雨は降らない

 灰色の空だった。

 少し薄暗い帰り道。時刻はまだ5時にもなっていないはず。それなのに厚い雲が時間を勘違いさせる。


 一応折り畳み傘は持っている。もし雨が降り出しても問題ない。それは君も同じだろう。君が用意周到なことくらい知ってる。


 だって小学生の頃から一緒なんだから。



 「ってかさ。日曜楽しかった?」

 「……何の話?」

 「あの子とのデートの話」



 隣を歩く君に質問する。

 ずっとこれが聞きたかった。聞きたくて、知りたくて。笑いながら何気ない出来事を話している間も、噂話が頭から離れなかった。



 「別にデートじゃないし」

 「ふーん……でも遊びに行ったのは本当なんだね」

 「……」



 少し俯いて黙る君。言葉はなくても噂話が本当であることを教えてくれる。



 「で、どこ行ったの?」

 「……適当にいろんな所」

 「あははっ。結局どこだよー」



 明るい声で揶揄いながら、君の肩をパンチする。

 咄嗟に貼り付けた作り笑い。いつもなら自然に笑えているのに、今日は何だか変だ。


 上げた口角は辛くなっていき、眉毛も次第に下がっていく。キュッと細めた目の奥は多分笑っていないんだろう。鏡なんて見る必要ない。


 顔を見られたくなくて歩幅を狭めた。君の少し後ろを歩きたかったのに、君はすぐに私の歩幅に合わせてくれる。


 その優しさが嫌だった。



 私の方が先に好きになったのに。

 私の方がずっと前から君を知っているのに。


 順番なんて関係ないのは分かっている。悪いのは向き合う勇気がなかった私。これはただの醜い悪あがきだ。


 こうなるんだったら、フラれたかった。

 思いっきりフラれて、思いっきり傷ついて、思いっきり泣いて……そして君を諦めたかった。


 どんよりとした雲が空を埋め尽くす。まるで私みたいだ。

 君を独り占めしたい。もっといろいろ知りたい。そう思って頑張っても、心は灰色のまま。


 空はまだ泣き出さないみたいだ。

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