第5話

 ゼニランティスとバニリカの国境沿い、ラーカ平原

 編隊を組んで、待機するゼニランティス軍隊

「両翼に部隊の展開、完了しました…!」

 隊員の一人が、ネリスに報告する

『…始まる!』

 緊張した表情を見せる流星

 その流星を横目で見ていたネリスは

「流星、君には働いて貰わないと困るが…

 初陣である以上、期待はしていない…

 ただ…

 生きて帰る事だけを考えなさい…」

「ネリスさん…

 …ハイ!」

 流星の表情が引き締まるのだった


『バニリカ軍の敵影、確認…!』

 その言葉が戦場に響く

「総員、構え!!」

 ネリスさんの合図で、ライフル銃を一斉に構えるゼニランティスの隊員達

『…!』

 流星も銃を構える

 流星の頬に、緊張から来る一筋の汗が垂れるのだった


 そして、次の瞬間

『ウオオオ…!!!』

 大声を発しながら、大勢のバニリカ兵士が襲い掛かってきた

「撃て!!!」

『ババババンッ!!!』

 ネリスのその合図で、一斉に銃撃が始まる


 弾幕が広がる

 銃弾に倒れていくバニリカ兵士達

 しかし、それでも歩みを止めないバニリカ兵士

『ハアハア…』

 ブレる銃口、撃てずにいる流星

 すると、銃弾の雨を掻い潜り、一人のバニリカ兵士が、流星に迫る

「このゼニランティス共が…!!」

『ハアハア…!!』

 荒くなる流星の呼吸

 だが、引き金が引けない

『…死ぬ!?』

 そう思い、目を閉じる流星


『ドゥンッ!』

 暗闇に銃声が響く

『…!!』

 流星が瞳を開けると、頭を撃ち抜かれ、倒れていくバニリカ兵士の姿があった

「流星…!

 君は覚悟を背負ったのでは無いの…!?

 ならば、その指を掛けた引き金を引きなさい…!!」

 ネリスがそう言いながら、助けに入ったのだ


 再び銃を構える流星

 照準を敵兵に定める

 そして

『…!』

 力強く引き金を引くのだった

『ババババンッ!!』

 立て続けに放たれる銃弾

 撃ち抜かれていくバニリカ兵士


 静寂となった平原

 所々から立ち上る煙

 至る所から岩の塊が突き出ていて、平原は荒れていた

 岩の塊を背にして、倒れ込んだバニリカ兵士

 今にも息絶えそうな声で

「ゼニランティスのクソ共が…!」

 そう言って、息絶えるのだった

 息絶えた兵士の手から、写真が入ったペンダントが、血溜まりの中へと落ちる

 写真には、笑顔で寄り添い合う女性と男の子の子供が写っていた

『…!』

 その光景が胸に刺さる流星


「俺は人を殺したんだ…

 この手で…」

 すると

「確かに君は、人を殺したのかもしれない…

 けど、それと同時に君は多くの人を救ったんだ…

 大勢のゼニランティスの民を…」

 ネリスはそう言って、流星の肩に手を置くのだった


「総員、撤収する…!」

 ネリスは振り返り、部下の兵士達にそう告げる

 再び、自分の右の手の平を見詰める流星

『…』

 流星の心の中に、何かが引っ掛かったままになるのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その掛けた指… 甘味 @sweet_taste

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