第18話 罠
『────』
白馬の魔物が
「────っ!」
当然俺も、ただ黙って見ている訳ではなかった。ヤツが動き出すと同時に後方へと振り返り、全力で駆け出し、開いている距離を保とうとする。
──が、そもそもこちらは人で相手は馬に似た四足の魔物だ。長距離を長く、速く走ることを得意としているのは間違いなく白馬の方だ。次第に開いていた距離も縮まってきてしまう。
「くっ──」
焦りを覚えながら、行く先にある大きな亀裂を飛び越え、しばらく進んだ時だった。
突然、俺の目の前に氷の柱が出現した。
「なっ⁉︎」
驚いて足を止めた俺の左右にさらに連続して発生する2本の柱。
逃げ道を断たれた。
そう理解した時にはすでに白馬は俺が飛び越えた大きな亀裂を
『────』
──だけど。
そう、だけど。
この最悪の状況こそ、俺が作り出したいものだった。
『────!』
「まだだっ!」
止めの一撃を放とうと、白馬の透き通る角が光を帯びたその瞬間、俺は師匠からもらった短刀を白馬に向けて
追い詰められた獲物の最後の抵抗だと捉えたのだろう、一角氷馬は、まるで嘲笑うかのように自らの目の前に氷の壁を形成し、飛んでくる短刀を防ごうとする。ルアさんの時と同様、俺の放った短刀は無常にも出現した壁へと突き刺さるだけに終わった。
──と、同時の出来事だった。
『⁉︎』
氷の白馬からしてみれば、完全に意識の外の出来事だったろう、爆発的に噴き出た水をもろにくらってしまう。熱気を裂くような轟音が響く中に混じって、白馬の悲鳴にも似た叫声が聞こえてくる。
(かかった!)
その悲鳴を聞いて、俺はルアさんを下ろして前へと駆け出した。
走りながら思い起こすのは、ここにくる前にした師匠とのやりとりだ。
「
「はい」
「熱地は
「利用、ですか?」
「ナユタ、熱地に着いたら、できるだけ大きく深く割れている亀裂を探すんだ。そして、そこに
師匠の問いに、俺は思考を巡らすが答えは出ない。
「すみません、わかりません!」
「素直でよろしい。だけど、『
「はい!」
「答えは亀裂から熱水がとんでもない勢いで噴き上がる。熱を持った大地が、
つまり。
「君は、即席の
崩そうと思えばすんなり崩せる。
師匠の教えを今、身をもって実感していた。
白馬の魔物に追われ、大きな亀裂を飛び越えた際、俺は密かに水泡樹の枝を亀裂に放り込んでいた。あらかじめ布石を打ち、そこに誘導するという危険な賭けではあったが、作戦は成功した。
その確信を以って、俺は目の前にある氷の壁を突き刺さっている短刀を押し込むことで破壊する。開かれた視界の先には、熱水の直撃を浴びて、苦しそうに
その姿を見て、一歩、二歩とさらに強く地を蹴って、白馬の首元へと入り込んだ。そして、渾身の力を込めて、手に持った短刀を下から上へと振り上げる。
果たして、その斬撃は、氷の白馬の太い首へと入り込み、掻き斬った。
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