行方不明
@ku-ro-usagi
読み切り
多分、一番インパクトないから私からで。
高校の頃。
小さなイタリアンでバイトしてた。
下がコンビニで2階がお店。
私はウェイターだったけど飲み物くらいは作ってたよ。
小さい店だから、店長兼コックさんと、もう1人キッチンに、少し顔が濃くてね、肌の色も少し濃い目の外国人のお兄さんがいた。
イタリアの人って感じではなかったけど、とてもイケメンさんで、厨房からは滅多に出てこないけど、お兄さん目当ての女性のお客さんは少なくとも何人かはいた。
無口だけど料理は上手だし、いつでも優しかった。
でもある時、いきなりお兄さん消えちゃった。
消えちゃったその日、ラストまでいたのはお兄さんと私。
店長さんのお家の息子君が熱を出したとかで、お兄さんに戸締まりお願いして先に帰っていたから。
ラストオーダー過ぎてお客さんもいなくなると、片付けしてさ、お兄さんは、
「冷蔵庫の在庫のチェックしていくからお先にどうぞ」
って流暢な日本語で言ってくれたから、先に帰ることにしたんだ。
でも、
(あっと……)
階段降りて数歩進んだ所で、ロッカーにサブバッグ置いてきたことを思い出した。
ロッカーと言っても休憩室の隅に小さい仕切りカーテンがあって、服屋の試着室くらいの大きさかな。
そこに3つ縦長ロッカーがあるだけなんだけどね。
階段上がってノックもせずに裏の入口開けたんだ。
お兄さんはもう厨房だろうと思って。
そしたら、お兄さんは水色の布で、店内と奥の休憩所、この部屋ね、を繋ぐ扉のドアノブを拭いていた。
掃除かなと思ったけど、お兄さんはニコリと微笑むとね、言伝用のホワイトボードの水性ペンを手に取って、それも布で拭き上げて、よく見るとお兄さんは透明な薄い手袋をしたいた。
「何、してるんですか?」
と聞くと、
「うん、僕の指紋を全部消してる」
ってさらっと言われて、
「なんで?」
と更に訊ねたけど、
「秘密にしてね」
って立てた人差し指を唇に当ててウインクされた。
その色気と茶目っ気たっぷりの眼差しに、今までの無口でストイックな姿は全て演技で、こっちが素なんだなと気づいた。
私はロッカーからサブバッグを取り出すと、お兄さんは、休憩所の椅子の背もたれを真剣な顔をして拭き始め、私は、
「お疲れ様」
と声を掛けて階段を降りながら、
(もう会えないんだろうなぁ)
と思ったし、実際次の日からお兄さんは姿を現さなかった。
昼間の厨房はてんてこ舞いだったらしい。
更に次の日、バイトのシフトに入ってたからお店へ向かったら、下のコンビニの駐車場はおろか、店への階段を塞ぐように大きな黒いセダンがどーんっと停まっていた。
店長に電話しても出ないし、同じく夕方からのパートさんも来たけど、中には入れなさそうでその日は帰った。
噂では、
「店長が脱税してた」
とか聞いたけど嘘っぽい。
だって、
「脱税」
程度だとあんな大掛かりじゃないよね?
え?あれくらいするの?
知らないけど。
脱税のせいなのか、イケメンお兄さんで店が持っていたのか、最後のお給料だけは振り込まれたけど、そのままお店は開くことはなく閉まっちゃった。
私の身近な、
「行方不明」
はそれくらいかな。
もう何年もSNSだけの繋がりの中学生の時の友人がね、
「結婚しました」
って男性と一緒に指輪と共に画像をアップしてたんだ。
そのお相手が、その友人の双子の弟だった。
昔から2人は似てないけど、友人は美少女で弟は美形で、本人たちは物静かな2人だった。
あの年頃からしたら、2人の凄く静かな佇まいは、ずっと印象残っててさ。
私はね、2人が幸せならいいと思うんだ。
でも、少ししてその写真は削除されてた。
更にしばらくしてから、親か誰かがその友人のSNSのページを使って、
「姉の○○と弟の○✕の2人の行方を探してます、有益な情報を頂けた方には心ばかりの謝礼も致します」
ってメッセージが来た。
うん、友人達には、またいつか会えればいいなって思ってる。
少し前にネットで知り合った友達の部屋へ誘われて遊びに行ったんだ。
危ない?
