第26話 タダ乗り

「まあ、運が良かったよ。ナユタたちが落ちた後、近辺を捜索していたら、ガイアンと合流ができたんだ。あの状況で私だけ合流してもできることは少なかったさ」


 俺たちは、おやっさんを先頭に『陸海りっかい』を歩く。

 砂地に刻む足跡は3つから4つへ。


「君ら2人を本格的に探し始めようとしたら、巨大な氷柱が突然現れたんだ。いい目印だったよ、ナユタ」


「あはは……」


 確かにあの最大出力で出した氷の柱は、上空に逃げるためではない。

 見晴らしのいい平地であんなものが現れたら誰だって目につく。


 だから、近場にいた踏破者ウォーカーに助力を貰う狙いで出したものだったが、まさか師匠たちが駆けつけてくれるとは思っていなかった。


「でも、よくドラキュアスの臭い袋なんて用意してましたね」


「まだ複数隠し持ってるよ。君たちが落ちて一人になったからね。現地調達をして襲われた時のアイテムは複数用意したさ」


「す、すげぇ……」


 さすが師匠。冷静で的確な判断をしている。


「『地平を喰らう者オリゾン・イーター』の影響で高度にいた空遊魚くうゆうぎょたちも下に降りてきている。全部が全部じゃないんだろうけど、注意をしなきゃならないね」


「……そうですね」


 ここは『未踏領域みとうりょういき』危険は尽きない。

 だが、今の俺たちには頼りになる味方がいる。


「ともかく、おやっさんが無事で良かったです。怪我は大丈夫なんですか?」


「あんくらいでくたばるかよ。怪我も致命傷じゃねぇ」


 おやっさんはなんともなさそうに言ってるが、衣服には血がびっしりついている。ウォルフに付けられた傷は決して平気なものではないだろう。

 しかし、先ほどダンクルタイラントを撃破した時の動きは、怪我を感じさせないさすが『番人ガーディアン』という熟練の動きだった。


「応急処置はしてあるが、それでも傷は深いんだ。無理だけはするなよ、ガイアン」


「んなこたぁわかってるよ」


 師匠の忠告に対しぶっきらぼうに返事をするおやっさん。

 やっぱり無事というわけではないらしい。


「そういえば、さっき使っていたのは新しい【支配ドミナント】ですか?」


「ああ、そんなところだ」


「『風飾かぜかざり』を奪われたのに、一体どうやって……? あの角とか鉤爪って、魔物を倒さないと手に入りませんよね。それもかなり強力なヤツ」


「そんなもん素手に決まってんだろ」


「えぇ……」


 さらっととんでもないことを抜かしたぞ、このおやっさん。

 深手を負い、【支配ドミナント】も本来の武器を失ったにも関わらず、この人はその状態で『未踏領域みとうりょういき』にいる魔物たちに勝利してきたらしい。わかってはいたがとんでもない人だ。


「……うし、着いたな」


「へ?」


 ふと、おやっさんは足を止めた。彼の言葉を信じるなら、目的地に着いたということになるが、特に目を引く物もない。むしろ、珊瑚や岩場もなく砂地だけが広がる妙に開けた場所だった。


「おい待て、ガイアン一体何を狙っている⁉︎」


「悪りぃなテルル、お前の考えはしっかり聞いてたし、納得もしてる」


「なら──」


「だがな、あいつは俺の『風飾あいぼう』を奪ったんだよ。俺は奴を1分1秒たりとも許すことができねぇ。今すぐ俺の手で裁きてぇ」


「ガイアン……!」


「てなわけで、俺は今から単独でウォルフの野郎に殴り込みをかける。オメェらは危ないから離れてろ」


 いきなりとんでもないことをおやっさんが言い始めた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいおやっさん! 殴り込むって言ったって、ウォルフは浮いてるフットレストにいるんです。どうやって行くつもりですか⁉︎」


「はっ! そこは安心しろよナユタ」


 不敵な笑みを浮かべながら、おやっさんは地中を指差した。


「あそこに行くまでに、丁度いいモンがあるんだよ。タダ乗りできる便利なやつがな」

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