第6話

 街を急ぎ足で通り過ぎる風が少し冷たくなって、冬の訪れまでもう少し。


 秋は穏やかに晴れ、通勤途中の歩道。

 街路樹を赤い宝石に変える涼しい風が、一年ぶりに、こんにちは~!


 孤独が似合うこの季節。

 私の季節の到来。

 と、思いきや、何故か今年は、どこでも何時でもヒマワリちゃんと一緒。


 今夜も二人で女子会。

 涙ぐむヒマワリちゃん。

 あなたは、泣き上戸?

 でも、あなた。

 まだお酒、飲んでませんよね。


 私は、既にヨッパライ……。


「センパ〜イ。私ってどうしてこんなにモテないの?そんなに魅力ないですか?」


 あらら。

 意外な方から、意外なお言葉。

 私には、モテる女子=ヒマワリちゃんとしか映ってませんでしたが……。


 もしや、トナカイくんと上手くいっていない?


「トナカイくんじゃ無かった、鹿野くんと上手くいっていないの?」


 こういう時は、直球勝負。

 変に気を使った訊き方はしません。

 私、仕事出来る人なので。


「あの夏の……」


 まるで遠い景色をみる目をしているヒマワリちゃんが話しました。


「何度デートに誘ってみても断わられるから、あの夏の日のバーベキューの後、鹿野先輩に告白しました。でも彼は……」


 ヒマワリちゃん、ここでグィッと生中を飲み干しました。


「好きな人がいるからって、断られました。心の中に決めた女性がいるって、その人以外とは、何処にもいかないって……え〜ん!」


 泣いていてもなんと可愛らしい。

 お店中の男子の視線を独り占め。

 さすがのヒマワリちゃん。


「ほらほら、真千子ちゃん。泣いていないで、飲んだ飲んだ。理不尽と書いて恋と読むのよ」


 グビリとグラス、いや、ジョッキを空けるヒマワリちゃん。

 私も既に出来上がり、目が虚ろ。


「ところで、トナカイくんというのは、何ですか?」


「去年のクリスマスにね。実は……」


 酔った私。

 口の軽い私。

 ヒマワリちゃんに、話した事も覚えていない私。

 去年の話を終えると、ヒマワリちゃんまたまた、泣き出しました。


 でも、泣きたいのはヒマワリちゃんだけでなく、私も。

 心に決めた女性。

 あんなに素敵なトナカイくんに、決まった女性が居ないはずもなく、少し失恋気分。


 私の想いは、


 梅雨空の織姫?

 たいてい雨で星が見えないわ。

 きっと恋する相手の姿も見つけられないわよね。


 それとも、シャボン玉に憧れるソーダ水?

 空を飛ぶことなく、はじけてしまう泡。

 きっと、トナカイくんには届かない私の想い。

 

 どうしても、届かない恋心。


 遠ざかる、あのクリスマスの一夜。

 楽しかったあの一夜。

 カレンダーでは、会った事もないオジサンのお誕生日が迫って来ているのにネ。


 その日、ヒマワリちゃんは、わたしの部屋で眠りました。

 悲しい夢を見ているのか、寝顔に涙がひとすじ流れていました。


 涙の寝顔も可愛いヒマワリちゃんなのでした。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る