第45話 7歳編 エピローグ

 結局あの後帰った私はサルサラに死ぬほど怒られ、罰としてクロミと一緒に一週間か細いパンだけの生活を送った。


 そして、外出禁止を賭けたテストは、サルサラのあまりの力作っぷりに攻略するのに時間がかかり、外出禁止中に何度か屋敷に訪れて勉強を教えてくれたキーノさんの協力もありつつ、結局解放まで三か月はかかった。これでもかなり奮闘した方だと私は思いますわ。


 カモーネ家については時折キーノさんから話を耳にする。そもそも、あの日にカモーネ家当主がフィッツを連れてハイローラ家の屋敷に訪れたのは次に行う茶会の相談だったらしく、レイ家の騒動について把握はしていたがフィッツが関わっていることは知らなかったらしい。今でもカモーネ家とハイローラ家の関係は良好のようだ。


 一方で、あれからフィッツの話は聞かくなった。何故フィッツが告発文なんか持っていたのか、フィッツが言っていた”あの人”とはいったい誰だったのかはわからずじまい。それに、フィッツが持っていたのが騒動のきっかけとなったものかはわからない。いまだ別の誰かが告発文を保管しているという噂も聞く。

 当然、フィッツがいなくなったからと言って事態が勝手に解決に向かうはずもなく、依然としてレイ家を目の敵にしている勢力からは非難の声が上がっていた。

 所詮、あの日のハイカードは貴族がする高尚な決闘なんかじゃなく、子供がするお遊びに過ぎなかったってことだ。


 けれど、決して無駄だったわけじゃない。


 ランスくんはというと持ち前の馬術を活かして想定の倍のスピードで約束を取り付けているらしい。彼の馬術は目を見張るものがあり、向かい風をかき分け進む姿はまさしく人馬一体のようだとグウンズ様が興奮しながら話していた。

 証人との交渉も上手くいってるようだ。フィガロット・レイがもとより人望が厚い人であり、そのために幼い当主が尽力を尽くしているとなれば誰だって協力したくなるものだ。


 彼とゆっくりと会うことができるのも、そう遠くない未来のことだろう。





 ……私は、ランスロット・レイの運命を大きく変えた。これで未来は本格的にどうなるかわからなくなった。

 私の全く知らない世界になるのか、それとも運命が収束してゲームのような未来が来るのか。


 私はずっとゲームの世界が来ることをを望んでいた。もちろん、今でもゲームのキャラクターが幸福な生活を送ることを望んでいる。けれど、最近は知らない未来も悪くないって思う気持ちも芽生えたんですの。


 それがいいことか悪いことかはわからない。私が死ぬかどうかは、10年後に分かることですから。





「それにしてもいい天気ですわね~~」


 爽やかな風が草を揺らし、さわさわと音を立てている。私は読んでいた本を閉じ、ぐっと背中を伸ばす。う~ん、新鮮なシャバの空気は気持ちがいいですわ~!


 私は今キーノさんと一緒に本を持ち寄って、近くの草原で読書大会というインドアなのかアウトドアなのかよくわからないことをしてますの。


 私が持ってきた本は『英雄伝記』。固い文章で難しい印象でしたが、何度も読み返すとその面白さが伝わってくるんですわ。


 読書をしつつ、英雄伝記の話で花を咲かせる私たち。この瞬間は誰が見ても私たちのことは淑女にしか見えないだろう。


 ふと、キーノさんが英雄伝記に描かれている騎士の押絵を見てこんなことを言う。


「そうだ、アリンちゃん。騎士で思い出したんだけどさ、騎士が銀の腕輪を付ける意味って知ってる?」


「え~と、確か戦地から必ず帰れるようにって願いを込めるんでしたわよね?」


「それもあるんだけど、女性が銀の腕輪を騎士に送ると別の意味を持つんだって」


「別の意味ですの?」







「必ず自分の元に帰ってきてほしいってことから転じて、女性が一生を添い遂げるって決めた殿方に渡すんだって。ロマンチックだよね!」











「へ?」

『へ~』




≪アリンお嬢様 7歳編 完≫


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪役令嬢に転生した私、平穏に生きるはずがギャンブルの神に憑りつかれてしまい、せっかくなので世界救ってみた 骨ザリガニ @zarigani-333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画