第39話 来るドラゴン
冒険者のみんなと馬車で進むことしばらく、僕たちはムッツー近郊の平原にたどり着く。
「ここにドラゴンが!」
「タスク様はしゃぎすぎ」
僕が荷車から身を乗り出したら、スイートちゃんに咎められてしまった。
「あ、ごめん」
「うふふ、タスクさんって見た目に寄らず子供っぽいところがありますのね」
「ランディさんまでやめてってば~!」
ランディさんにからかわれて長い鼻を振り回す僕に、みんながどっと笑う。
ふと僕は何か焦げ臭い匂いを感じ取った。
「あっちから焦げ臭い匂いがするよ」
「もしかしたらランドラゴンかも」
「急ぎますわよ」
僕が差し示した方向に馬車を走らせると、そこにいたのは二足の恐竜をどこか思わせるフォルムのドラゴン。
「ランドラゴンですわ!」
「あれがこの世界のドラゴン……!」
この世界で初めて目にするドラゴンの姿を、僕は食い入るように見る。
なるほど、発達した二本の脚は確かに速く走れそうだ。
頭でっかちで鼻の上には一本の鋭い角が生えている。
そんなランドラゴンを見るなり、冒険者たちが馬車から一斉に飛び出した。
「獲物だ!」
「ヒャッハー!」
「稼ぎ時だぜ!!」
あの~、なんか世紀末のチンピラみたいな声出してたのがいたような……。
だけどそんな冒険者たちも、ランドラゴン一頭に対して二、三人で慎重に相手している。
ああ見えて堅実なんだな、さすが現役の冒険者だ。
「タスク様、こっちにもランドラゴンが」
スイートちゃんの呼び掛け通り、冒険者たちをかい潜ったランドラゴン二、三頭がこっちに向かってくる。
「ギヤアオオオオオオオ!!」
「僕たちも行こう!」
「うん」
僕とスイートちゃんも荷車から飛び降りると、その瞬間にはランドラゴンがすぐそばまで駆けつけていた。
「風よ切り裂け、疾風の刃、ウインドカッター」
スイートちゃんが呪文を唱えるなり、放たれた風の刃がランドラゴンの首筋を的確に切り裂く。
「ギャッ!?」
「ナイスだよスイートちゃん! よーし、僕も!」
「ギヤアオオオオオオオ!!」
もう一頭のランドラゴンの噛みつきを避けつつ、僕は早速呪文を唱えてみた。
「光よ反り立て、光輝の剣、はなソード!」
すると僕の鼻先から宇宙戦争映画の白兵武器よろしく、光る剣が伸びる。
「思った通りにできた! そらあああ!!」
光の剣を鼻で振るうと、ランドラゴンの胴を袈裟斬りにした。
「へへっ、どんなもんだい!」
「タスクさん、喜ぶのは早いですわ!」
得意になってた僕をたしなめるランディさんの言う通り、ランドラゴンはまだたくさんいる。
油断大敵だね、気を付けよう。
「それじゃあ僕が前に出る!」
「お願いっ」
スイートちゃんにお願いされたところで、僕はランドラゴンの群れに向かって突撃した。
「ギヤオオオオオ!!」
すると今度はランドラゴンが一斉に口から火を吹き始める。
「おわっ!? ――光よ守れ、光魔の壁、ぞうさんシールド!」
詠唱を忘れず僕が唱えると、目の前に光の壁が現れて火を防いでくれた。
「ぐ……っ!」
だけど一斉に吹かれる火炎を受け止め続けるのは堪えるぞう。
そう思っていたら後方からランディさんが大がかりな魔法を唱えてくれた。
「火よ降り立て、火炎の隕石、ファイヤーメテオ!」
すると頭上から巨大な火の玉が落ちてきて、圧倒的な火力でランドラゴンたちをまとめて焼き払う。
ちなみに僕はギリギリのところで射程から外れてたので、巻き込まれずに済んだ。
「ナイスだよランディさん!」
「タスクさんが時間を稼いでくれたおかげですわ!」
どうやら僕も役に立ててるみたいで何よりだよ。
そうしてランドラゴンを順調に討伐していた時だった、僕は何かとてつもなく重い音を全身で捉える。
これは何かが羽ばたく音? だけどこれって……!
「みんな気を付けて! 何か来る!!」
僕が大声で呼び掛けた直後、上空からとてつもない勢いの火炎放射が注がれた。
「ギヤアアアアアアア!?」
「おあああああああ!!」
その火炎は最前線に出ていたランドラゴンと冒険者たちをまとめて焼いてしまう。
「一体何なんですの!?」
「ランディさんにタスク様、上っ」
スイートちゃんの声掛けで上空を見上げた僕は、思わず絶句してしまった。
空を覆い隠さんばかりに大きく広げられた、黒い皮膜の翼。
重厚な鱗に包まれた巨体は赤く光沢を放ち、角張った頭部と鋭い眼光に思わず気圧されてしまう。
「レッドドラゴン……それもかなりの大物ですわ!」
僕たちを上空から見下ろしていたのは、絵に描いたような真っ赤で巨大なドラゴンだったんだ。
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顔が象になってしまった僕は、異世界で可愛い三姉妹と共に暮らす。 月光壁虎 @geckogecko
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