第16話 一角氷馬
それは、『
白く美しい毛並みを持つ、体調は3mはあろうかという馬に似た生物だ。ある一点を覗けば、人の領域に生息する白馬と違いはほとんどない。
しかし、その一点が白馬を魔物たらしめる象徴となっている。
それは、額から伸びる一本の角。
長さは約30cmにも及ぶ氷でできた角が白馬をより幻想的な生物であることを際立たせている。
だからこそ、その魔物の名は一角氷馬となった。
白い毛に
そんな美しさすら覚える馬に似た生物。
だけど、どれだけ美しかろうと、
『
俺は、
『────』
白馬の魔物が短く息を吐く。すると俺の周りに冷たい空気が迸る。
冷気を感じ取り、俺は咄嗟に速度を上げて纏わりつく空気を振り払えば、俺の後方に巨大な氷柱が立つ。続けて連続で。
逃げる俺に対し、追い縋るように次々と立つ氷の柱を、速度の緩急と蛇行の軌道で何とか躱していく。そしてそのまま、俺は師匠とルアさんがいる場所まで駆けていった。
「ごめんなさい!」
「わ──」「きゃ⁉︎」
俺は走る勢いそのままに、師匠を右手で脇に抱え、左手でルアさんの片腕を引いた。
後方を見れば、乱立する氷の柱と、その隙間を
「……なるほど、
師匠はチラリと後ろを振り返っただけで、魔物の正体を看破する。
「ええ、そうです! 『
「だね」
「フレアイービルたちはあの白馬に追われていたんだ! だから
「ああ、通常ならね。でも、今は違う」
「違う?」
俺の疑問に対し、師匠は何も答えず、ただ人差し指を空へと向ける。それを見た俺は、師匠が言いたいことを悟ることができた。今、『
「『
「うん、その通り。この異常だらけの『
言われてみればその通りだ。つまりフレアイービルや
「覚えておくといい、ナユタ。『
「そうです──ねっ⁉︎」
と、師の教えを受けた俺の語尾が跳ねたのは、力が入ったせいだ。後方から迫る氷馬からの攻撃。ヤツが発生させる氷の柱を回避する際に全身に力を込め、速度を強めるために。
先ほどの師匠とのやりとりの間でも、絶えず氷柱による攻撃は続いている。そして最悪なことに、俺たちと白馬の距離が徐々に縮まってきている。
「このままだと本当にまずい……。追いつかれます!」
「だね。状況は最悪と言っていい」
「っていうか師匠はよくそんな冷静でいられますね⁉︎」
「それは君が焦っているからだよ」
「え?」
「役割分担をしているだけさ。君が体力を使って逃げてくれるのなら、私は冷静に頭を使って逃げ切れる策を導き出す」
師匠は、俺に抱えられたままという非常にシュールな格好をしているが、俺を見る目は自信に満ちていた。
「だから存分に焦って逃げるといい、ナユタ。その必死に逃げた時間の中で必ず私が逃げ切る道を探し出すから」
やだ……、師匠かっこいい……! さすが『回る
「カッコ良すぎます師匠。この異変が解決したら、師匠が書いた本の感想を50枚に纏めて提出しますね!」
「気色の悪い褒め方で私の心を乱すんじゃないよ! 作戦を考えるって言ったばっかりだろうがっ‼︎」
何はともあれ、これで希望は見えた。あとは師匠のことを信じて、俺は全力で逃げに徹するだけだ。
──と、思って更に加速しようとした時だった。
不意に、左手で引き連れていたルアさんの重みが消えた。
「なっ──⁉︎」
驚きのあまり、目を見開いて後ろを見てみれば、俺の手を振り解き、俺たちとは逆方向に走り出すルアさんの姿があった。
「私が」
ルアさんが叫ぶ。
「私が
ルアさんの言葉は確かに俺の耳に届いたが、その意味を理解するのに、俺は数秒の時間を要してしまった。
彼女は今、俺たちとは逆方向に走っている。それはつまり俺たちを追う
彼女は、俺たち二人を逃そうとしているのだ。死が
「待っ──」
そんなこと許せるはずもない。だが、彼女の足取りには
俺の制止の声を振り切って、ルアさんは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます