第23話 陸海地下
「──タ──。─ナ──タさ──」
「…………ん、うぅ…………」
「ナユタさん!」
「………………えあ?」
誰かの呼ぶ声が、俺の意識を呼び覚まし、俺は目を覚ました。
少しだけぼやけた視界の先で真っ先に目に入ったのは、心配そうに見つめる淡い橙色の少女、ルアさんの顔だった。
「気がついたんですね、よかった……」
「ここは……」
ルアさんの安心しきった表情を見て、俺は体を起こして辺りを見回した。
薄暗い洞窟のような場所だった。高い岩の天井に覆われており、地面は地上にいた時よりきめ細やかな砂が敷き詰められていた。俺のすぐ真上には地上まで続く大穴が空いており、柔らかい陽光をここまで届かせている。
「多分、ここは『
ルアさんが指で指し示したのは、やはり俺の真上にある大穴だ。かなり高い位置にあるが、俺たちはよく無事だったな……。
「落下した時に、一緒に落ちてくれたサンドハイドが下敷きになってくれたみたいです」
下を見ると確かに砂とは違う質感の皮膚が見えた。触ってみるとブニブニとした感触が伝わってくる。どうやら、俺たちの命を救ってくれたのはサンドハイドらしい。
そのことに感謝しつつ、俺はもう一度上を見上げた。
「あの穴から戻るのは難しそうだ」
氷馬の角で氷の柱を出現させて登っていけばいいとも思ったが、高さが尋常じゃない。 俺だけならまだ無茶はできるが、今はルアさんもいる。2人が無事に登り切れる保証もないだろう。
「ルアさん、体はなんともないですか?」
「はい、一応怪我はないみたいです」
一応俺もルアさんの様子を伺ったが、彼女の言う通り、外見に目立った傷はない。
「そうですか、よかった」
俺自身も、痛みを感じる箇所はない。ひとまず2人とも無事そうだ。
そのことがわかった俺は立ち上がった。
「とりあえず、辺りを見て回りましょう。ここがどういう場所か確認しておいて損はないと思います」
「そ、そうですね」
ルアさんも立ち上がりながら俺の意見に同意を示してくれた。
細心の注意を払うことになるが、何もわからないでいるよりかはいいだろう。
そう思い一歩を踏み出した、その直後。
横合いから1匹の
「『サファイアフィッシュ』……!」
俺はそれを見つけたと同時に、足早に追いかけた。
「ナ、ナユタさん、いきなりどうしたんですか⁉︎」
「だって、サファイアフィッシュですよ! この『
サファイアフィッシュが泳いで行った先、丁度岩の柱によって影となっている場所に俺たちはたどり着いた。そこに広がっていたのは幻想的な景色だった。
「わあ…………!」
ルアさんが、思わずといった調子で目を輝かせた。無理もないだろう。俺もあまりの美しさに一瞬息を呑んでしまった。
俺たちの目の前に広がっていた景色、それは様々な青が彩る地底湖だった。
目を引くのは、水中、地面、天井とあらゆる場所に散りばめられた水晶だろう。
微かに光る水晶が、点在している場所の周辺を青く輝かせ、幻想的な景色を作り出していた。水中にある水晶も同様で、透き通った水を青くライトアップしている。そして、水晶が作り出した青の舞台を優雅に舞うのはサファイアフィッシュだ。水晶の周りに集まるもの、水面をつつくもの、俺たちの周りを物珍しそうに泳ぐものなど様々だ。
「……サファイアフィッシュは群れで行動する空遊魚なんです。その群れが作り出す光景は『回る
ルアさんに説明しながら、俺はその場に座り込んだ。
「どうしたんですか? や、やっぱりどこか痛かったとか⁉︎」
「ん? ああ、いえ、違いますよ」
慌ただしく心配するルアさんに、俺は笑いかけた。
「ここでしばらく師匠を待ってみようと思っただけです」
「……待つ?」
「はい。闇雲に歩き回ったって出口があるとは限りません。それだったら、師匠が落ちている場所を知っているのでそこに留まった方がいいかなって思ったんです」
俺たちが今いる場所は、当然のことながら地形などを把握している場所ではない。だから下手に動いて迷ってしまうより、動かずに師匠の救出を待った方が得策だと俺は考えた。
それを抜きにしたって、『
「だから、ルアさんも座ってください」
「う、うん……」
どうやら、ルアさんも納得してくれたようで、俺の隣にゆっくりと座ってくれた。それを見て、俺はおもむろに前を向いた。しばらくの間はゆっくりしていても、バチは当たらないだろうと俺は思った。
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