骨董店想い

代永 並木

呪いもまた想いの一つ

呪いの本と呼ばれている本が実家にあるらしい

らしいと言うのは見た事がないからだ

爺ちゃんは決して触れてはならないと家族に口酸っぱく言っていたが相当徹底していたのか爺ちゃん以外にその本が何処にあるか知る人は誰も居なかった

そして1年前、爺ちゃんが病気で亡くなった

看取った母の話では死の直前でも触れてはならないと言っていたらしい

一人暮らしをしていた俺は爺ちゃんの遺品整理の為に実家へ帰ってきていた


「最後はここか……崩れねぇかこれ?」

「木造でだいぶ古い小屋だけど……大丈夫だ優希! 意外とこう言う小屋は壊れない!」


親父はサムズアップする


「いや、半年前に実家の床踏み抜いてた人が言っても説得力ねぇのよ」


昔ながらの木造建築、実家もだいぶ古く歩けば床から悲痛な叫びが聞こえ事ある事に家中がギシギシ音を立てる

親父は半年前床板を勢いよく踏み抜いて足を怪我していた

今にも崩れそうな家だが何故か両親は引っ越そうとはしなかった。爺ちゃんもこの家から離れることはなかった


「そういや、呪いの本見つけたのか?」

「札が貼ってあって鎖で縛り付けられてる箱に入ってるとはお父さんから聞いたけど見つかってない。本当にあるのかも分からないんだよな」

「あるならこの小屋か。てか呪いの本見つけたらどうするんだ? 触れちゃダメなんだろ?」

「どうやら爺ちゃんの知人に渡して欲しいらしい」

「知人? あぁ、爺ちゃん交友関係広いしその手の人間とも関わってるのか」


その手の人間、つまりオカルト系の関係者

俺自身は呪いなんてものは信じていない

呪いと言われるものは再現性が無い、科学的に証明ができないただの偶然に過ぎない

だが爺ちゃんのいう呪いの本に関しては何かあるのだろう

真面目で職人気質、オカルトなんて信じないような人物であった爺ちゃんがたった一つその本だけは呪いの本だと言い続けていた


「よし入るぞ」


親父がボロボロの扉を開こうと取っ手に手をかけて開けようと力を入れるとバキッと音を立てて取っ手の部分が取れ扉に亀裂が入った


「あれま」

「見た目通りボロボロだったんだなぁ」


親父は壊れた扉を外に置いて中を見る

中はホコリだらけで足を踏み入れればホコリは空中に飛び散る

床はギシギシと不安になるようや音を立てる

俺達はマスクをして中に入り中にある物を全部外に運び出す


「ホコリまみれだけど状態良さそうなの多いな」

「お父さんは物を大事にしてたからね。相当古いのあるし売れば高値付きそう」

「……これで最後か」


最後の物を外に運び出す


「本無かったな」

「何処にあるんだろ……家も小屋も探したけど……」

「屋根裏部屋は?」

「確認したけど無かった。家は殆ど見たからこの小屋くらいだと思ってたんだけど……埋めたとか?」


会話しながらトラックに詰め込んでいく


「ここら敷地内は一度掘り返してるしねぇだろ。もう少し探してみるわ」

「OK、それじゃ僕は遺品運んでくるからさらばだー」


親父はそう言ってトラックに乗り走り去っていく

俺は一人で再び小屋に入る

物が無くなり先程と比べてかなり広々としている

(こんな広かったのか……箱を隠すとしたら……)

床を強く踏む

音を立てる

棚などは一切ない、そんな小屋の中で隠せるとしたら床下、床を重点的に見て探す


「これは……」


一箇所だけ怪しい床板があった

掠れて見えないが字が書いてあり数本多く釘が打ち込まれている

家から釘抜きを持ってきて1本1本外していく

そして床板を剥がす


「あった」


鎖で縛り付けられ札の付けられている箱を見つけた

鎖は錆び付いている

ゆっくりと箱を持つ

札に書いてある文字は掠れて読めない

中が気になるが鎖は錆び付いていてボロボロで外したらもう縛る事が難しいだろう


「まぁ呪いの本なんてある訳ねぇしなんも入ってねぇだろ。爺ちゃんの黒歴史でもしまってんじゃねぇか」


箱を開けずに持って家に戻る

開けたのがバレたら面倒事になると思っての行動だ


「あら、その箱」

「多分これが呪いの本の入った箱だ」

「丁度いいしこの店に行ってくれない?」


地図の書かれた紙を渡される


「何か買う物でもあるのか? ……骨董店想い?」

「お父さんの知人の店」

「あぁ、成程分かった。暇だし」


地図を頼りに店に向かう

そう遠くはなくなんなら昔よく通っていた所に店を構えていた

見た目は普通の店、特に変哲も無い

(こんな店あったか?)

この道は昔何度も通っているがこの店には覚えがない

扉を開けて中に入る


「誰かいませんかー」


店員が居ないか探すが見つからない

多くの骨董品が並べられている、中には美術的価値のありそうな絵画などが並んでいた

(一杯あるな)


「店空いてるのに留守なのか」

「いますよ」


背後に人が立っていた


「うぉっ」


驚いて後退る

着物を着た30代くらいの男性のようだ

顔の造形は整っていて物腰柔らかそうな人物

(うっわイケメン)


「驚かせてすみません。ようこそ想いへ、何かお探しの物でも?」

「あっ、いえ、爺ちゃんの遺品でこれをこの店の人に渡してくれって」


箱を渡す


「これはこれは……お爺さんのお名前は?」

「加納厳十郎です」

「おや、厳十郎様ですか」

「それってなんなんですか?」

「聞いてないのですか?」

「呪いの本が入ってるとだけ聞いてますけど詳しい事はサッパリで」

「この箱の中に入っているのは確かに呪いの本です。触れれば呪われるそう言った類の物です」

「呪いとか本当にあるんですか?」

「呪いと言ってしまうとオカルトじみていますが人の想いと言い換えれば納得しやすいのでは?」

「人の想い?」


男性は箱を机に置いて鎖を解く

(開けていいのかよ!?)


