第44話 決着はもう着いたんですの!
「そんな、なんで……!」
フィッツはその結果を見て言葉を失っていた。さっきまでの口ぶりは、まるで魔力流が見えているかのような感じだったのに、まさか見間違えたんですの?
「嘘だ、確かに揺れは低ナンバーの方だった……! なのに、なんでJなんだ……!」
確かに、ランスくんのカードが10以下でしたら10を持つフィッツは絶対に引き分け以上に持ち込める。けれど、そうはならなかった。
一体何でですの? 私は魔力流とか見えないからわかりませんし……。
『おそらくだけど、微細な魔力流を見るのにはかなりの集中が必要だったんだろう。半狂乱状態だったフィッツにはあのカードが10以下に見えたんだ』
「……え? カイチュー起きてたんですの?」
『入れ替わるのがあれ以上無理って言っただけで、俺が眠るなんて一言も言っていなけど?』
「……まさか、全部見てましたの」
『当然でしょ。あんな面白いもの見逃すわけないじゃん』
「~~~~~///!!!」
このクソボケ魂! いるならいるって言ってくださいまし! 見てないと思って色々変なこと言っちゃいましたわ~~!!
『さてどうする? 少し休んだからまだちょっとは代われるけど』
「いや……ちゃんと後始末も私がしますわ」
目の前のフィッツはうなだれてまだうわごとをブツブツと言っている。
「フィッツ! ……おいフィッツ!」
「……あ?」
まるで上流貴族様と言わんばかりだったフィッツの容姿が、汗やら何やらでボロボロだ。他の人に見られたら貴族の服を盗んだ乞食に間違われるんじゃないだろうか。
「このまま10ターン目をやりますの? それとも、負けを認めますの?」
「いや、だ……おれは、まけたくない……」
フィッツはまだゲームを続けると言って自分のチップを掴む。
だけど、例え次のターンをやったとしても私たち二人がフォールドしたらそこで終わり。場代をフィッツに払ったとしても合計枚数で私たちが勝つ。
つまり、フィッツにもう勝ち目はないんですの。
「おれには、貴様らに無い才能があるんだ……! こんなところで、負けていいわけが……!」
フィッツはチップを握りしめ、テーブルの上のトランプの束を睨む。ここまでくるとそれは執念という才能ですわね。瞳には狂気がランランと輝いている。
私は大きくため息を吐く。これは私がビシッと言ってやらねばならない。
「はぁ……才能才能って、そればっかですわね。あなたは”十で神童、十五で天才、二十過ぎればただの人”って言葉をご存じかしら?」
想像していない言葉が出てきたからか、フィッツの動きはピタッと止まり私の方を見る。
この感じ、もしかして知らないですわね~?
「まったく……どういう意味かエンデッド、教えてあげなさい!」
「なんで俺? ……ええと、聞いたことない言葉だけど、語感的に大人になれば才能なんて関係なくなるって意味じゃねえの?」
「ぜんっぜん、違いますわ!」
バアン!と私は音を立ててテーブルを叩く。今日一日でかなりの回数叩かれたテーブルだから少しかわいそうだと思ったけれど、まあ致し方なし。
「この言葉の本当の意味……才能なんてものは、10歳になるまであるかどうかわかんないってことですわ!」
「……ん?」
「フィッツ、まだあなたは10歳にも満たないっていうのに、これが自分の才能だなんて決めつけるのはあまりにもったいないですわ!! 世界を広く見なさい!」
「いや、多分意味違うと思うぞ」
「黙りなさい」
突っ込んできたエンデッドに私は鋭い声で返す。そのやりとりがツボに入ったのか、ランスくんが私の横で明るい声で笑う。
「あは、あはははは! ……やっぱアリンさんはすごいなあ」
ランスくんがそっと目元をぬぐったのは、きっと笑い過ぎたからだ。
フィッツはさっきまでの執念が消え果て、椅子に力なく座っている。私を見つめていた瞳からは、その狂気が消え去っていた。きっと格言パワーですわね。
エンデッドはその懐をまさぐり、一枚の紙を取り出す。
「これ、必要だろ? たぶん告発文だ」
「ありがとう……エンデッドさんも、ありがとうございます。あなたがアリンさんの味方になってくれたから、ぼくたちは勝てました」
「いいよそんなの。早く受け取れよ」
ランスくんは深々と頭を下げてそれを受け取った。
「じゃあ俺たちはもう行く……アリン、ありがとう」
エンデッドはそう言い残し、フィッツを担いで部屋を出ていく。フィッツの一番の幸運は、彼と出会ったことでしたわね。
「じゃあランスくん、私たちはその告発文をグウンズ様の元へ……って、ええ!?」
私が振り返ると、ランスくんは貰った告発文をビリビリに破いていた。
「な、何をしてらっしゃるのランスくん!?」
「ごめん、アリンさん。勝った時からこうすることに決めてたんだ」
ランスくんは千切れた紙くずを丁寧に拾い、一つにまとめる。
「この騒動の発端は、ぼくの弱い心が原因だ。状況を悪用しようとした人がいたとしても、それは変わらない。ぼくはレイ家当主としても個人としても、自分でけじめを付けなきゃならない」
そう言ったランスくんの目は、純粋で落ち着いたものだった。それが自暴自棄で言っていることではないと簡単に分かる。
「ぼくはこれから各地を回って、父さんの潔白を証明してくれる人を集めます。何か月、いや何年かかっても必ず」
口では簡単に言えるが、それは長くて辛い道だ。その道を進むなら、ランスくんにはこれまで以上の苦難が待っているだろう。
けれど、なぜか私には確信があった。この問題は必ず解決すると。
「それで、この騒動が解決して、もしぼくがちゃんと騎士としてい続けることができたら、その……」
ランスくんはもじもじとしながら私の方へ向き、その言葉を口にする。
「またお姉さんって呼んで、いいですか?」
「当然ですわ!!」
答えなんて決まっている。私も今度こそランスくんの姉として彼を見とどけなければならない。その覚悟が、今の私にはある。
「やった!! じゃあ、また会いましょうね、アリンさん!!」
ランスくんは軽い足取りで部屋を出ていく。ランスくんにお姉さんと呼ばれるのは、次までのお楽しみですわね。
「さあ、私たちも帰りますか! 置いてきたクロミが可哀そうですし!」
『なあアリン』
私が部屋の扉に手をかけようとしたとき、ふいにカイチューが話しかける。
『いい機会だし、賭けの勝負で一番大事なことを教えてやる』
「ええ~今ですの~?」
『ああ今一番重要なんだ。賭けに勝って終わったら必ずこれをしなきゃならない』
「……そう言われると、気になりますわね」
『まあ難しいことをやるわけじゃない。ただ終わった後にこう言うんだ――』
カイチューが言った言葉に、私は思わず吹き出してしまう。
『――ってな。簡単だろ?』
「も~、今回だけですわよ?」
私はくるりと回れ右し、部屋の窓を全開にする。心地よい風が、髪の隙間を通り抜けていく。
私は肺いっぱいに空気を吸って、こう叫んだ。
「あ~楽しかった! ですわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます