第32話 挑戦

 一つの決着がついた。


 道に沿って店や家が並ぶ、大通りの中心。

 幾度となく交錯こうさくする純白の刀と炎の角、水の鉤爪。

 その結末。


 相手の体を斬り裂いたのは、白に煌めく刃だった。


「くそっ、たれが…………!」


 口の端から血を垂らし、男が──ガイアン・アルクヴァースが倒れ伏した。彼の手から【支配ドミナント】である角と鉤爪がこぼれ落ちる。


「ガイアン・アルクヴァース。……やはり、あなたは強いな」


 紙一重、ウォルフ・テインの辛勝だった。左の脇腹に大きな切創。右腕の袖は焼け落ち露出した肌には火傷跡。その他細かな傷が十数箇所ほど。何かの間違いがあれば、倒れていたのはこちらの方だったろう。本来の【支配ドミナント】である『風飾かぜかざり』は、こちらが奪っているにも関わらず、だ。


「……………」


 わかっていたが、この男は危険だ。

 深手を負ったと思い一度目は止めをささなかったが二度も見逃す余裕などない。

 ウォルフは刀を倒れたガイアンへ向けると、逆手で柄を握り直し、そして、真っ直ぐ突き下ろした。


 鋭く尖った切っ先が、ガイアンの背中へと迫る。

 ──だが、その刃が、ガイアンの背中を貫くことはなかった。

 阻まれたのだ。倒れ伏したガイアンの側、何もない地面から突然突き上がった氷塊に純白の切っ先が止められた。


「──⁉︎」


 何事かと思い、視線を上げた瞬間だった。

 靴裏がウォルフの視界を埋めていた。


「っ‼︎」


 何者かの蹴り。


 自らへの攻撃だと瞬時に判断したウォルフは咄嗟に顔と迫り来る足の間に腕を滑り込ませた。強烈な衝撃が、腕を駆け巡る。


 ウォルフはその衝撃に逆らわず、大きく後方へ飛び退き距離をとった。

 痺れが残る腕を下げ、前方の視界を確保する。

 そこにいたのは、黒い髪の少年だった。


 幼い面影を残した顔には切り傷。右手や腕、腹の辺りなどには包帯を巻きつけ、ボロボロの衣服からはところどころ血がにじみ出ている。


 明らかに万全の状態ではない。


 だが、それでも少年の紫の目には強い意志が宿っていた。

 ガイアンをかばうように彼の前に立ち、右手に短刀を、左手には氷の角を握りしめている少年は、真っ直ぐこちらを見据えて言った。


「俺の名前はナユタ・フォッグフォルテ」


 そして。


「ウォルフさん、あなたに挑む者です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る