望郷のアーケードゲーム Rydeen (Yellow Magic Orchestra)

 PSが生まれて間もない時代。

 ゲームセンターが、まだ野郎ども学生たちの聖地であった頃の話。


 さて、今日は友人に勧められるまま、シューティングゲームに挑戦しようと思う。

 白い筐体には、黒い筆文字で「雷電」と記されている。

 筐体の右側には、メインパイロットのイカツイイラストを筆頭に、敵・味方キャラの胸像イラストが乗機と共に掲載されている。

 そして、左側には、「難民の戦士は、最愛の人々を守るため、孤高の空に飛び立つ…」というキャッチコピーが朱色と黒影の文字で殴り書きされている。


「絶対、泣けるって!

 間違いないさっ!」

 並々ならぬ友人の薦めもあり、得意ではないシューティングゲームの前に座った。


 CM画面が流れる筐体にコインを投入する。

「Game Start!」

 と、緑の文字が表示される。


 Aボタンを押すと、画面が真っ暗になり、白い画面がフェードインしてくる。

 さらに、黒い筆文字の「雷電」までもがフェードインし、文字の中央から主人公の愛機が飛び出してオープニングが完了する。

 聞き覚えのある「ハイハット」の打音に併せて、愛機の装備が整えられる止め画像が流れ、ゲームが始まる。


 程よい緊張感のある交戦画面。

 むしろ、戦闘に華を添えるBGMが、気分を高揚させてくれる。


「Rydeen…」

 父が良く聞いていた楽曲がBGMになっている。


 飛ぶ高揚感を引き出すシンセサイザーの音が、戦闘機を飛ばす楽しみと、否応なくシューティングに集中させてくれる。

 音楽に合わせて戦闘パターンも変わるから手が止められない。


 そして、中ボス戦へと突入していく。

 僚機が登場し、2機で中ボスを仕留めていく。


 ステージを変えての通常戦闘画面。

 当然の如く、難易度は上がっているが、曲のノリにつられて、僕は、ゲームの世界にすっかりハマり込んでしまった。


 踊るように飛ぶ愛機、打ち出す弾幕は歯切れのよい音符のように敵を落としていく。


 いよいよ、中ボス戦へと突入し、僚機とともに中ボスを仕留めていく。


 と、ここでラスボスの登場である。

 激しい弾幕戦!

 相手も強いが、こちらも負けてはいられない!

 必死に敵弾を掻い潜りながら、こちらも応戦していく。

 しかし、善戦虚しく、僚機は撃墜され、こちらのダメージもそろそろ限界…というところで、無事ボスを撃墜!


 通常戦闘シーンの音楽に乗せて、エンドロールがスタートする。

 スタッフロールを中心に、画面の左右に戦闘の名場面が止め絵として表示されては消えて行く。


 いよいよ、ラスボス戦が表示されると、スタッフロールも終わりを告げる。


 ラスボスを撃墜し、地上に降り立つ主人公。

 そして、ラスボス機のコックピットが主人公の眼前に落ちている。

 コックピットの扉が開き、中から現れたのは、額から血を流し、ぐったりとしているブロンド女性。

 その手には、敵パイロットのヘルメットが…。


 主人公は、女性のもとに駆け寄ると、彼女を抱きしめ絶叫とも咆哮ともつかない激しい表情で吠える。

 ここで、画面はフェイドアウトし、「END」の文字が表示される。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の教室にて

「おいっ!」

 昨日のゲームを紹介してくれた友人の首根っこを摑まえる。

「んっ?

 どったの?」

 彼は、咄嗟の事に呆けている。


「あんなのが、泣けるゲームなのか?

 まぁ、別の意味で泣けたけどさ…。」

 僕の言葉に、少し思案していた彼も、ガテンがいったのか、頷いた。

「ああ、あれね…。

 まさか、ラスボス倒しちゃったの?」

「倒したよ!

 って、シューティングゲームだぞ。

 ボスを倒さなくってどうするんだよ?」


 彼はニヤリと笑った。

「じゃぁ、今日はオレといっしょに、再挑戦してみるかい?」

「わ…わかったよ。」

 僕は頷くしかなかった。


 ◇ ◇ ◇


 再び、あの筐体の前に立った僕と友人。

「んじゃ、始めよっか?」

 そう言って、彼は「雷電」を開始した。


 序盤から、ラスボス前までは、昨日の僕と同じ行程を辿っていた。


「さて、問題はここから…。」

 ラスボス戦が開幕する。

 すると、ひたすら弾幕を回避するだけの友人。


「おいおい、それじゃいつまで経っても…。」

「いいから、見てな♪」

 慌てる僕を窘める友人。


 やがてスタッフロールの開始が近づいて来ると、突然ラスボスが自壊を始める。

「へ…。」

 呆気にとられる僕。

「なっ。」

 友人が得意げな顔になる。


 昨日と同じスタッフロールがスタートする。


 いよいよ、ラスボス戦が表示されると、スタッフロールも終わりを告げる。


 地上に降り立つ主人公。

 彼の眼前には、自壊して残ったラスボス機のコックピット。

 コックピットの扉が開き、中からヘルメットをかぶった敵パイロットが降りて来る。

 ヘルメットを脱ぐと、ブロンド女性の笑顔が現れ、主人公と女性は惹かれ合うようにお互い駆け寄り、ハグをする。

 ここで、画面はフェイドアウトし、「Fin」の華文字が表示される。

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【月城ナノ嬢企画】音楽を小説にしよう! たんぜべ なた。 @nabedon2022

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