「人の想いと言うのは他人に影響を強く与える物です。人の応援で力を貰う、感情の籠った言葉、歌を聞いて感動し涙を流すなど……呪いも似たような物です。そしてそう言った想いの籠った物を集めるのが私達の役目」

「そ、そうなんですね」

「はい、呪いもまた人の想いなのです」


男性が箱の蓋を開ける

突然寒さを感じる

今の四季は夏、寒くなどなくむしろ暑い日々が続いている

部屋の温度が急に数度下がったように感じる

(寒っ何クーラーでも効き始めたか?)

部屋を見渡すがエアコンなどと言った機器は見つからない

男性はゆっくりと本に触れて取り出す

(触れると呪われるんじゃねぇの!?)


「この本はとある人物が呪詛を書き記した物です。筆だけで無く自らの血でも書かれていて呪いが相当込められています」


ホコリを払い大事そうに本を持ち語る


「自分の血……」


思わず俺は引く

血で呪詛を書くなんて常人じゃとてもじゃないがやらないだろう


「はい、その人物の死後、特定の人々を呪う呪物となりました」

「その人物ってのは爺ちゃんの関係者とか先祖なんですか?」

「はい、厳十郎様の知人が作りました。そして呪う対象は厳十郎様とその御家族、その血が絶えるまでこの呪いは終わりません」

「そうなんですね」

「これは……」


男性は机の中を弄り始める

そして一塊の札を取り出す


「100万で買い取ります」

「えっ! いや、自分は知人に渡してくれって言われただけで」

「このレベルの呪いは珍しいですしタダで貰う訳には行きませんから」


ただ渡すつもりで来ていたので得しかない

呪いの値段なんて物は分からないが100万は相当の金額だ

男性に説得されて100万円を受け取る


「交渉成立です」


男性は笑顔でそう言うとすぐに表情が切り替わる


「骨董品に興味はありませんか!」

「骨董品にはそんなに興味は……」

「色々とありますよこれとか」


古びた人形を取り出す


「見た事も無い」

「この人形は背中にあるボタンを押すと……」


男性は背中にあるボタンを押す

すると人形の目玉が飛び出す


「こうやって目玉が飛び出るんです!」

「その仕組み子供泣くぞ……」

「その通りですぐに製造が停止して現存する物は数体と言われています」


(高そうだな)

値段を聞くと笑顔で答える


「50万です」

「高っ!」

「希少性を考えれば妥当だと思うんですが……」

「50万出すのは相当な物好きくらいだと思いますが……」

「そうですか……まぁ何か気になった物があったら是非」


そう言って男性はカウンターの方に向かう

骨董品の価値はよく分からないが何か一つくらい買っていこうと考えて骨董品を見て回る

手に入るとは思っていなかった100万を手に入れたのだから少し高い買い物をしても100万を超えなければ損にはならない

壺や絵画、コップやフォークなど多くの物が並んでいる

全て共通点は古びていること、綺麗に保たれてはいるが所々劣化が見られる

(特に欲しい物は……これは)

ふと目に付いた骨董品に近づく

古びた懐中時計、極一般的な形をしていて特に模様も宝石等が付いてる訳でも無い

かなりの年代物のように思えるが未だに正確な時間を刻んでいる


「これは……」

「それに目を付けるとは中々」


また背後から声がする

(気配が一切ない!ってあれ?)

振り返るとそこに居たのは先程の男性ではなく少女であった

先程の男性と血の繋がりを感じるような顔立ちだが物腰柔らかそうな男性と比べて凛としている少女


「その懐中時計は2年前に父が買い取った物だ」

「ここにあるのは全てお父さんが?」

「そうだよ父が選んで買い取った物、そして全て誰かが使っていた。誰かの思い入れのある骨董品」

「思い入れのあるか」

「ちなみにそれは20万、さっきのよく分からない人形の半分以下」

「安くはないが……なら買おう」

「毎度あり」


俺はその懐中時計を買う為男性のいるカウンターに向かう

特に使う訳では無いが家に飾っておこうと思った


「これください」

「これは……」


一瞬男性が少女の方を見た


「20万です」

「はい」


先程貰った100万から20万を取り出して渡す

男性は数を数えて間違いがないか確認する


「20万ピッタリですね」

「君から見ればただの古びた懐中時計だけど大事にして欲しい」

「物は大事にしろって爺ちゃんによく言われてたので大事にします」

「流石は厳十郎様」


懐中時計をポケットに入れて店を出る

後ろから声がする

それから懐中時計は半年程度で時間を刻まなくなった

それでも捨てるのは勿体無いと感じ家に飾っている


想いは人から人へ、人から物へと紡がれる

物は人と共に長い歴史を刻んでいる

その役目を終えるまで、いや終えても込められた想いは無くならない


「骨董店想いは想いの籠った品を扱っております。死者の想い、生者の想い、関係無く想いが宿るのなら我々は買い取り売ります。物と人のご縁を結びます。想いの籠った物があるなら骨董品に興味があるなら当店へ是非足をお運びください」

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骨董店想い 代永 並木 @yonanami

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