第7話

「もしかしたら……先輩?」


 ムニャムニャと意味不明な寝言。


 翌朝ヒマワリちゃんは、痛む二日酔いの頭を押さえながら、帰っていきました。


 それからもカレンダーのダイエットは進み、遂にペラペラになったカレンダーには、あの赤い服と白いヒゲのオジサンのお姿。


 イベントには事欠かない季節到来。

 恋人たちには、温かいのに。


 おひとり様には、

 風が、ピューピューと胸の隙間を吹き抜ける寒い寒い季節到来。

 

 今年の神さまのお誕生日。

 知らないオジサンだけど、

 私とヒマワリちゃんでお祝い。


 ゴメンネ!

 信仰もないのに。


 田舎のこの街には、去年のあの店しかなく、ヒマワリちゃんを待つ間に、楽しかったトナカイくんとのひと時を思い出していると、


「先輩!」


 おや?

 ヒマワリちゃんにしては、低い声。


 振り返ると、そこにはトナカイくんの姿。

 スマホには、ヒマワリちゃんからメール。


『私、都合が悪くなりましたので、トナカイさんにピンチヒッターをお願いしました』


 私が秘かに鹿野くんのことをトナカイくんと呼んでいる事を何故知っているの?

 ヒマワリちゃんに何故バレたの?


 驚いて閉じない私の口と、モジモジのトナカイ……くん。

 

「先輩、ヒマワリちゃんに背中を押されて告白に来ました」


 あら、たいへん!


「お仕事、失敗でもしたの?」


 トナカイくん、今でも時々……。

 教育係としては、心配つきません。

 

「そうではなくて、恋の告白です」


「恋?」


 周囲を見回しました。

 確かに、可愛い店員さんがビールを運んでいます。

 あの娘が、トナカイくんの心にお住いの方なのかしら?


「あの娘?」


 肩を落とした、トナカイくん。

 再び顔を上げると、


「先輩にです」


 私?


 トナカイくん、仕事の失敗が重なり、どうかしたのかしら。

 私は、教育係失格ね。


「僕は、去年のクリスマスのあの夜から先輩に心を奪われて、それから苦しく切ない恋の時間を過ごしているのです」


 奪った?

 私が?

 奪われたのではなく?


 私って、仕事は出来る人だけど、

 泥棒のセンスもあったのね。


 あれ?

 これって……。


 しかし、

 いやいや、

 私は、仕事出来る女子。

 ここで冷静に、状況分析を。

 

「じゃあ、お互いさまね。私の心もあの日、あなたに奪われたわ」


 トナカイくん、真っ赤なホッペ。

 もちろんお鼻も。


 しかし……。


 それでも、私はトナカイくんの教育係。

 ここで、教育的指導をひと言。


「早く、言ってよ」


 テーブルの下。

 今夜だけ泣き虫の私と今夜も赤いお鼻の彼。

 手と手が触れ合う。


 見知らぬオジサンの誕生日は、とても冷静ではいられません。


 それからの、私の人生。

 幸せの道を照らすのは、トナカイくんの赤いお鼻になりました。


 クリスマスには、

 見知らぬオジサンから皆さんへ、とっても素敵なプレゼント。


 あなたにも、きっと……。



   

    皆さん、メリークリスマスです。







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トナカイくん @ramia294

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