花火の後で
カランコロンと音が響き渡る。
手に持った光るおもちゃ。ビニール袋に入ったスーパーボール。きっと家に帰ったら必要なくなるんだろう。
それでも戦利品を片手にみんなと歩く夜道は、非日常感を生み出してくれる。
今日は楽しかった。
みんなと夏祭りに行って、屋台で盛り上がって、一緒に花火を見て。
1人じゃ君を誘えなかったと思う。
結局みんなで行くことになった花火大会。少し早めに友達の家に集まって、友達のお母さんに着付けをしてもらって。
君と手を繋ぐなんて出来ない。なら、せめて君の思い出には……
そんな気持ちで着付けをしてたなんて、君は想像すらしていないんだろう。
理想の祭りデートにはならなかった。着付けを終えた時の自信は、まるで嘘みたいに消え去る。
臆病になった私は、君の後ろを歩くしか出来なかった。
変に意識して身構えてしまった私。そんな私にも奇跡が舞い降りる。
河原から見た打ち上げ花火。気付けば隣に君がいた。いつもはクールな君の無邪気な横顔は何よりも眩しかった。
花火に夢中だったから私の視線に気づいていないと思う。誰も知らない、私しか知らない君の表情。
これからも花火を見る機会はある。花火じゃなくても街行く人の浴衣姿とか、夏祭りのポスターとか。
夏祭りを意識する度に、今日のことを思い出すんだろう。
その時には隣に君がいて、一緒に浴衣を着て、逸れないようには手繋いだりして、花火を見て「綺麗だね」って耳元で囁いたりして。
そして他愛もない話をしながら夜道を帰る。
「……はぁ」
静かにため息をつく。
花火はもう上がらない。色彩の消えた夜空を夢物語で彩る。暗くて寂しい夜空なんだ。少しくらい許してくれるはず。
そんなことを考えながら君の後ろを歩いた。
「……じゃあ私こっちだから」
不意に足を止める。いつの間にか交差点に着いていた。
結局何も出来ていない。せっかくの浴衣姿も君の記憶には残らないんだろう。いつもみんなと別れる交差点。浴衣まで着たのに結局はいつもの私だった。
「あ、そっか。ここでお別れか」 「気をつけて帰れよ」「バイバイ、また遊ぼうね」
「うん。またね」
街灯の下で手を振る私。1人、また1人と歩き始め、徐々に背中たちが小さくなっていく。
この光景は幾度となく見てきた。それは放課後だろうと夏祭りの後だろうと変わらない。
いつも通り1人寂しく帰り道を進む。
今日もそのはずだった。
「……み、みんなと帰り道違うんだねー」
隣にいる君に話しかける。
帰り道が違うから、みんなと別れた。それくらい少し考えれば分かるはず。けど無言が気まずかったから。
咄嗟に発した声は、見事に裏返る。
慌てて口を押さえても、もう遅い。街灯の下で顔を赤くすることしか出来なかった。
「あー……こっちから帰ったほうが近いんだ。っていうか、声めっちゃ裏返ったな」
「う、うるさいなー。めっちゃって言うほどでもないじゃん」
「あははっ! ……でもよかった。ずっと元気なかったから心配してた」
……見てくれていたんだ。
祭りの屋台。打ち上げ花火。浴衣姿の綺麗な人。はしゃぐ友達。
惹かれてしまうものはたくさんあった。その中でも私を見てくれて、心配までしてくれた。
顔が熱くなる。これは恥ずかしいからじゃない。
「もう暗いし、送ってくよ」
「……うん」
花火はもう上がらない。屋台も提灯の灯りもここにはない。思い描いていた夏祭りとは程遠い光景だ。
でも君の隣を歩けるなら。
下駄の音が夜に響いた。
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