絵描きと言うのは? 似顔絵とか描いたりするんです?」
「もっと凄いよ。色んな漫画家の作風を真似て、それっぽく似顔絵を描いてくれるんだ。大人は有料だけどね」
アンドレアスにとって、今や数少ない友人の一人。
漫画風似顔絵師のカミルは温かく二人を出迎えてくれた。
年齢は三十そこそこだろうか、アリの触覚みたいに長く伸ばした前髪が顔の前でフワフワと揺れていた。視力が悪いのか常に目を細めており体型はやせ気味だ。
貴族めいたカフス付きの立派な服を着ているが、よく見るとツギハギだらけでボロボロだった。
カミルはヤスミンの姿を目にするや否や、大袈裟なリアクションをとった。
「いやぁ、まさか無愛想なアンドレアスがシスター以外のレディと一緒だなんて。明日は雪でも降るんじゃないかな? もしかして! どうしたんだい、我が友よ」
「止せよ、カミル。この人は同僚で、ちょっと地元を案内しているだけさ」
「テルク・シノエ美術館で働くヤスミンです。はじめまして、カミル」
「ふーん、しばらく顔を見ないと思ったら就職が決まっていたのか。しかも美術館?」
「あっ、それは!」
―― マズったな、これは。浮かれ過ぎだぜ、たかがデートで。
カミルはアンドレアスが学芸員となった経緯を知らない様子だった。
彼は怪訝そうに小首を傾げながら こう続けた。
「君ってさ、そこまで美術に明るかったのかい? 学芸員様から助言を貰わなかったなんて、ボクが迂闊すぎたのかな?」
「いや、その、実はチート眼鏡のお陰なんだ。スカウトされたのは」
「チート? 君が? それは初耳だね」
「だよな。気味悪がられるのは嫌だったからさ……スマン、黙っていて」
仕方なく眼鏡の秘密を語って聞かせると、カミルは細い目を見開いた。
「チート使い? 噂のチート眼鏡くん? なんと、君がそうだったのか?」
「カミルを信頼していなかったワケじゃなくて。その……」
「なんだい? 言いかけた事は全部言って、スッキリしてしまいなよ」
「話してしまうと、誰もが俺を眼鏡の付属品みたいに扱うからさ。チート眼鏡くんなんて陰口叩かれたくなかったんだ」
「ああ、判るよ。神のギフトは時に呪いのようなモンだ。ボクも半端な絵の才能さえ無ければ今頃はきっと……いや、言うまい」
「どうか気にせず、今まで通りの付き合いをして欲しいな。俺に声をかける奴はどいつもこいつも、眼鏡に用事があるものだから。時折、この眼鏡を地面に叩きつけて踏みにじりたくなる事すらあるんだ。ああ、チートって奴は必ずしも人を幸せにしてくれない」
思いがけない告白に、隣で聞いていたヤスミンも言葉を失っていた。
横目で彼女を一瞥し、アンドレアスは素早く自己分析を完了させた。
―― 成程、そうか。「チート使い」ではなく、俺を一人の男性として扱ってくれたから……だから、彼女にも好意を抱けたのか。ただ、それだけの理由で。俺って奴は。なんて安い男だ。
カミルは渋い顔で長考した後、おもむろに口を開いた。
「神のギフトが人生を歪めることはある。確かにそうだね。でも、仕事の方はそれのお陰で上手くいっていたんだろう?」
「ああ。そりゃ、まあ。絵画の真贋判定はこれ一つで何でもこなせるよ。自慢じゃないがね」
「へぇ~~、チートで何でもねぇ……ふぅ~~ん、そう」
次の瞬間。
それまで爽やかだった好青年は突然ドスの効いた声を腹の底から振り絞った。
「舐めるなよ、若造」
「えっ?」
「チートがどれほどの物であろうと、所詮は道具さ。極限まで研ぎ澄まされた人間の神業には遠く及ばない。万能、絶対はこの世に存在しないんだ」
「いや、その、カミル?」