はいはい、次は気を付けるよ。
私より5歳も若くて、未成年だけど、一人暮らししてた。
親が裕福なんだろうね、大きなマンションだったよ。
でも、部屋でモルモット飼ってて、ペット飼ってるなんて聞いてなかったし、クール系で動物を可愛がるタイプに見えなかったから、
「意外だー」
って言ったら、
「黒魔術にネズミちゃんが必要なの」
って返事が。
トカゲも飼ってた。
「効くの?」
って聞いたら、
「ないよりまし」
って。
ないよりマシかー、そっかー、トカゲはその程度かーってね。
「何の召喚するんだろう」
って思って聞いたけど、
「秘密」
ってそっちは教えてくれなくてさ。
それからたった3週間後、いきなり連絡途絶えて、彼女が行方不明になっちゃった。
彼女の部屋から致死量に近い大量の出血の跡あって、人間と動物の血だったけど、でもほとんどは1人の人間の、友人の血だったって。
部屋から連れ出されたみたいな形跡は1つもなかったってさ。
召喚したんじゃなくて、召喚されてどっかに行っちゃったのかな。
それっきり、その子は見つかってないんだ。
ちょっと心配だけど、新しい世界で人生謳歌できてればいいねって思ってる。
うちは実家が観光地でね、海が近いから夏がもう、何もかもの全盛期でさ。
人手が足りないから、うちの学校も夏季のみバイトOKだったんだよ、もうそれくらい凄いんだ。
私は地元で、特にお宿が乱立してる所の近くに住んでたから通いだったけど、サーファーの子なんかは、住み込みで夏の間働いて、暇な時間にサーフィンしたりしてる子とかもやっぱり多かった。
いわゆるリゾートバイトってやつだね。
旅館でバイトしてた時は、住み込みの人は本当にわけありの人がいて、その時に仲良くなったお姉さんは元新婚さんだった。
お姉さんさは、ある日旦那さんにね、全部の部屋に、勿論、脱衣所やトイレにも、冷蔵庫の中にも監視カメラ付けられていて、それに気づいた時に、恐怖で着の身着のまま逃げてきたって。
「いい人だったから一瞬迷ったんだけどね」
でもやっぱり怖くてって、話してくれながもニコニコしてた。
お姉さんはその時からもう天涯孤独で、だから身一つで逃げられたって。
お姉さんとは仲良くなって、うちにも泊まりに来たし、なんなら冬のリゾートバイトのために北上するまで、我が家に住んで近所でバイトしてた。
それからはもうずっと会えてないけど、たまに、
「生きてるかな、元気かな」
と思うとね、ごく稀にね、今時公衆電話から電話が来るんだよ。
『元気だよ、また遊びに行きたいな』
って。
そろそろ本気で遊びに来てくれるんじゃないかなって思ってるんだ、ほら、うちも小さいながらも民宿始めたからさ。
あぁ、みんなも来てよね。
なるべくシーズンオフに頼むよ。
大学時代によく3人でつるんで遊んでいた友人がいたんだ。
何の特徴もない自分、イベント大好きで好奇心旺盛の友人のuに、おっとりと穏やかに微笑んでいることが多いt。
卒業してから数年、それぞれ仕事や生活もあって、久しぶりに、優に3年ぶりに2人と会った。
近況報告をしながら、2人ともあまり変わっていない様に見えた。
でも。
tが、
「マリッジブルーなのかな、婚約して、新居だって駅近の良いところ決まりそうなのに、幸せなはずなのに、あんまり幸せじゃない、なんでだろう」
と溜め息吐くから、私は酒を口に運ぶ手を止めた。
少なくとも3人の中では一番の安牌で、夫になる彼氏も、話を聞く限り性格もよさそうだし、その夫の職場も、親戚のジジババ共を黙らせられるくらいには、名の知れた企業のはず。
マリッジブルーとは、別名贅沢病とか言うんだっけ?
言わないか。
なんて事を考えていたら、もう1人の友人のuが、
「ふっふっふ!そんな鬱々としている時のオススメは、刑務所から出ること!
もう、とてつもない解放感と幸せを感じるよ。もう食べるのも寝るのも、ただ外を歩くのだって、素敵なことだ、幸せなことだって感じるから!!」
酒なんて本当に命の水だよ、と美味しそうにビールを煽るu。
そう言えばこいつ、確かに3年ぶりくらいに会うし、そもそも連絡すら取れてなかったな。
いきなり、
「お久しぶりだね~」
なんて連絡来たからuと共にノコノコ出てきてしまったけど。
おい、お前3年近くどこでなにやってた。
ビール追加して誤魔化すな前科持ちが。
そして、婚約して幸せ絶頂期のはずの君も、
「ちょっといいかも」
なんて遠い目をして、考える様な顔をしなさんな。
その時のtは、私のそんな言葉にも、
「やだな、冗談だよぅ」
って、たた笑ってたんだけどね。
そのtが飲み会の後、ほんの少し後に行方不明になった。
tとその婚約者双方の、特にtの方の浮気と、その相手との駆け落ちが疑われたけど、tの性格的にもその可能性は低そうだったし、実際何も出てこなかった。
考えたくはなかったけど、しばらくは身元不明の遺体の発見なんてニュースには過敏になっていたよ。
でも、友人に当てはまりそうなものはなく、安堵半分不安半分のまま、ただ日々が過ぎていった。
それから数年後に、絵葉書が届いたんだ。
消印は、四方が山に囲まれた場所だったけれど、絵はがきは浜辺というチグハグさ。
多分、信頼できる誰かに投函を頼んだのだろうね。
「元気?私は元気だよ、少し日に焼けてしまって、なかなか戻らないです。いつかまた3人で乾杯しようね」
私はしっかりそれを目に焼き付けてから、絵葉書をライターで燃やした。
私が不慮の事故か何かで死んだ時、巡り巡ってこれがtの家族に届いてしまう可能性もあるからね。
『日に焼けた』
暖かい所へ居るのだろうか。
uともぷつりと連絡が途絶えたけれど、多分あいつはどうせまた刑務所だろうから問題ない。
出所したら今度こそ理由を問い詰めるよ。
そんな、
「行方不明」
と言う不穏なお題でね、飲み屋の端の席で仲間とだらだらと談話していたのだけど。
「お待たせー、ごめん、あーもう終わり?」
遅れてきて友人がバタバタやってきた。
「遅いわ」
「ひー、仕事なかなか抜けられなくて」
外の空気を纏う友の闖入で、ふっとテーブルの空気が変わり、そこはかとなく流れていた緊張も途切れる。
そう言えば、この間会った時に、この遅れてきた友は、
「いい加減彼氏が欲しい」
と騒いでいたなと思い出し。
「彼氏できた?」
とりあえず運ばれてきたビールに目を輝かせる友に訊ねてみる。
「んん?できたけど、デート中に万引きしてたみたいで、そのまま捕まって警察に連れていかれて連絡取れなくなっちゃった」
うん、最後に綺麗なオチが付いたね。
行方不明 @ku-ro-usagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます