ラブレター
秒針の音が大きい。窓もドアも閉め切っているはずなのに、近所の犬の声が聞こえる。
文章は出来た。あとは紙に書き写すだけ。たくさん考えて、たくさん時間をかけて。もう一踏ん張りなのは分かっている。それなのに便箋は真っ白のままだ。
なかなか前に踏み出さない私に呆れたのか、スマホの画面がフッと暗くなる。慌ててロックを解除すると、そこには想いのこもった下書きがあった。
書き始めは難しかった。たった2文字で伝わる言葉。それだけじゃ寂しいけど、足しすぎるもの良くない。
記憶を遡り、君の顔を思い浮かべて文字を羅列していく。気付けば1000字くらいになっていた。
画面を上にスクロールする。書いては消して、何度も読み直した私の気持ち。一言一句、どれを省いたとしても、この気持ちは伝わらない。
文字を追うたびに、君との思い出のが蘇る。
君にとっては、ただの日常なのかもしれない。でも私にとっては全部キラキラした大切な思い出だ。
何もしないまま卒業してすることも考えた。けど、やっぱり私の気持ちを知っていて欲しい。
たとえ恋人になれなくてもいいから。
スマホを机の上に置き、座り直す。手元にあったボールペンをカチッと鳴らし、便箋に向き合った。ずっと使っている勉強机がギシっと音を立てる。
「……」
字の大きさ。文字の間隔。誤字や字の綺麗さまで。
改めて向き合うと意識することが多すぎる。使い慣れたはずのボールペン。そのペン先の震えが止まらない。
たかが手紙でこんなに緊張するなんて。友達に見られたら笑われると思う。
でも今の私は本気だ。
レターセット選びにいくつも店を回って、文章を作るにも何時間もかけて。勇気を出して踏み出した一歩。そんな私を私は応援したい。
軽く息を吐く。まだ微かに震えるボールペンで便箋に文字を綴った。
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