「……と芸術家であれば誰でも そう怒るだろうね。たかが お絵描きに命をかけているからさ、僕ら。軽はずみな安請け合いは慎んだ方が良いよ? 親友として忠告だ。若者のウヌボレはいつか身を亡ぼすから」
「な、なんだ冗談か。マジでビビったぜ」
「フン、騙していた罰だよ、親友」
にこやかな雰囲気に戻ったカミルと、その場は円満に別れた。
いや、正直な所、とてもジョークとは思えぬ殺意を感じてヤスミンとアンドレアスは内心震えあがっていたのだけれど。その証拠に、それまでカミルの周囲を取り巻いていた子どもたちが一人残らず居なくなっていたのだから大概だ。おまけに何かを察した広場のカラスが一斉に飛び立ち、こちらも群れごと姿を消していた。
とてもデートを続ける気にはならず、近くの茂みに隠れていた主任に声をかけてその日は解散となった。カミルに描いてもらった似顔絵は、有名な漫画家の絵とそっくりで良い記念品になったのだが。
「おーい、ビルギット主任、そこで何をしているんです?」
「いや、何って……ほら、双眼鏡でバードウォッチングよ。あっ、黒い鳩だ」
「カラスでしょ。はいはい、デートはもう終わりますから。見張りお疲れ様でした」
「あ、アタシはヤスミンが野郎の毒牙にかからないようねぇ!」
「はいはい。それより何か嫌な予感がするんです。気を抜いて、とんだやらかしを仕出かしたかもしれません。もし私の予感が当たっていたら、ごめんなさい」
悪い予感というのは良く当たるもの。
翌日の晩、テルク・シノエ美術館に一本の電話がかかってきた。
『初めまして、カリスマ令嬢学芸員のビルギット主任』
「どちら様? ファンならダイレクトな電話は謹んで欲しいんだけど」
『ははは、ファンではないね。むしろ逆だ』
「えっ? なんと?」
『先日は楽園・理想郷展で私のゴーギャンを辱めてくれたね、ありがとう』
「なっ!? もしもし、どちら様?」
『今はソウルレスと名乗っておこう。君に利用された しがない贋作屋だよ』
「はぁ?」
『こないだのお礼として、我々清貧会が主催する裏展覧会に君たちを招待したい』
「なんですって」
『題して「偽物ど――れだ展」君たちの鑑識眼がどれほどの物か直々に試してやろう。我々贋作屋と学芸員は天敵同士。いつかは決着をつけねばならない、そう思わないか? これは左手の手袋がわり、いわゆる挑戦状なのだよ』
「なんでアタシがそんな事を……」
『挑戦に応じなければ、その事実をマスコミに公表する。贋作サギ撲滅キャンペーンの提案者として敵前逃亡はマズかろう』
「それは、そうかもしれないけど」
『また私の手元にはとある巨匠の真作がある。ブラックマーケットで入手した品だが、挑戦に応じてくれるのなら母国へ返却するのもやぶさかではないよ?』
「もし応じなければ?」
『また闇へ消えていくだけさ。光当たる場所へはもう戻れないだろうね』
巨匠の真作とやらを人質に取られては、拒否権など存在しないも同義だった。
「わかったわよ。偽物屋め、吠え面かかせてやる」
『……それでこそ、アカデミーの認める学芸員だ。もちろんチート眼鏡くんも同伴で結構。歓迎するよ。真の芸術を前にした時、こざかしいチートなんて何も役に立たない事を教えてしんぜよう。進化の果てには神をも超える、それが人間様だ』
言うだけ言ってしまうと、電話は一方的に切られた。
これもまた高みを目指してイバラの道を突き進んだ結果。
贋作屋と学芸員。
時代に淘汰されまいと抗う者同士、しょせん対決は避けられないものだ。
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